SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

CodeZine編集部では、現場で活躍するデベロッパーをスターにするためのカンファレンス「Developers Summit」や、エンジニアの生きざまをブーストするためのイベント「Developers Boost」など、さまざまなカンファレンスを企画・運営しています。

イベントレポート

クリエイティビティを阻害する最大要因は「時間」、Adobe XDではオンラインでのコラボ機能を大幅強化【Adobe MAX Japan 2019】

「Adobe MAX Japan 2019」レポート

  • X ポスト
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

2019年はコラボレーション機能の拡充に注力した「Adobe XD」

 午後に行われたブレイクアウトセッションの一つとして、アドビ システムズ株式会社のマーケティングマネージャー轟啓介氏が、「コラボレーションを加速するAdobe XDの新機能と今後の進化」と題し、Adobe XDの最新動向をデモを交えつつ紹介した。

アドビ システムズ株式会社 マーケティングマネージャー 轟啓介氏
アドビ システムズ株式会社 マーケティングマネージャー 轟啓介氏

 50以上の製品やサービスを提供しているアドビは、世界各国さまざまな部門をまたいだチームが100以上あり、ステークホルダーも多岐にわたる。例えば、ボタン1つをとってもOSやブラウザなどの違いから1100種類近くに及ぶそうだ。デザイン作業を事故なく円滑に進めるためには、体系的に管理する必要がある。それを実現するのが、「Spectrum(スペクトラム)」という独自のデザインシステムだ。これを使い、デザインに関するあらゆるルールを一元管理している。スタイルガイド、UIキット、ソースコードなどが含まれており、一部のスナップショットは一般公開されている。

製品数やOSやブラウザの違いを考慮すると、ボタンのデザインだけでも膨大な数に上る
製品数やOSやブラウザの違いを考慮すると、ボタンのデザインだけでも膨大な数に上る

 「Adobe XD」は、WebサイトやモバイルアプリのUX/UIデザインを担当する製品で、デザイン・プロトタイプ作成・共有と、デザインのワークフロー全般にわたって支援する。

 Adobe XDは2017年10月に、米国で開催されたAdobe MAX 2017のタイミングで正式リリースされた。アドビ社内でもPhotoshopやIllustratorを始めとするアプリやサービスの開発に使われており、Adobe XD自体もAdobe XDを使って開発されている。

 また、サブスクリプションモデルで提供されている「Adobe XD」は、ベータ版の段階からアジャイル開発・リーン製品開発に基づいて、実際のユーザーフィードバックをもとに、早く堅牢な形で開発され続けている。毎月新機能がリリースされており、2年経った現在では150以上の機能が追加されているという(2019年11月リリース分がバージョン24)。

 このように着実に進化をし続ける「Adobe XD」だが、轟氏は2019年の開発テーマを「コラボレーション」だと説明する。複数人で制作する場合はもちろん、例え1人で制作する場合でもクライアントとのやり取りなどが発生するため、制作活動に関わる全員にとって主要な領域だ。特に、「デザインシステム」と「クラウド」のサポートを強化したという。

 中でも、轟氏が注目の機能として具体的に紹介したのは、「コンポーネント」「リンクされたアセット」「リアルタイム共同編集」「ドキュメント履歴」の4点だ。なお、XDのデザインシステムはクラウド機能に依存しており、オフラインでは使うことができない。

2019年のAdobe XDは、デザインシステムとクラウド活用によりコラボレーションを支援する機能が特に強化された
2019年のAdobe XDは、デザインシステムとクラウド活用によりコラボレーションを支援する機能が特に強化された

 1つ目は「コンポーネント」機能。従来はシンボルと呼ばれていたが、今年5月から大幅に強化され改称された。図形やテキストなどをひとまとまりにして管理する機能で、再利用や一括修正ができるため、ボタンやグローバルメニューなど、後から使い回すものを管理するのに便利だ。

