対象読者
C#とWebシステムの基礎的な知識がある方を対象とします。C#の基本文法などの解説は割愛します。
はじめに
Blazor WebAssemblyは、C#言語を用いて、Webブラウザ上で実行可能なWebアプリケーションを構築するためのフレームワークです。このフレームワークを使えば、C#言語を使ってSPA(Single Page Application)を実現することができます。SPAとは、単一のWebページで動作するWebアプリケーションのことです。ページ遷移を行わず、必要に応じてコンテンツの書き換えを行うため、デスクトップアプリのように軽快な操作が行えるのが特徴です。一般的なWebアプリーケーションでは、SPAはJavaScriptを用いて実装します。
本連載では、かんたんなWebアプリを作成しながら、このBlazor WebAssemblyについて解説します。今回は、Blazorの概要と開発環境の説明、そしてブラウザで「Hello,world!」と表示するアプリケーションを作成します。
Blazorとは
最初に、ASP.NETをおさらいしておきましょう。
当初のASP.NETは、Windows標準の.NET Frameworkと呼ばれるアプリケーション開発・実行環境で動作する、Webアプリケーション用フレームワークでした。また、ASP.NETを基盤として、HTMLやHTTP通信などの処理を抽象化してデスクトップアプリのような感覚でWebシステムが構築できるWebフォームをはじめ、次のようなライブラリやフレームワークが提供されていました。
名称 | 概要 |
---|---|
ASP.NET Webフォーム | Visual Studioで開発できるWebシステムフレームワーク |
ASP.NET MVC | MVCパターンのWebシステムが構築できるフレームワーク |
ASP.NET Webページ | HTMLを動的に生成するためのRazorビュー・エンジン |
ASP.NET Web API | RESTfulなWeb API作成に特化したライブラリ |
ASP.NET SignalR | リアルタイム処理用通信ライブラリ |
その後マイクロソフトは、Windows環境に依存する.NET戦略を見直し、LinuxやmacOSでも動作する、クロスプラットフォームかつオープンソースの「ASP.NET Core」をリリースしました。
環境・機能 | 概要 |
---|---|
対応OS | Windows、macOS、Linux |
利用言語 | C#、F# |
継続機能 | MVC、SignalR、Web API |
新機能 | Razor Pages、Blazor |
Webサーバー | IIS、Nginx、Apacheなど |
ASP.NET Coreは、ASP.NET 4.xをベースにしていますが、Webフォームには対応していません。また、開発言語にVisual Basicが利用できなくなりました。
一方、ASP.NET Coreになって、新たなライブラリ、フレームワークが提供されています。Razor Pagesは、ASP.NET Core 2.0から利用できる機能で、MVVMパターンのWebアプリケーションを実現できるフレームワークです。
Razor Pagesでは、Viewにあたる部分はRazor構文によるcshtmlファイル(HTMLを拡張して、C#コードなどを含めることができる)に、ViewModelはそのcshtmlから生成されるC#のクラスになっています。このあたりの構造は、その後にリリースされた、Blazorフレームワークでも同様となっています。
Blazorは、通常JavaScirptを使用するWebブラウザでのフロントエンドの処理を、C#を使って記述できるフレームワークです。これまでのASP.NETは、すべてサーバーサイドで実行される処理に用いるものでした。Blazorを使えば、サーバーサイドだけでなく、クライアントを含めた全体を、C#を使って開発することが可能になります(もちろん、既存のJavaScirptとも併用できます)。
Blazor WebAssemblyとBlazor Server
Blazorには、サーバーサイドで動作するBlazor Serverと、ブラウザ上で動作するBlazor WebAssemblyの2つのモデルがあります。
Blazor Serverでは、サーバー上の.NET Core環境で主な処理が行われ、サーバー側のコードで、ブラウザーのコンテンツ(DOM)を書き換える形となります。サーバーとブラウザ間のやりとりには、ASP.NET Core SignalRと呼ばれるライブラリが用いられます。
一方、Blazor WebAssemblyは、WebAssemblyを利用して、ブラウザー内で.NETコードを実行するものです。WebAssemblyとは、ブラウザ上でバイナリコードを実行できるようにする技術のことです。別途プラグインが必要なく、ブラウザ自体でサポートされています(Microsoft Internet Explorerは未対応)。
Blazor WebAssemblyでは、最初に、.NETアセンブリとランタイムがブラウザにダウンロードされ、その後ブラウザ上で、.NETアセンブリが実行されます。WebAssemblyのセキュリティの制限のため、直接ファイルを開いて実行することはできません。また、ファイルサイズが大きくなりますので、最初のダウンロードに時間がかかります。ただしその後は、デスクトップアプリ同様に、コードが実行されることになります。
Blazor Serverは、通常のWebシステムと同様、Webサーバーとブラウザとの常時接続が必須で、サーバー環境には、.NET Coreの実行環境が必要です。Blazor WebAssemblyであれば、サーバー側の環境や処理を意識することなく、サーバーレスかつブラウザで動作する動的なWebアプリケーションの開発が可能です。
Blazor WebAssemblyは、Webアプリケーションであるため、当然ブラウザの機能しか利用できません。しかし、よりシンプルな構成でデスクトップアプリのようなWebアプリケーションを開発可能です。本連載では、手軽にサーバーレスで開発できるBlazor WebAssemblyを解説することにします。
【note】WebAssembly
WebAssemblyとは、ブラウザ上でバイナリコード(機械語)を実行する技術のことです。JavaScriptでは実現できない処理や、より高速な実行を目指すために提案され、Mozilla、Google、Microsoft、Appleの同意のもと、Webブラウザの標準フォーマットとして開発されています。2019年には、Web標準として認定されています。
JavaScriptは、当初HTMLではもの足りない部分を補う程度で利用されていました。それが現在では、画像処理などのマルチメディアな処理をはじめ、ブラウザのGUI処理には不可欠な技術となっています。ただJavaScriptはインタプリタ言語であり、処理にやや時間がかかるなど、力不足となっていることから、より高速に実行できる技術として、WebAssemblyが開発されました。