スタートアップ業界で見られるAWS技術トレンド(2)
データ(ログ)活用
コンテナでもサーバーレスでもそれ以外でも、常に多くの方から相談をいただくのがデータ分析基盤の構築方法に関するトピックです。
「ログをどうやって扱えばよいのか分からない」といったところから、「とりあえずAmazon S3にログを入れているが活用できていない」、「ビジネス要件上データの分析をする必要が出てきた」、あるいは「Amazon Kinesis、AWS Glue、Amazon Athenaを使ったデータ分析パイプラインの設計について」などです。また、データの蓄積は後述する機械学習基盤の構築とも密接な関係があります。
AWSのスタートアップソリューションアーキテクトが多くの場合でアドバイスするのは、「まずはAmazon S3をデータレイクにすること」です。その上で、Amazon S3にデータを届ける方法や、Amazon S3上のデータを加工(ETL)する方法、そのデータを利用または可視化する方法について、各社のビジネス上のニーズを深くお聞きした上でディスカッションすることがとても多いです。
CI/CD、デプロイプロセス
前述のDockerやサーバーレス、あるいはAmazon EC2ベースでも、デプロイパイプラインを整備したいといったご相談をよくいただきます。特に、スピード重視で作ってきたシステムをこれからスケールさせていくにあたって運用面を整備したい、というスタートアップならではの相談も多いです。
具体的に、現状はSSHで各サーバーに入ってgit pullしているといった状況のご相談や、Capistranoを使っているがAuto Scalingをするにはどうすればよいか、Blue/Greenデプロイを導入したいなど幅広い範囲の話から、DockerベースでCI/CDを組むとき、いつDocker Imageをbuildしpushすべきか、そのときのタグはどんな値にするのがよいのか、といった明確な話題までさまざまです。
多くのスタートアップが使っているGitHubやSlackを絡めて、AWS CodeBuild、AWS CodeCommit、AWS CodeDeploy、AWS CodePipelineなどを交えて最適な手段を探るお話をよくしています。また、アプリケーションだけでなくInfrastructure as Codeを実践するツールとしてTerraformはポピュラーですが、プログラミング言語で記述できるAWS CDKも注目を浴びています。
余談ですが、「マイクロサービス化したい」といった相談を受けることもよくあります。そのとき、組織とサービスの関係はどうなっているか? DevとOpsは分離していないか? そもそももろもろが自動化できているか? などといった流れから、CI/CDの整備の話になることもしばしばあります。
セキュリティ
セキュリティはスタートアップにとって最も難しい話題の1つではないかと思います。金融や医療など何らかの基準、ガイドラインが求められるスタートアップでは、どのようにそれを満たせるのか手探りになりがちです。または、エンタープライズ企業との協業が進みつつあるスタートアップでは、エンタープライズ企業からセキュリティチェックシートの記入を依頼され、対応方法をご相談いただくこともよくあります。
最近のトレンドとして、協業先のエンタープライズ企業もAWSユーザーである場合、スタートアップとエンタープライズ企業がAWS PrivateLinkで簡単かつセキュアに接続するようなケースが散見されるようになってきたことが挙げられるでしょう。
また、技術の話からは少し外れますが、最も回答するのが難しいご相談は、「セキュリティをどこまでやればよいのか自分たちにはよく分からないので教えてほしい」といった内容です。AWSは、豊富で詳細なセキュリティを実現するためのサービスや支援を提供していますが、あくまでもセキュリティに関する要件の出元はお客さま自身であり、ビジネスの状況次第になります。われわれが「これだけやっておけば御社は安心安全です」と言えるものではありません。…といったお話を、よくします。
機械学習
これも顕著にご相談が増えているトピックの1つといえるでしょう。ひと言に機械学習といっても、プロダクトメインのスタートアップが大きな付加価値として機械学習を取り入れようとしているのか、機械学習をサービスのコアバリューとする機械学習スタートアップがより高度なことを実現しようとしているのかなど、いくつかのパターンがあります。
