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「中の人」が教える! 奇跡の巨大IT系ボランティア団体ASFの組織運営とは?

The Apache Software Foundationのご紹介

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組織の構成要素

 次にASFの組織を見てみましょう。まずはエンティティと呼ばれる、非個人の構成要素です。

理事会(Board of Directors)

 理事会はASFの運営と監視に責任を持つ、会社で言うところの経営陣に当たります。ASFメンバーにより年1回選ばれ、慣例的に9人で構成されます。現在のメンバーはこのページに載っています。

プロジェクト管理委員会(PMC;Project Management Committee)

 理事会の決議によって設立されたPMCは、同じく理事会の決議によって承認されたコミュニティの管理について責任を持ちます。ここでコミュニティとは、ASF管理下のOSSプロダクトに関わる人々が形成する「共同体」のことであり、やりとりがメーリングリストで行われる仮想的な集会です。1つのOSSプロダクトに1つのコミュニティと考えていいでしょう。

 ちなみにLucene/Solrはこの組で1コミュニティです。PMCは1人議長(Chair)を選び、その人は自動的にASF幹部(Officer)となります。Lucene/Solrコミュニティでは年1回議長を入れ替えています。慣例的に現議長が交代時に「次のChairには誰々を推薦します」と勝手に宣言して、すぐさま投票に入り、問題がなければその推薦された人が次の1年間議長を務める、ということがここ5年ほど続いています。

 「投票」もメーリングリスト上で行われます。プロダクトの開発や利用に関するやりとりが行われるメーリングリストは、誰でも参加できそのアーカイブも公開されていますが、PMCのメーリングリストは非公開であり、PMCのメンバーしか見ることができません。またPMCはOSSプロダクトを公式にリリースするかどうかをも投票で決定します。その投票もメーリングリストで行いますが、そのメーリングリストはPMC専用のものではなく、開発者用のメーリングリストが使われ、投票の経過は誰でも見ることができます。

幹部(Officers)

 理事会によって選ばれたASF幹部は、団体の日常のことがらを監督します。幹部はこのページで見ることができます。

 次に個人(individual)の構成要素です。

ユーザ

 ASFのOSSプロダクトを使う人です。

開発者(Developer)

 ユーザの中でも特にOSSプロダクトを作ったり改善したり、ドキュメントを書いたりする人たちです。Contributorとも呼ばれます。

コミッター(Committer)

 開発者の中でもソースコード管理システムのレポジトリに対して書き込み権限が付与された人たちです。apache.orgのメールアドレスがASFから与えられます。コミュニティの運営に責任を持つPMCによりコミット権限が付与されます。

 コミッターは前述の開発者の中から有望な人がPMCによって選ばれます。「有望」の定義はコミュニティによっていろいろあろうかと思いますが、共通するのはコードが書けかつ読めて、(主にメーリングリストを使った)開発者同士/ユーザ同士のコミュニケーションもうまく取れる人です。プログラムが書けるだけではASFでは認められません。コミュニティによっては、コードが書けなくてもドキュメントをメンテナンスする人、ということでコミット権限を与えられることがあります。

 私は2008年5月にLucene/Solrコミッターに就任しました(コミッター一覧)。今でこそコミッターは70人(2018年7月現在)にもなりますが、私の就任当時は20人もいなかったのではないかと記憶しています。SVNでさかのぼって調べればわかりますが、面倒くさいので勘弁してください。

 私のときはErik Hatcherさんに「コミッターにならない?」とメールで誘われました。当時のメールはどこかに行ってしまいました。まだ一度も直に会ったことないです > Erikさん。自分の引退までには一度くらい会ってみたいものです > Erikさん。

 昨年4月には私はOpenNLPのコミッターにも就任しました。このときはJörn Kottmannさんに「あなたにはOpenNLPのPMCによってコミット権限が付与された」といきなりメールが来ました。Lucene/Solrの場合は前もって候補者本人に推薦しようとするPMCメンバーが声をかけておいてPMC内の投票にかけますが、OpenNLPの場合はPMC内で「こいつコミッターにしようぜ」という話があって本人に確認することなく投票が行われ、投票が通ったあとに本人に「あなたにはコミット権限が与えられました。おめでとうございます」という通知が来ます。コミュニティによっていろいろあるということですね。

