ちょっとしたテクニック
モブワークを実施する際、下記の点に注意すると良いでしょう。
チーム外のゲスト参加もOK
マネジメントしかしていない上司や、こういった働き方に興味をもっている隣の部署のエンジニアなどの参加も歓迎しましょう。現場に対して、課題意識やモヤモヤを持っている人たちを積極的に巻き込んでいきましょう。新しい働き方に興味を持つ人は少なからずいるはずです。
コミュニケーションが苦手なチームで、混沌としてしまったら
混沌とすることもあるでしょう。でもそれは、モブワークによって、コミュニケーションが上手にできていないチームの状況が露呈されただけです。それが現在のチームの総合力なのです。不都合な真実に向き合いましょう。別途、チームビルディングやコミュニケーションのカイゼン策を打っていきましょう。
誰かがリーダーになることではなく、全員がリーダーシップを発揮できパフォーマンスの高いチームを目指しましょう。
専門外で貢献できないと感じたら
ユーザー目線の純粋な疑問をぶつける機会です。自分たちのことは自分たちが一番知っているようで、実は客観視できていないものです。純粋に素人目線で分からないこと、わずらわしさを感じるユーザーインタフェースなど、問いを投げかけましょう。暗黙の前提や論理の飛躍など、顧客に押し付けていることを浮き上がらせるのです。
エピローグ
私は、キャリーケースに自分の私物を収めきって、ようやく一息ついた。1年ほどの間だったけど、ずいぶん荷物が増えたものだ。片付ける様子を眺めていたチームメイトが、落ち着いたのを見計らって声をかけてきた。
「今日が最終出社日になるんでしたっけ。後は、有休を消化して、月末に退職という感じですか」
「いえ! もう今日が退職日です。この後は、もう連絡も取れませんからねー」
いじわるそうに言ってのけるが、藤沢さんには全く刺さっていないようだ。お前なんかいなくても何とでもなるわと、心の声が聞こえる。
「寂しくなるね。いつでも戻ってきたら良いよ。業務委託でもできるし」
「片瀬さん、ありがとうございます。お金に困ったら……連絡します!」
“なるようになる”とは、片瀬さんから学んだことだった。片瀬さんは真面目な面持でうなずいた。
「その時はまた、朝会から始めましょう」
御涼さんは、私が最初にここへ来た日のことを思い出しているのだろう。さすがにぐっときて、私は何も言えず、ただうなずいた。
「……これをあげるよ。」
境川さんははなむけとばかりに、真新しいキーボードを私にくれた。キーボードの真ん中が真っ二つに割れているタイプのもので、人間工学的に最適な形状なのだという。
「ありがとうございます。でも、私無刻印のやつ使いこなせるかな……」
「刻印あるやつと並べて、見比べながら使ったら良いんじゃない」
片瀬さんを無視して、最後に鎌倉さんから声がかかるのを待った。あれから巻き込みセッションを開くたびに、他の部署の人から執行役員まで参加してくれるようになった。社内の鎌倉さんの注目度はやっぱり高くて、鎌倉さんが仕切る会はたいてい賑わっていた。
何よりもプロダクトそのもの以上に、このチームの取り組み、チーム開発そのものについても発信するようになったことで、他の部署やチームの関心を引きやすくなった。みんな開発の進め方自体に課題を抱えて、悩んでいるのだ。そんな他部署の人たちがいつでも相談に来れるよう、プロジェクトルームの外側にちょっとした雑談ができるスペースを皆で作った。何となく、近寄りがたかったこのチームの場所に、人が集まるようになってきていた。きっとチームは存続できるはずだ。
「ここまでは想定していたけど、お前がやめることは想定外だった」
「もともと、ここへ来るときにやめようと思っていましたから。やっぱり私の持っているものではまだまだってこともよおく分かりました。出直してきます」
「片瀬と違って俺は人を雇う権限があるので、いつでも戻ってこれるからな」
そう言って、鎌倉さんは片手を差し出した。私は、その手をつかんだ。温かい手だった。
「ありがとうございます。いろんなものを見てまた戻ってきます」
私はつかんだその手を離せなくならないうちに、自分から離した。
皆は皆のジャーニーを続ける。私は、私のジャーニーをこれから始める。この先の道はまたどこかでつながっている。そんな気がしてならなかった。
今回の原則の解説:「みんながヒーロー」と「視座を変える」
今回のテーマ「モブワーク」の背景にある原則は、「みんながヒーロー」と「視座を変える」です。下記3点を押さえておきましょう。
- そこにいる場ですべてが起こっている。だから誰か1人の手柄でも失敗でもない。失敗も成功も全員の学びであり、全員がヒーロー
- 役職や業種の役割を越えて協力するため、常に脳内を露出するかのごとく表明と密なコミュニケーションが必要。対立しないように全員で心理的安全性の向上を心がけざるを得ない
- プロダクトオーナーの視点、顧客の視点・デザイナーの視点・プログラマーの視点、経営者の視座や現場の視座を行ったり来たりしながら、短期的な成果と長期的な事業の成長を全員でマネジメントする
本連載を深く理解するには、書籍『カイゼン・ジャーニー』の併読がオススメ!
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CodeZine Academyにて、著者の市谷氏、新井氏を講師に迎えたセミナー「機能するチームを作るためのカイゼン・ジャーニー」を開催します。「講義」と「ワークショップ」で、書籍や連載の内容をさらに実践的に学ぶことができます。以下の通り、申し込み受付中です。
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