中でも、機械学習エンジニアの方から、データの前処理、学習、推論のそれぞれの最適な方法をご相談いただき、Amazon SageMakerを軸に提案することが増えています。最近では、2019年6月に開催したAWS Summit Tokyo 2019の基調講演にて株式会社シナモンのCEOである平野未来さま、シンセティックゲシュタルト株式会社のCEOである島田幸輝さま、そして株式会社メルカリのCTOである名村卓さまがそれぞれの事業における機械学習をAWS上でどう実現しているかについてご紹介いただきました(リンク先はそれぞれの講演書き起こし記事です、ぜひご覧ください)。
また、機械学習のパイプラインやオペレーションが成立すれば終わりではなく、それをサービスに生かすためにはどうアプリケーションとインテグレーションするかといった話題もよく出るトピックです。そこからは、推論用のAPIをどうスケーラブルに、フロントのWebシステムあるいはバッチ処理から使うか、といった議論になることも多いです。
以上、AWSのスタートアップソリューションアーキテクトが最近見るスタートアップが注目する技術トレンドを挙げてみました。
もちろんこれら以外もさまざまなご相談を受けており、AWSはこういった「よくある課題」と「それに対する考え方と参考リンク集」をまとめた資料を定期的に作成し、発表しています。2019年10月現在の最新版は「[AWS Start-up ゼミ] よくある課題を一気に解説! 御社の技術レベルがアップする 2019 秋期講習」ですが、資料内に過去分へのリンクも含まれています。そちらもぜひご覧ください。
重要なのは、コンテナ技術やマイクロサービス、サーバーレスといった技術要素を導入すること自体が目的ではないという点です。これらの技術やAWSのサービスは手段であり、それぞれに特徴や適切な使い方があります。ビジネスや開発のワークフローにおいて「何を達成したいのか」、つまり要件に対して合理的な技術を使うことが大切です。
AWSによるスタートアップ支援
最後にAWSがどのようにスタートアップを支援しているのか、簡単にご紹介したいと思います。
ソリューションアーキテクトによる技術支援
これまで書いてきたように、AWSのソリューションアーキテクトは、AWSを中心に、かつ全面的に技術面からスタートアップを支援しています。ソリューションアーキテクトによる技術支援は無料です。詳しくは、お近くのAWS担当者または問い合わせフォームまでご連絡ください。
AWS Activateプログラム
スタートアップがビジネスに集中できるよう、AWS利用料のクレジット、トレーニング、テクニカルサポート(ビジネスプラン)クレジットなどを提供するスタートアップ支援プログラムです。AWS Activateは、アクセラレーター、インキュベーター、VC等に出資を受けているスタートアップ企業が対象となっています。詳しくはお近くのAWS担当者、またはアクセラレーター・インキュベーターやVCの担当者にお問い合わせください。
AWS サポート
AWSのサポートは、AWSのクラウドサポートエンジニアによる技術的な問い合わせ窓口です(AWS Activateプログラムが適用される場合、ビジネスプラン用のクレジットが得られます)。スタートアップにとって、開発中・本番運用中に不明点が生じたとき、それをいかに効率よく解決するかは死活問題になり得ます。そんなとき、AWSサポートは心強い味方となります。
AWS Loft Tokyo
AWS Loft Tokyoは、2018年10月にオープンした、スタートアップとデベロッパーのためのコワーキングおよびイベントスペースです。有効なAWSアカウントをお持ちの方はコワーキングスペースを利用でき、作業中困った際にはAsk An ExpertカウンターでAWSのソリューションアーキテクトやサポートエンジニアに技術的な質問をすることができます。どんな質問がされているのかは、ぜひAWS Startupブログの連載 週刊 Ask An Expert シリーズをチラ見してみてください。
これら以外にも、われわれはスタートアップのためにさまざまな支援を提供しています。例えば、元スタートアップCTO経験者による技術面以外でのメンタリング、Amazonとのビジネス面のコラボレーションなどです。何でもやる…とは言えませんが、困ったことがあったらためらわずにご相談いただけるとうれしいです。
というわけで、今回はアマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社のスタートアップソリューションアーキテクト塚田より、クラウドのおさらい、スタートアップにとってAWSを使うメリット、スタートアップ技術トレンド、AWSが提供するスタートアップ支援について紹介しました。
次回以降は注目のスタートアップ企業から、さらに実践的なAWS活用術を教えていただきます。第2回は株式会社フロムスクラッチさまによる寄稿です。お楽しみに!