本記事のレポーター陣(SpringOne Platform 2016参加チーム)
- NTTデータ:池谷智行、川崎真弘、倉元貴一、佐々木啓祐、本橋賢二
- NTT:岩塚卓弥
- Pivotalジャパン:槙 俊明
SpringOne Platformとは
SpringOne Platform(以下、SpringOne)とは、年に一度開催される、世界最大のSpring Framework(以下、Spring)に関する技術カンファレンスです。 世界各国からSpringの開発者、利用者がSpringの最新情報や開発ノウハウの交換を求めて集結します。
今回(2016年)は、「Pivotal Cloud Foundry」をはじめとするプラットフォーム製品のセッションが多く追加されました。 また、これまで同時開催されていたGroovyやGrailsに関するセッションが別カンファレンスに移転したこともあり、 イベントの名称も「SpringOne 2GX」からSpringOne Platformに改名されました。 この方針の転換は、カンファレンスに参加してみると、さらに実感できました。
まず、スポンサーの数と顔ぶれが大きく変化しています。 昨年はSpringと親和性の高い製品を販売する製品ベンダや、Springを利用して開発するシステム開発会社などが主なスポンサーとなっていましたが、 今年はAccenture、Google Cloud Platform、Microsoftといった大手ベンダーが参加し、 スポンサーブースの雰囲気も大きく変わりました(日本からは昨年に引き続きNTTデータがスポンサーとなっています)。
動員人数も、昨年の1000人規模から2000人以上と大きく増えたそうです。 日本からの参加者も、昨年は十数人であったところから30人前後に増え、 スピーカーとしてもセッションで1名、ディナータイムのライトニングトークで1名と、昨年から大きな進展がありました。
1日目の基調講演1「Transform How The World Builds Software」
SpringOne1日目の基調講演では、内容に大きな変化が見られました。 昨年まではSpringのロードマップの発表から始まりましたが、今年はPivotal Cloud R&D部門副社長であるOnsi Fakhouriさんによるスピーチに変わり、Cloud Foundryへの力の入れようがうかがえました(PivotalのCloud R&DはCloud FoundryやSpring全体の開発を行っている部門です)。
これには、昨年のSpringOneからテーマとして掲げていた「クラウドネイティブ」に必要な製品をフルスタックで提供しようとするPivotalの強い意志を感じました。
PivotalのOnsi Fakhouriさん(以下、Onsiさん)は基調講演の中で、「無策なマイクロサービス開発は失敗する」「適切な道具や知見を用いて、アプリケーションの変更やデプロイのコストを下げることが重要である」と主張しました。
Spring BootやSpring Cloudは開発フェーズにおいて、アプリケーションの複雑さを解消し、アプリケーションの変更を正しく管理するのに役立つでしょう。 また、Cloud Foundryは効率の良いデプロイを行うためのアーキテクチャを提供してくれます。 しかし、それだけでは理想的なソフトウェア開発としては不十分であり、 「課題管理や継続的インテグレーション(CI)/継続的デプロイ(CD)、ユーザからのフィードバックも含めた、 一連のソフトウェア開発サイクルを正しく回せることが最も重要である」(Onsiさん)というわけです。
残念ながら、これは技術的なアプローチだけでは実現できません。Onsiさんによれば、これは「Culture」の問題であるからです。そして、「Culture」の問題を解決するために「Pivotal Labs[1]」があるのだといいます。
Onsiさんは最後に「継続的に価値を提供し続けることができるソフトウェア開発へ変革するため、 PivotalはSpring、Cloud Foundryなどのプロダクトを提供するとともに、Pivotal Labsを運営している」と述べて、講演を締めくくりました。
注
[1]: プロダクト開発プロセスの「リーンスタートアップ」とアジャイル開発メソドロジーの「エクストリームプログラミング(XP)」を組み合わせて提供される、Pivotalのソフト開発サービス。クライアントが必要とするソフトウェアの開発に加え、最先端の開発手法をクライアント自身が習得することを目標とするため、受託開発は行わず、プロジェクトの全工程をクライアントとペアで遂行する点を大きな特徴とする。⇒Pivotal LabsのWebサイト
1日目の基調講演2「Springの歩み」
続いて、Spring Bootの開発リーダーであるPivotalのPhil Webbさん(以下、Philさん)が、 Rod Johnson氏の著書『J2EE Design and Development』(邦訳『実践J2EEシステムデザイン』)の出版から、Spring BootやSpring Cloudが生まれるまでの Springの十数年来の歩みを振り返りました。
Springが産声を上げた2002年頃から、アノテーションによるコンフィグの導入など世の中のニーズに合わせて進化を続けてきたSpringですが、 関連プロジェクトやその依存ライブラリが増加し、2012年までにはその管理が限界を迎えつつありました。 そこから今のSpring Bootの原型の開発が始まりました。
この原型にはJar-in-Jarや組み込みTomcatの思想、 現在のActuatorが提供している監視や管理のための機能がすでに備わっていましたが、当時の一番の問題はプロジェクト名を何にするかだったそうです。 Spring BootstrapやSpring Zeroといった候補もあった中、前者を短縮したSpring Bootが採用されることになりました。
そして2016年、IoTなどの普及が進む中で、システムにはさらなるスケール性が求められる一方で、許容ダウンタイムが短くなってきています。 そのような時代背景も後押ししたことで、「Spring BootやCloud Foundryを用いたマイクロサービスアーキテクチャが いっそう必要とされるに至っている」(Philさん)といいます。
最後に、Philさんは自身が重視していることとして、SpringやCloud Foundryなどがそうであるように、 システムを構成する技術がオープンソースソフトウェア(OSS)であることを挙げました。 「OSSであることにより、多くの人に利用してもらいフィードバックを得ることができます。 Springもそうして10年以上もの間、非常に多くの機能追加や機能改善を遂げてきました。 このスキームは今後もSpringには不可欠であり、本カンファレンスでも様々なフィードバックをしてほしい」(Philさん)
この講演を聞いた多くの聴講者は、Philさんらが各時代のニーズに応えるようSpringを設計し続けていることで、Springの人気は支えられているのだと改めて感じたと思います。
お知らせこのレポートを書いたメンバーで『Spring徹底入門』という本を書きました。手に取っていただけたら幸いです!