Eclipseの歴史とその特徴
ここまで、まずはEclipseを触ってみるという趣旨のもと、実際にインストールの上に起動して画面構成を見てきました。そろそろ、概論に移りたいと思います。
IDEの1つであるEclipse
もう一度、Eclipseの画面を見てください。上部ツールバーに、の部分が見えます。この左端の、 のアイコンにマウスを重ねると、「デバッグ」と吹き出しが表示されます。その右横の、では「実行」と表示されます。メニューにも[実行]というメニューが存在します。
このようにEclipseをはじめとするIDEは、ソースコードの入力(プログラミング)だけでなく、そのソースコードのコンパイルや実行も行えるようにしたツールです。また、ソースコードを1行ずつ実行するデバッグモードや、アプリケーションサーバの実行や停止の制御ができたり、サーバへのアプリケーションの配置(デプロイ)も行えたりします。さらには、設計ツールが含まれていたり、データベース内の構造情報を自動取得して設計図を作成したりなど、おおよそ開発に必要な機能をほとんど含んだツールがIDEなのです。まさに、「統合(Integrated)」と呼ぶにふさわしい開発環境です。
さまざまなIDE
こういったIDEで有名なものに、MicrosoftのVisual Studioがあります。Windowsアプリケーションの作成に使います。AppleからはXcodeがリリースされており、こちらは、iPhoneやiPad、macOSのアプリを作成するのに使います。これらのアプリケーションは、Visual StudioやXcodeといったそれ専用のIDEを使わないと、開発そのものができないほど、必須のツールとなっています。同じように、Androidアプリケーション開発に必須のIDEがAndroid Studioです。
このAndroid Studioのベースになっているのが、チェコに本社があるJetBrains社がリリースしているIntelliJ IDEAというIDEです。このIntelliJ IDEAは、最近人気急上昇中のIDEで、2001年に最初のバージョンがリリースされました。ただ、その当時はJava言語向けのIDEでしたが、その後、このIntelliJ IDEAをベースにして、各言語向けのIDEが作成され、JetBrains社からリリースされています。
同じく、Java向けをベースにしたものでApacheソフトウェア財団からリリースされているNetBeansもあります。こちらはIntelliJ IDEAよりも歴史が古く、NetBeansという名称のソフトウェアが最初にリリースされたのは1999年です。NetBeansの源流はさらに歴史が古く、1996年にチェコの学生によって作られたXelfiというソフトウェアです。そのソフトウェアに当時のSun Microsystems社が目をつけ、契約してNetBeansとしてリリースしています。その後、2010年に、Sun Microsystems社はOracle社に買収され、NetBeansもOracle社のものとなります。そのOracle社も、2016年にNetBeansをApacheソフトウェア財団に寄贈し、現在に至っています。
Eclipseとは
Eclipseは、このNetBeansと同じく1999年に産声を上げたIDEで、もともとIBMがJava開発用に作成したIDEです。その後、2001年にオープンソース化します。オープンソース化されたのを機に、多くの開発者の興味をひくIDEとなり、2003年ごろには爆発的な人気を博します。
その一方で、いまだにIBMという営利組織の管理下に置かれていたことが問題視されていました。それを解決するために、2004年に非営利組織であるEclipse Foundationを設立し、Eclipseの開発や管理などすべてを移管します。
そのEclipse FoundationによってIBMから独立した、最初のリリースであるバージョン3.0、およびそのすぐ後にリリースされた3.1が、より多くの開発者に利用されるようになり、IDEのデファクトスタンダードという不動の地位を得ます。
Eclipseの特徴
Eclipseが、これほど多くの開発者に利用されるようになり、不動の地位を得たのには理由があります。まず、オープンソースであり、無償で利用できることが挙げられます。ライバルであるIntelliJ IDEAがオープンソース化され、無償で利用できるエディションができたのは2009年です。
オープンソースであるメリットは無償であるだけでなく、その名称の通り、ソースコードが公開されていることが大きいです。何かのツールを利用しようとした際に、ツール本体に問題や使い勝手が悪い部分があったとしても、ソースコードが公開されているおかげで、開発者が自身で改造できます。さらに、改造した部分を開発元にフィードバックすることもできます。
さらに、Eclipseの場合は先に紹介したプラグインという仕組みをその最初期から導入していたことも、Eclipseが人気を博した理由の1つです。実は、NetBeansもプラグインの仕組みを兼ね備えていました。そういった意味で、Eclipseの良きライバルになり得るはずでした。しかし、オープンソースとはいえ、Sun Microsystems、その後Oracleという営利組織一社の管理下に置かれていたNetBeansと比べて、非営利組織であるEclipse Foundationによって管理されているEclipseとでは、おのずとオープンソースへの開発者の関わり方の自由度が変わってきます。より自由にソースコードの改造フィードバックができます。また、プラグインの作りやすさもEclipseに軍配が上がります。
結果、NetBeansがJava開発しかできなかった時代に、すでにEclipseはプラグインにより、CやC++、PHP、RubyといったJava以外の言語による開発も行えるようになっていました。
さらに、プログラミングだけではなく、UMLやER図作成による各種設計のサポート、各種サーバへのアプリケーションの配置、アップロードなど、さまざまな機能をプラグインで実現できるようになり、プラグインさえ探し出す、あるいは作成すればありとあらゆることがEclipseでできるようになります。これがEclipseがIDEとしての支配的な地位を得た理由です。
Eclipseのバージョン
最後にEclipseのバージョンの話をしておきましょう。Eclipseは不動の地位を獲得した、3.1の次のバージョンである3.2からコードネームを付与するようになり、4.8までの13バージョンはそのコードネームで呼ばれることが普通でした。例えば、3.2はCallisto、4.8はPhotonでした。4.9からは、このコードネームを廃止し、リリースされた年月でバージョンを表すようになりました。4.9は2018-09、4.10は2018-12のようにです。そして、原稿執筆時点で最新が4.16の2020-06です。3.2以降、どのバージョンがどの名称なのかは表1にまとめましたので、参考にしてください。
バージョン | 名称 |
---|---|
3.2 | Callisto |
3.3 | Europa |
3.4 | Ganymede |
3.5 | Galileo |
3.6 | Helios |
3.7 | Indigo |
4.2 | Juno |
4.3 | Kepler |
4.4 | Luna |
4.5 | Mars |
4.6 | Neon |
4.7 | Oxygen |
4.8 | Photon |
4.9 | 2018-09 |
4.10 | 2018-12 |
4.11 | 2019-03 |
4.12 | 2019-06 |
4.13 | 2019-09 |
4.14 | 2019-12 |
4.15 | 2020-03 |
4.16 | 2020-06 |
まとめ
新連載である、Eclipse入門はいかがでしたか?といっても、今回は概説とインストール、画面構成のお話だけでした。それでも、ワークスペースの作成位置など重要な内容を含んだつもりです。次回は、今回作成したワークスペース内に、実際にJavaプロジェクトを作成し、ソースコードの作成、実行方法を紹介していきます。