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漆原氏が語る「一生エンジニア」でいる方法――理論と情熱で35歳定年説を論破する【デブサミ2019】

【14-A-1】❤一生エンジニアを楽しもう❤夢中が最高!!

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 「皆さん、コード書いてますか?」――ITエンジニアの祭典「Developers Summit 2019」は、そんな呼びかけから開幕した。拡大鏡をかけながらでも、コードを書き続ける生涯を目指す。そう語られたこのセッションは、「エンジニア35歳定年説」という「嘘」を論破するための、理論と情熱にあふれた内容であった。セッション内では科学的なエビデンスを論拠とする数々の方法論が示され、そこには「一生エンジニア」を実現するためのノウハウが詰まっている。それを目指すエンジニアの方はもちろん、若手エンジニアの意欲向上に悩むリーダーや、エンジニアの心理がわからない管理職、離職率に悩む人事担当など、エンジニアに関わる様々な職種の方々も、このセッションから課題解決のヒントをつかんでいただけるだろう。本稿では、ベストスピーカー1位を受賞した、ウルシステムズ 漆原茂氏のセッションをお届けする。

目次

大事なのは、「内発的動機」を高めること――レゼスニエウスキーの陸軍士官学校における実験

 「エンジニア35歳定年説」によれば、我々エンジニアは一生コードを書いて生きていくことはできず、いずれマネージャーや上流コンサルにスキルチェンジしなければならない。IT業界でまことしやかに語られるそんな定説に触れた上で、漆原氏は、それを「くそくらえだ」と一笑してみせた。代表取締役社長でありながら、自らを今もエンジニアであると語る氏は、壇上で「一生エンジニアでいよう」と呼びかける。そして、それを実現するために我々はどう生きるべきか。その方法論をひとつひとつ語った。

 氏が最初に触れたのは「内発的動機」という観点である。ロボットやAIなどの先進技術情報から、新しいスマホを触るときのような身近な最新技術体験まで、多くのエンジニアは日々テクノロジーを楽しんでいるはず。そのような日常を例に挙げ、内発的動機のひとつである「楽しむ」というモチベーションがエンジニアにとっていかに重要であるかに触れていった。

ウルシステムズ株式会社 代表取締役社長 漆原茂氏
ウルシステムズ株式会社 代表取締役社長 漆原茂氏

 根拠として挙げられたのは、エール大学のレゼスニエウスキーらの研究だ。アメリカの陸軍士官学校の生徒延べ1万人以上に対し、入学動機と後のキャリアの因果関係を調査したものである。それによると、志望理由に外発的動機(役に立ちたい、偉くなりたい、家族を守りたいなど)を挙げた生徒に比べ、内発的動機(楽しそう、好きだからなど)を挙げた生徒の方が圧倒的に長続きしたという。

 漆原氏はこの研究成果を引き合いに出し、それはエンジニアにも当てはまるとした。内発的動機が高く楽しんで技術に没頭する人は、自然と熟達しているし、最終的には稼げている。加えて、精神的にも健康で、幸せなオーラが出る人間になれている、と語った。さらに、そういった能力を持つ人たちはお互いにひかれあい、内発的動機の高い者同士でさらに高め合う環境にたどり着いているという。

「やりたいこと」の見つけ方――ストラック博士の実験

 しかし、内発的動機を高めることの有効性を理解しても、そもそも「やりたいことが見つからない」と嘆く人も多い。「やりたいこと」とは、どのように見つけるべきなのか。その答えを、漆原氏はマンハイム大学の心理学者、フリッツ・ストラック博士らの実験から読み解いた。その実験とは、被験者を3種類の条件に分けて漫画を読ませるというものだ。具体的には(1)ペンをストローのようにすぼめた口にくわえて読む、(2)ペンを手に持ったまま無表情で読む、(3)ペンを横にし歯で噛んで読む、という分類である。この実験によれば、最も漫画を愉快だと評価したのは(3)の被験者であり、その理由は「口角が上がっていたから」、つまり笑顔に似た表情を作っていたからと結論づけられているという。

 この実験結果をもとに解釈できるのは、「意識より無意識の方が先にある」ということだと漆原氏は語る。楽しいから笑うのではなく、笑っているから楽しくなる。気分がいいから親切にするのではなく、親切にすると気分がよくなってくる。それは仕事も同じで、仕事をしているうちに気分がよくなり、モチベーションが上がってくるということ。つまり、行動を起こすことで内発的動機は高まってくるとして、やりたいことを見つけるために、まず行動を起こすことを推奨した。

加齢で変わること、変わらないこと――エビングハウスの忘却曲線と、前頭葉

 行動を起こし、それを続けること。特に、5年ごとともいわれるテクノロジーの波があるIT業界では、ひとつの技術で一生渡り歩いていくことは現実的ではない。そのため、新しい行動を起こし続け、サーファーのようにその波を渡っていくことが重要である。

 しかし、年を取り能力が衰えていく中で、その「サーフィン」を一生継続できるのか。漆原氏はその懸念について、「エビングハウスの忘却曲線」をもとに否定した。ドイツの心理学者ヘルマン・エビングハウスが発見した実験結果で、学習した情報が指数関数的に失われることを示した有名な曲線であるが、これによれば、その結果に年齢差はほとんどないとされる。つまり、記憶の法則は10代と50代でもほぼ変わらず、記憶力は加齢の影響を受けないのだと説明された。

 だが、それにも関わらず、我々はなぜ若年期と比較して記憶力の低下を感じるのか。脳科学の観点によれば、違いは「前頭葉」にあるという。前頭葉は「根気」に関係する機能を司り、経年劣化する部分であるが、加えていくつかの行動によりさらに衰えてしまう。それは例えば、自らネガティブな発言や行動をしたり、他者のそういった行動に触れること。また、思考のいらないルーティンワークを続けること。こういった行動により、前頭葉の老化は飛躍的に加速してしまうそうだ。

 逆に前頭葉を活性化させるにはどうするか。それは、日々に「プラスのサプライズ」があったり、幸せオーラのある仲間とのふれあいといった、よい刺激があること。また、未来に関する楽しみを持っていること。つまり、まず行動を起こすことで内発的動機を高めたエンジニアになれれば、世間から良い刺激を受け、良い仲間とも交流が持てるようになれる。そうなれば前頭葉の衰えを防ぎ、テクノロジーの波に乗り続けることができる、と語られた。


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著者プロフィール

  • 西野 大介(SOMPOシステムズ株式会社)(ニシノ ダイスケ)

     独立系SIerにて金融系システムの開発経験を経た後、現在はSOMPOシステムズ株式会社(損保ジャパン日本興亜グループ)に勤務。開発業務では、損保の基幹系システムをオープン化する大規模案件「未来革新プロジェクト」に参画中。本業以外では、CodeZineの連載をはじめ、国内/海外の各種カンファレンスへ...

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