著者市谷さんのトーク:私のジャーニー、その後~残り96人月~
『カイゼン・ジャーニー』の、そして『チーム・ジャーニー」の著者である市谷さん。そんな市谷さんが今年4月から取り組んでいるのは、民間から国のITを支援する政府CIO補佐官。
イベントが開催された8月18日にはProductZineにおいて「ぼくらのチーム・ジャーニー」の連載も開始されました。ちょっと心配になるほどに、市谷さんは多方面で活躍されています。
われわれがプロダクト開発で直面する最大の難関とは?
プロダクト開発というのは、もともと難しいものです。新しいものをつくるというときに、「整っている状態」から始まることはありません。「不確実性」が立ちふさがります。だからこそ『新た』に始めるというのであり、常に「混沌」から始まります。「分かった」を一つひとつ積み重ねることで突破しようと挑むことが肝要となります。
このようにただでさえ難しいプロダクト開発ですが、ここ最近のDX推進の潮流で向かうべき制約が増えてきています。
「DX」という言葉が先行するものの、既存のシステム、体制、考え方が「逆境」を生みだしてしまう。変化したくてもできないのではなく、そもそも変化したい、という考えにならない――。「環境は人の考え方をも規定してしまう」のです。
そして、追い打ちをかけるように起こった今回のコロナ禍。ただでさえ難しい事業づくりが、唐突に強いられたリモートワークがもたらす「断絶」により、さらに難しくなりました。一緒に仕事をすることが、とてつもなく難しくなったのです。
不確実性との戦い
市谷さんから、我々が向き合う不確実性がどのようなものなのか提示されます。
- 何をつくるべきなのか、それをどうやってつくるべきなのか、絶対的な正解をあらかじめ手にすることはできない
- それゆえに、作り手の方向性や関係者の期待が様々あり、意思決定、合意形成が容易ではない
- それゆえに、手法や技術を様々試すことで克服を試みるが、理解不足や練度不足で成果にならない
期待値(What)、作る意図(Why)、作り方(How)全てに不確実性が入りこむ。プロダクト開発というのは、不確実性の塊と向き合うことそのものです。
「傾き」の問題
変化しようとしたときに、理想的な変化量と現実の間には乖離があります。
新しいことを始めるとき、期待値としては急峻な変化を描いてしまいます。実際にはこれまでの「ありかた」が引力となり、ドラスティックな変化を難しくしてしまうのです。この図が表しているように、理想的な変化量と現実には乖離があります。DXの現場で起こっている現状維持のモメンタムは、まさにこの乖離の典型的な例であるといえるでしょう。
たとえばアジャイル開発。「アジャイル開発で進める内製チームを3か月でつくる」といった目標。そもそもやったことがないのに3か月でつくれるかどうか、そもそもわからないわけです。
段階の設計
では、私たちはどのようにしてこのような課題と向き合っていくべきなのでしょうか。
ひとつの答えが、「段階」によって「なめらか」にする方法です。発展の「段階」を設計し、求められる変化量を調節します。現実を進めた結果から分かったことに基づき構想自体を変化させる、つまり目的地自体を変化させていきます。図では、まず開発を見える化し、続いてPOを含めスクラムに取り組み、その先に仮説検証+アジャイル開発と向き合う段階を設けるという例が示されています。
小さく繰り返しながら変化していくという点は実にアジャイル的であり、そこに明確な「段階」を設けることでチームが向かう先の焦点を絞っていく作戦は非常に実践的だな、と感じました。
仮説検証型アジャイル開発は段階の設計
根底にあるのは「少しずつ繰り返しながらつくる」、アジャイル開発そのものの思想です。
図にあるように、PSfit(Problem Solution Fit)にも段階を設けて進めていきます。プロトタイプを開発する前の段階で仮説を検証し修正する、というのは手を動かしたくてしょうがないソフトウェアエンジニアにはもどかしく感じられるところですが、ここを丁寧に行うことで「顧客が本当にほしかったもの」に接近したものづくりができるので意識的に取り入れていきたいところです。