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「中の人」が教える! 奇跡の巨大IT系ボランティア団体ASFの組織運営とは?

The Apache Software Foundationのご紹介

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 The Apache Software Foundation(ASF)はApache HTTP サーバーやTomcatなどの誰もが知るOSSプロジェクトを束ねる非営利団体です。GithubなどであまたのOSSが公開されている昨今、多数のユーザーからの支持獲得に成功した一部のOSSプロジェクトの裏では、それを支えるしっかりした組織運営があります。 まもなく20周年を迎えるASFという組織を「中の人」が紹介します。本記事は、ロンウイットのブログ(下記)を加筆修正したものです。

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The Apache Software Foundationは奇跡の団体?

 The Apache Software Foundation(以下 ASF)は米国に本拠地を置く非営利団体です。この記事を読んでいるほとんどの方は、開発者の立場あるいは利用者の立場という違いはあれど、ソフトウェア業界に何らかの形で関わりを持っていると思いますので、ASFの名前やそこで管理されているOSS(オープンソース・ソフトウェア)の製品をいくつかご存じかと思います。しかし、ASFという団体自体はどうでしょうか。私も含めて「よくわからない」という方がほとんどではないでしょうか。

 ところで私は、情報検索の専門企業である株式会社ロンウイットの代表 関口と申します。今年3月のことになりますが、私はASFにメンバーとして加入することになりました。ASFメンバーとは、株式会社における株主のような役割です。

 つまり、ASFを運営する経営陣を選ぶ権利(投票権)を持つ一方、ASFが経営陣によって正しく運営されているか、監視する義務も負います。ASFメンバーになったのは今年の3月ですが、Lucene/Solrコミッターは2008年5月から務めており、そこから考えればASFに関わるようになって今年でちょうど10年になります。

 これまではSubversion(近年ではGitに移行)によるソースコード管理、および主にメーリングリストによる、コミュニティ内の円滑なコミュニケーション維持、さらには(PMCとして)新しいコミッターの選出や脆弱性問題などを気にしているだけでよかったのですが、ASFのオーナー(=株主)となって団体運営に関わるとなると、「ん?ASF?よくわかりませーん…ヽ( ´_つ`)ノ ?」というわけにはいかなくなってきます。

 そこで改めてASFについて調べることにしました。といっても、ASFのWebページに載っていることを改めて読んでみた、というだけです。まあせっかくなのでその知識をここで書き残しておこう、ということで書いてみます。もっとも、ほとんどのことは(肌感覚も含めて)わかっていることばかりでした。唯一私が知らなかったのは、ASFメンバーという存在です。一部の人が「自分はASFメンバーである」と言っているのを聞いてそういう用語として知っていましたが、それがなんなのか、意識して調べることもなく、その結果これまでよくわかっていませんでした。

 今回自分もその仲間に加わることになり、ASFメンバーになることに承諾するためにASFメンバーの権利義務規則を読み、改めてその存在を意識した上で「ASFってどうやって運営されているんだっけ?」と思いながらASFのWebページを読んでみた、ということです。

 ところで私はASFを「奇跡の団体」だと思っています。例えば会社なんかだと「起業した会社のうち、80%が最初の5年間で廃業し、残った会社のうち80%が次の5年間で廃業する。この結果、ビジネス全体の4%しか生き残ることができず、10年以内に96%が廃業する」などといったことをよく聞きます。ボランティア団体と会社は比較できないとは思いますが、利益を追求しない団体、しかもプログラマーという世間で最も扱いにくいものの1つとされる人種の集まり(笑)をこれほどの長期にわたって(来年で20周年!)今なお活発に活動・成長させているのは見事であり、まさに奇跡と呼んでいいのではないでしょうか。

ASFの歴史

 まずは簡単な歴史からご紹介しましょう(参考:ASFの歴史)。ASFはその前身で自らを「Apache Group」と名乗るグループによって1999年に設立されました。Apache Groupはそれをさかのぼること4年前の1995年、NCSA(アメリカ合衆国国立スーパーコンピュータ応用研究所)が開発しユーザも多かったHTTPサーバのメンテナンスを有志が引き継いだことが始まりでした。その中心人物だったBrian Behlendorfが最新のNCSA版に当てるパッチファイルを収集し、Apache HTTPサーバの最初のリリースにこぎ着けました。

 その最初のリリースバージョンが一連のパッチからなるサーバということで「a patch server」とささやかれたことからApache(サーバ)という名前になった、という話を聞いたりしますがどうやら後付けのようです。Apacheという名前の正しい起源は、ネイティブアメリカンのアパッチ族に対する尊敬の念に由来しているということです。まあ、アパッチ族に由来しているということで私はホッとしています。もし「a patch server」の方だったら、ASFのロゴは現在の赤みがかった鳥の羽ではなく、カーキ色、よくてネイビーのつぎはぎのロゴとなってしまい、ここまで人々を魅了して発展することもなかったでしょうし、結果Apache Luceneやその後のApache Solrも登場することなく、現在私はロンウイットで社長業をしていなかったに違いありません。

Apache
Apache and the Apache feather logo are trademarks of The Apache Software Foundation.

 ところで前出のBrian Behlendorfさん、ASFメンバーの一人として今でもメンバーページに掲載されています。ASF管理下の各プロジェクトのコミッターリストと同様、ASFメンバーリストもメンバーとして加入した当人がソースコード管理システムに加入の事実を自ら記録し、コミットするのが習わしとなっています。そこでBrian Behlendorfさんがいつ登録されたのか興味津々でsvn logで見てみました。しかし載っていません。さすがにApache Groupの当初から現在行われているような登録手順はとられていなかったのでしょう。

 ちなみにASFメンバーリストの最初のコミットログは、組織がASFとなる1999年よりも前の1997年10月でした。リビジョンはなんとr64!ちなみにその当時、私はまだDEC社でOSとして*nixではなくてVAX/VMS、ネットワークプロトコルとしてはTCP/IPではなくDECnetをいじっていて、オープンソースなどという概念からほど遠いところにいました。

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この記事の著者

関口 宏司(セキグチ コウジ)

株式会社ロンウイット創業者兼社長。Apache Lucene/Solr と OpenNLP のコミッターおよび PMC メンバーを務める。Apache Lucene/Solr/Ant などの著書、監修本あり。ブログツイッターで情報検索や自然言語処理に関する情報発信を行う。趣味は散歩と読書で、休日は文庫本を持って東京神田〜丸の内〜皇居周辺などをうろうろしている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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https://codezine.jp/article/detail/10991 2018/08/10 14:00

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