今年で5回目となるITエンジニア本大賞ノミネート作
翔泳社が主催するITエンジニア向けイベント「Developers Summit」の中で、近年人気となっているセッションが、「ITエンジニアに読んでほしい! 技術書・ビジネス書大賞」だ。この賞は2014年から始まった企画で、「出版社や刊行年は問わず、この1年を振り返っておすすめしたい技術書・ビジネス書」を、ITエンジニアが一票を投じて選ぶというもの。
毎年11月下旬にWebサイト上で第1次投票を募り、その結果を集計して両分野からベスト10タイトルを発表する。その中で、とくに投票数の多かった書籍トップ3をそれぞれ選出し、最終的にDevelopers Summit会場で大賞を選ぶ流れだ。
大賞書籍を選ぶポイントとなるのが、イベント会場で行われる著者(または編集者)によるプレゼンテーションだ。会場を訪れたITエンジニアを前に、自著の内容や特徴、読みどころを自由にプレゼンテーションしてもらう。
その内容を聞き、会場での最終投票で最も票を多く獲得した本が大賞となる。5回目となる今年も、集まった聴衆を大いに沸かせるプレゼンが繰り広げられた。今回ノミネートされた書籍は以下のとおり。
ノミネート書籍
技術書部門
- 『機械学習入門 ボルツマン機械学習から深層学習まで』大関真之著/オーム社
- 『アルゴリズム図鑑 絵で見てわかる26のアルゴリズム』石田保輝・宮崎修一著/翔泳社
- 『退屈なことはPythonにやらせよう――ノンプログラマーにもできる自動化処理プログラミング』Al Sweigart著、相川愛三訳/オライリー・ジャパン
ビジネス書部門
- 『大人の語彙力が使える順できちんと身につく本』吉田裕子著/かんき出版
- 『職場の問題地図 ~「で、どこから変える?」残業だらけ・休めない働き方』沢渡 あまね著/技術評論社
- 『スタンフォード式 最高の睡眠』西野精治著/サンマーク出版
※以下の本文では、書籍のサブタイトルは省略して記載。
『白雪姫』で機械学習を楽しく学ぶ本
最初に登場したのは、『機械学習入門』著者の大関真之氏。実は大関氏は、東北大学大学院 情報科学研究科 応用情報科学専攻の准教授で、「このセッションのために、大学の重要な業務をすべて投げ打って、仙台から駆けつけました」と語り、会場を沸かした。というのも、この本は大関氏の初の著書だからだ。
初の著書で機械学習というテーマを選んだ理由について、大関氏は「人工知能のベースとされている機械学習に興味を持つ人が増えていますが、そういう方々に、この技術の素晴らしさを広く知っていただきたいと思ったからです」と説明する。そして、この技術の素晴らしさや楽しさを、できるだけ多様な読者に広めるため、「入門書」という形式を選んだ。
だが、入門書というジャンルは実は非常に難しい。こうした専門性の高い技術本は、読み手がある程度の知識を持っていることを前提に解説が進んでしまうため、本当の初心者にはハードルが高い。
これについて、本書では2つの工夫がされている。まず、堅苦しい解説文ではなく、技術解説を進めるために「2人のキャラクターの対話」という形をとった。
そのキャラクターが、「鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰?」との問いかけに答える『白雪姫』の魔法の鏡と、お妃様の2人だ。「美しさ」を判断するために必要なデータとは何か、それをどう重み付けして評価するのかなど、童話を基に機械学習初心者でも楽しく読める。
なお、この鏡とお妃様の会話は、実は大関氏夫婦の会話がベースになっているという。セッションでは、「『その説明、全然わからない!』という妻の指摘を受けて、機械学習を初めて学ぶ人がどういう点に疑問を持つのかがわかりました。また、そのたびに表現も見直し、入門書としての『わかりやすさ』を追求しました」(大関氏)との裏話も明かされた。
そしてもう1つ、大きな特徴がある。本文中に、数式が一切でてこないことだ。「数学が苦手というエンジニアも無理なく学べるように」(大関氏)という思いから、イラストと漫画を主体にした。
大関氏は、「本書を読んだ方が、Twitterなどで写真付きで紹介してくれるのが何よりうれしい」と語り、より多くのITエンジニアに、本書で機械学習について学んでもらうことを期待している。