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「実践! ジョイ・インクへの道」クリエーションラインが文化を変えるためにやったこと【デブサミ2020】

【14-D-4】日本にJoy,Incを創る!どん底からスタートしたぼくらのジョイインクジャーニー7年間の軌跡

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2020/05/07 11:00

目次

会社の文化を変える、ジョイ・インクへの旅

 書籍『ジョイ・インク』の理念は安田氏の心に大きく刺さった。ジョイ・インクの特徴として安田氏が挙げるのは次の5つ。

  • ヒエラルキーがない組織
  • ペアワーク
  • あらゆる情報の可視化
  • デイリースタンドアップミーティング
  • メンローベイビー

 メンロー社のオフィスは仕切りがなく、あらゆる情報が可視化されているという。業務はペアワークで行い、毎朝のデイリースタンドアップミーティングで2人がバイキング帽の角を持って「今日何をするか」をリレートークで話していく。

 そしてメンローベイビー。赤ちゃん、子どもが日常的に職場にいる。自分の子ども、赤ちゃんの初めての瞬間を見逃さないように一緒に過ごそうということによる。このメンローベイビーをはじめとして、一番大事なリソースは人であり、そこにフォーカスしてさまざまな制度、環境をつくっているのだ。

創業者2人(James Goebel氏、Richard Sheridan氏)。バイキング帽の角を持つシチュエーションはジョイ・インクが採用する「ペアワーク」を象徴する
創業者2人(James Goebel氏、Richard Sheridan氏)。バイキング帽の角を持つシチュエーションはジョイ・インクが採用する「ペアワーク」を象徴する

 とはいえ、最初は自分とは遠い世界の話と感じた。それを変えたのは来日したRichard氏の講演(「Regional Scrum Gathering Tokyo 2018」における)だった。うれしそうに自分の会社のことを話す様子を見て、「自分はこんなにうれしそうに自分の会社のことを語れるだろうか」と自問したと言う。いや、語りたいと思った安田氏は日本のジョイ・インクになりたいと行動を起こす。

 まず、お互いを知るところから始めようと行ったのが、メンバー全員によるリレートーク。この時も「なぜそれをやるのか」「目標はどこか」を明確にした。図「チームワークの7つの段階」を示し、レベル7の「新しい価値を共に生み出す」チームがゴールで自分たちはまだレベル1だとし、お互いを知ることから再スタートしたのだ。

前述のように、社内にはすでにカイゼンチームがあり、モチベーションの高いメンバーもいた。ただ、当時80名いたメンバー全体を考えた時、まだレベル1だとしてリレートークから始めることに
前述のように、社内にはすでにカイゼンチームがあり、モチベーションの高いメンバーもいた。ただ、当時80名いたメンバー全体を考えた時、まだレベル1だとしてリレートークから始めることに

 そうしてジョイ・インクの実践を進めていくのだが、その施策は書籍『ジョイ・インク』に具体的に書かれていることが参考になっている。

 例えば、以下(書籍『ジョイ・インク』より抜粋引用)のような会話のススメ。

  • スペースとノイズは、チームがチームワークの魔術を引き起こす機会をつくるための重要な要素だ
  • 会話が関係をつくり関係が価値をつくる

 仕切りのないオフィスではいろいろな会話が聞こえてくる。そこでさまざまな刺激を受けて、新しいことをどんどん作り出していこうということだ。

 クリエーションラインでは、これは「ふるふるリレートーク」「雑談」といった施策で実践されている。毎週月曜のWeekly朝会(全体会議)の中で行われ、全員参加型のイベントだ。

 ふるふるリレートークでは、付箋で「この人のここがすばらしい」と誰かを褒める。それをみんながリレートークで読み上げていく。自分が褒められるのも当然うれしいが、誰かが誰かを褒めているところを見るだけでも心が温かくなり、モチベーションが上がる。書き込まれた付箋は会社の受付にあるサンクスボードに貼っていく。これによって会社に来た人に、自社の文化(こういうことを大切にしている会社だということ)を知ってもらう機会にもなっている。

 一方、リモートメンバーも含めて4、5人の雑談のためのチームをつくって30分間実施する。雑談は「コミュニケーションの質を上げる=お互いを理解する」のが目的で、前述の図(チームワークの7段階)のレベル1から3を網羅するものという位置づけだ。

 「チームビルディングの方法としてこれまでさまざまな試みをし、たどり着いたもの。距離を縮めてくれる、コミュニケーションのギャップを生みにくいワークショップだ」(安田氏)

 実際、効果は大きく、雑談で得たつながりがチーム間の連携、コラボレーションのきっかけになっている。それは数値上で表れている。

「wevox」を使ったエンゲージメントスコア。雑談を始めた2019年1月からエンゲージメントスコアを見ると右肩上がりになっているのがわかる
「wevox」を使ったエンゲージメントスコア。雑談を始めた2019年1月からエンゲージメントスコアを見ると右肩上がりになっているのがわかる

 その他、財務情報のフルオープン、クリエーションラインキッズ(会社に子どもが日常的に来られる)、Family Dayなど、さまざまな取り組みを進めている。ヒエラルキーがない組織、一部のプロジェクトではペアワークも取り入れている。

 現在、日本のいろいろな会社にジョイ・インクの文化、働き方を広めていきたいと、他社と協力した動きも始めている。1つの事例として安田氏が上げたのは、デンソーと進めているプロジェクトだ。デンソーとの共同プロジェクトルームとして秋葉原に拠点をつくり、アジャイル開発を実践している。

デンソー、クリエーションラインのメンバー、協力会社含めておよそ20名が集まってアジャイル開発を実践。ここでの働き方をつくるのにもジョイ・インクからの思想を取り入れている
デンソー、クリエーションラインのメンバー、協力会社含めておよそ20名が集まってアジャイル開発を実践。ここでの働き方をつくるのにもジョイ・インクからの思想を取り入れている

 すでにデンソーだけではなく、他分野の会社とも同じような取り組みが始まっている。クリエーションラインのビジョンは「IT技術によるイノベーションにより、顧客と共に社会の進化を実現する」こと。それが形になってきている。

 Appendixとして示されたのは、先に挙げた、会社の浮き沈みのグラフに売上データを重ねたもの。

会社の文化が良くなると売上もどんどん上がっているのがわかる
会社の文化が良くなると売上もどんどん上がっているのがわかる

 実際に会社の文化を変えようとしていく時、いろいろな障害、障壁に遭う。時に反対勢力に「それで利益が上がるのか」と言われてしまうこともある。その時に、これをぶつけてほしいと安田氏。

 文化を変えるということは、売上、利益の向上にもつながる。結果として、労働生産性がどんどん上がっていくといった環境が生まれるのだ。

 最後に、メンロー社を訪れた時の話があった。現地に2時間ほどの滞在だったというが、本当に刺激的だったと言う。すばらしい文化は何か特別なものではなく、日常の中にあるべきものなのかもしれない。



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著者プロフィール

  • 大内 孝子(オオウチ タカコ)

     技術系の書籍を中心に企画・編集に携わる。2013年にフリーランスに転じてからは技術解説記事の執筆も行う。著書に『ハッカソンのつくりかた』(BNN新社)、編著に『エンジニアのためのデザイン思考入門』(翔泳社)などがある。 Twitter: @raizo...

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