- 沢渡さん、新井さんによる著作『ここはウォーターフォール市、アジャイル町 ストーリーで学ぶアジャイルな組織のつくり方』(翔泳社)
ストーリーで現場のケーススタディが学べる #ここアジャ
これまで執筆した本の数は実に30作以上にものぼる、という沢渡さん。浜松/東京で二重生活を送り、今回は浜松から登壇しているとのことでした。コロナ禍以降、こういった「東京以外からの登壇」が当たり前になり、物理的な距離という制約が取り払われつつあることを感じます。
ワークスタイル、働く組織のカルチャーなどの著作が多い沢渡さんが、なぜアジャイル開発に関する本を書いたのか。
「開発手法としてのアジャイルは、新井さんが共著者として連ねている『いちばんやさしいアジャイル開発の教本』を読むのがベストですが、この『ここアジャ』は『カルチャーをアジャイルにしていく』ために、ストーリーと解説のタッグでアジャイルの世界を紹介している」と、沢渡さんは語ります。そして、新井さんがバトンを受け取るように、「『ここアジャ』はストーリーの中で発生するトラブルに必要なプラクティスを解説している。問題ありきで書いているので、現場のケーススタディとして活用してほしい」と紹介しました。
旧ノーマルからニューノーマルへ
「旧ノーマルからニューノーマルへ」。DXが叫ばれるようになってしばらく経ちますが、「変革」は道半ばといったところ。その変革を後押しし、ニューノーマルへと到達するために何ができるか。それをデベロッパーの観点で考えるというのが、このパネルディスカッションの要点です。
旧ノーマル組織の限界
最初のテーマは「旧ノーマル組織の限界」。ニューノーマルに乗り切れていない組織にはどんな問題点があるかが語られました。
統制管理型一辺倒の組織に最適化しすぎてきた
沢渡さん曰く、日本における組織のあり方は、過去50~60年、軍隊のような形に最適化してきました。いってしまえば統制管理型一辺倒の組織です。発注元のいうことさえ聞いていればよい、組織の内側と外側を分けるような、いわゆるテイラー主義的な考え方に強力に最適化してきたわけです。
一方、新井さんの働き方を見ると「本業はレッドジャーニー、 副業はヴァル研究所」という主と副がある働き方です(2020年2月までは、この主と副が逆だったというのも興味深いポイントです)。
「これからの働き方は一つの組織に縛られないもの。場所にも縛られない。例えばダム際でワークするなんてこともね。これまでの制約がもはやバグになってきている」と、沢渡さんは冗談めかして語りました。
「管理・監視するだけの人たちが存在してしまっている」と、新井さん。何かを直接的に生産するわけではないこれらの役割は、まったく不要なわけではありません。うまくいっていた時代があるし、うまくいく業界があるのも事実です。
この安定した前提を崩したのがコロナ禍です。日々変わる状況に適応するためには、現場での都度判断が必要になってきます。現場で起こっていることの情報が最重要となり、中央集権的な情報統制組織ではまわらなくなってきました。その状況に対して、新井さんは「カスタマイズする必要がある。ピンチかもしれないけれど、大転換のチャンスでもある」と語ります。
一方、統制管理型は「考えなくても答えを出せる」という強みがあります。安定した環境であれば効率的に成果を生み出す有効な方法となります。
どこかのタイミングでゆらぎをおこす必要がある
しかし、統制管理することで「考えない」層が組織にうまれるこのやり方に馴染みすぎてしまうと、変化に対して弱くなってしまいます。沢渡さんの言葉を借りると、「思考できない体になってしまう」のです。
ただ、これは「変化に適応できる組織こそが正しい」ということではありません。どちらもできる引き出しをもっておくほうが強いということです。
新井さんがアジャイルの先生から教えてもらったという「どこかのタイミングでゆらぎをおこす必要がある。内部から変化を起こす」という言葉。これは沢渡さんの「慣れている景色を変えていく」という言葉とリンクしています。
「『うちも旧ノーマルだ』というコメントがたくさんあります」と、近藤さん。みんな、それぞれの現場で悩んでいるからこそ、このセッションに参加しているのかもしれません。共存し、うまいやり方を提示していくヒントは、間違いなくこのセッションに内在していました。