 従来との違いは、オリジナルとなるマスターコンポーネントと、複製した子のコンポーネント(インスタンスと呼ばれる)との間に親子関係が生じる点。マスターコンポーネントに行った変更は、即座にインスタンスにも反映される。

 また、コンポーネントの要素は上書き(オーバーライド、Override)することができ、インスタンス側でサイズやカラー、角丸、テキスト、内包される要素などに個別に変更を加えると、それらにはマスターコンポーネントの変更が反映されなくなる。なお、後からマスターコンポーネントに追加した要素は、インスタンスにも反映される。

コンポーネントの上書きのデモ。カラーのプロパティが変更されたインスタンス(ピンク色)は、マスターコンポーネントのカラーを変更しても影響を受けない(ここでは黄緑)。なお、プレゼン資料自体もAdobe XDで作られており、シームレスにデモが行われた
コンポーネントの上書きのデモ。カラーのプロパティが変更されたインスタンス(ピンク色)は、マスターコンポーネントのカラーを変更しても影響を受けない(ここでは黄緑)。なお、プレゼン資料自体もAdobe XDで作られており、シームレスにデモが行われた

 Adobe XDには、ECサイトにおける商品一覧のように、複雑な要素の組み合わせが繰り返すレイアウトをドラッグ操作で簡単に行える「リピートグリッド」と呼ばれる著名な機能があるが、コンポーネントの上書きを併用すると、より柔軟なデザインを行える。

リピートグリッドでコンポーネントの上書きを行った例。左下の要素で、星形の評価部分が上書きされている
リピートグリッドでコンポーネントの上書きを行った例。左下の要素で、星形の評価部分が上書きされている

 また、コンポーネントはインタラクションも保持することができ、例えば従来グローバルメニューからの画面遷移の設定は、画面ごとに個別にワイヤーを引く必要があったが、コンポーネントを使うことで一元管理できるようになり、作業効率とメンテナンス性が増した。

 また、2019年11月には、1つのコンポーネントに複数のステート(状態、States)を持てる機能が追加された。これにより、初期状態、マウスホバー時、クリック時、無効時と、さまざまな状態をコンポーネントに内包して管理できるようになった。

 ステート間には、短いアニメーションをマイクロインタラクションとして設定できる。ただし、現在のところ、1つのアートボードで同時に動かせるマイクロインタラクションは1つだけである点には注意だ。

 中でもマウスホバー時のホバーステートは特別なステートで、マウスカーソルをポイントした際のインタラクションをAdobe XDが自動で設定してくれる。

 なお、轟氏はTipsとして、動きが遅い場合はデフォルトで設定される「自動アニメーション」を「トランジション」に変更すると早くなることや、スタイルガイドとして分かりやすくするには、状態を切り替えたインスタンスを並べてみせるとよいことなどを紹介した。

スタイルガイドを分かりやすくする例。下段がコンポーネントを使用したもので、左端のマスターコンポーネントのインスタンスを右に並べ、それぞれステートを切り替えて、ホバー時、クリック時の様子を見せている

スタイルガイドを分かりやすくする例。下段がコンポーネントを使用したもので、左端のマスターコンポーネントのインスタンスを右に並べ、それぞれステートを切り替えて、ホバー時、クリック時の様子を見せている

 2点目は「リンクされたアセット」。作成したスタイルガイドは、XDクラウドドキュメントとして保存することでクラウドを経由して共同制作者と共有し、カラーや見出しのスタイル、ボタンなどを簡単に共通化できる。また、オリジナルのアセットに変更が加えられると、変更の通知が届き、マウスオーバーでプレビューし、クリックするだけで変更の適用と、ワークフローをシンプルにできる。

読み込んだアセットは左側のパネルに表示される
読み込んだアセットは左側のパネルに表示される

 3点目は、まだベータ版としての提供になるが「リアルタイム共同編集」機能。Googleドキュメントのような形で、オンラインで1つのファイルを共同編集でき、変更内容がリアルタイムに共有される。