 OpenNLPのコミッターは現在23人、このうちここ1年ほどコミッターとしての活動がある人は私も入れて10人以下です。メーリングリストがLucene/Solrにくらべると賑わっていませんが、実はSlackでコミッター同士のやりとりが結構活発に行われています。私は時差の関係で夕方または早朝でないとリアルタイムに会話に参加できませんが、開発する上でのそのコミュニティ特有の「お作法」を尋ねたりするのにリアルタイムな会話手段があるということと、(OpenNLPはGithubを活用しているので)Githubのリンクを参照しながら会話するのにOpenNLPのSlackのコミュニケーションは心地よく感じています。

 OpenNLPは言語判別の機能を持ちますが、そのせいかどうかは知りませんが、各国語で挨拶するのがはやっています。例えば「@here Guten Morgen.」てな具合です。時差の関係で私はそのメッセージを夕方に見るのですが。

PMCメンバー

 PMCの構成要員です。コミッターと同じくコミット権限を持ちます。通常はコミッターをある期間努めているとPMCになるように既存PMCメンバーからお誘いが来ます。ちなみに私はLucene/SolrもOpenNLPもどちらもPMCメンバーです。

PMC議長

 PMCのトップです。形としては理事会から任命されることになっていますが、PMCメンバーの中から選ばれ、理事会が追認するのが実体です。

ASFメンバー

 ASFの”株主”あるいは”オーナー”としてASFを「ケア」します。既存のASFメンバーから推薦を受けたコミッターが、やはりASFメンバー専用メーリングリスト内で行われる投票によりASFメンバーに選ばれます。理事会の理事になるのに立候補することもできます。年次総会に参加する資格が与えられます。

数字から見るASF

 ASFのサイトなどで公開されているASFの組織やOSSプロダクトにまつわる「数字」をご紹介します。なお、数字は執筆時現在(2018年7月)のものです。

トッププロジェクトの数 275 https://projects.apache.org/projects.html?name
Incubatorプロジェクトの数 54 https://projects.apache.org/projects.html?name
コミッターの人数 6775 Timelinesのページ
ASFメンバーの人数 845 ASFメンバー

その他

 Statisticsのページを見ると各種統計値を見ることができます。左上の円グラフを見ると、使われているプログラミング言語の割合が読み取れます。執筆時現在、第1位はJavaで約46%、次いでC++が約12%となっています。割合といってもOSSプロダクトの割合ではなく、プログラムの行数です。このページの中ほどにはIssueの数やメーリングリストのやりとりの数が示されています。いずれも時間経過とともに増えており、ASFがますます成長していく可能性をうかがわせます。

 このページの一番下は、最新30日間の国別のダウンロードミラーの活発度を示しています。OSSプロダクトをダウンロードするときは、近くのダウンロードミラーサイトが選ばれますので、「ダウンロードミラーの活発度」はそのままダウンロードが多い国を示していると見ていいでしょう。その上でこの世界地図を見てみると、米国が多いのはうなずけますが、それ以上に多いのが中国となっていてなるほどと思わせます。

 Timelinesのページを見ると、毎月どれくらいのASFコミッターが誕生し、総計でどのくらいのコミッターがいるのか、グラフで見ることができます。本記事執筆時の2018年7月は、31人のコミッターが誕生し、合計6775人のコミッターがいる、と読み取れます。

 コミッターの多い順にプロジェクトを見ることもできます(リンク)。これによると、Apache Hadoopが最もコミッターの人数が多いプロジェクトとなっていることがわかります。もっとも、すべてのプロジェクトが掲載されているわけではなさそうです。なんといっても70人の大所帯であるLucene/Solrプロジェクトが載っていません。

次のページ
ASFとそのOSSプロダクトの特徴

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この記事の著者

関口 宏司(セキグチ コウジ)

株式会社ロンウイット創業者兼社長。Apache Lucene/Solr と OpenNLP のコミッターおよび PMC メンバーを務める。Apache Lucene/Solr/Ant などの著書、監修本あり。ブログツイッターで情報検索や自然言語処理に関する情報発信を行う。趣味は散歩と読書で、休日は文庫本を持って東京神田〜丸の内〜皇居周辺などをうろうろしている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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https://codezine.jp/article/detail/10991 2018/08/10 14:00

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