 ログインユーザーの誰がどのオブジェクトを編集しているかは色で判別できる。また、データのトランザクションはロックせずに楽観的な排他制御が行われているようで、もし同じオブジェクトを同時に編集した場合は、先にクラウドに送信された内容が採用され、後から送信した変更は破棄される。

リアルタイム共同編集では、誰がログインしているか、右上に表示され、色(ここでは赤)でだれが触っているオブジェクトなのか判断ができる。
リアルタイム共同編集では、誰がログインしているか、右上に表示され、色(ここでは赤)でだれが触っているオブジェクトなのか判断ができる。

 また、この機能にも関連するが、4点目として「ドキュメント履歴」機能も紹介された。クラウドでの作業内容は、適宜自動でバックアップが取られる。そのため、轟氏は「よく行われている、ファイル名に日付や『_finalfinal2』などをつけるオレオレバージョン管理をする必要がなくなる」と述べた。

 バージョンは30日経つと履歴が消されてしまうが、バージョン名やタグをつけることで永続化ができるという。特定バージョンから新規に開き直すこともできるので、過去の内容に戻したいといった作業も楽に行える。

 なお、Ctrl+Z/⌘+Zによるアンドゥも使えるが、個人単位で管理され、自分の作業のみに適用される。

バージョン履歴は自動で保存され、任意のバージョンに名前かタグをつけることで永続化できる
バージョン履歴は自動で保存され、任意のバージョンに名前かタグをつけることで永続化できる

 他にも、クラウドでのアセット共有を行う「Creative Cloudライブラリ」におけるXDからの登録への対応(従来は読み込みのみ)、1つのオブジェクトへの複数のインタラクションの設定(キーボードショートカットなどが設定できるように)、共有設定の有無を確認しやすい「共有モード」、検索しやすくなった新しいプラグインマネージャーなども紹介された。

 2019年11月のタイミングで、このようなクラウド関連機能が一気に導入されてきたが、轟氏は「まずは本プロジェクトではなく、いろいろとテストして理解した上で、使って欲しい」と勧めた。

 最後に、イベント当日にベータ版として発表されたばかりの新しいプラグイン「Quick Mockup」も紹介された。UXデザイナー以外がワイヤーフレームやモックアップの作成を行うことが多いという、日本独特のデザインプロセスに着目したもので、普段PowerPointやExcel、Keynoteでラフを作成している非デザイナーを対象に、Adobe XDをより使いやすくするツールとなっている。2020年春の正式リリースを予定しているが、Quick Mockupのページ経由か、プラグインマネージャーから検索してベータ版をインストールできる。

 今後は、引き続きコラボレーション機能の強化や、リアルタイム共同編集機能の着実な製品化を目指すという。轟氏は、ユーザーからのフィードバックが大事である点を今一度強調して、講演を締めくくった。

関連リンク

この記事は参考になりましたか?

  • X ポスト
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
イベントレポート連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

斉木 崇(編集部)(サイキ タカシ)

株式会社翔泳社 ProductZine編集長。1978年生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科(建築学専門分野)を卒業後、IT入門書系の出版社を経て、2005年に翔泳社へ入社。ソフトウェア開発専門のオンラインメディア「CodeZine(コードジン)」の企画・運営を2005年6月の正式オープン以来担当し、2011年4月から2020年5月までCodeZine編集長を務めた。教育関係メディアの「EdTechZine(エドテックジン)」...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

  • X ポスト
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
CodeZine(コードジン)
https://codezine.jp/article/detail/11850 2019/12/05 13:15

おすすめ

アクセスランキング

アクセスランキング

イベント

CodeZine編集部では、現場で活躍するデベロッパーをスターにするためのカンファレンス「Developers Summit」や、エンジニアの生きざまをブーストするためのイベント「Developers Boost」など、さまざまなカンファレンスを企画・運営しています。

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング