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エンジニアのためのヘルスケア

産業医に聞いてみた――心と身体に効く、エンジニアのための処方箋

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 新型コロナウイルス感染症の拡大から丸1年がたった今でも、多くの人が在宅勤務をしている。そんな中で、「人とコミュニケーションがとりづらい」「働き詰めで、息抜きや気晴らしがしづらい」「体調のことを上司や同僚に相談しづらい」といった悩みや心身の不調を抱える人も少なくないはず。特に、「ITエンジニア」は国内でメンタルヘルスリスクが高い職業の1つとされている。そんなエンジニアが少しでも息抜きのコツをつかめるように、今回はIT企業を複数担当している産業医の鈴木裕介さんに、エンジニアのためのメンタルヘルス・マネジメントの方法を伺った。

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ITエンジニアはメンタルに不調を来しやすい職業?

――まずは鈴木さんの医師としてのご経歴を簡単に教えてください。

 現在は秋葉原で内科と心療内科のクリニックを運営しつつ、複数の企業の産業医も務めています。もともとは畑違いである放射線科の医師をやっていたのですが、なかなか仕事になじめず。またちょうど同じ時期に近親者が心の病にかかったり自ら命を絶ったりといった出来事が重なり、医療の在り方についていろいろ考えさせられる時期がありました。そんな折、医療機関のマネジメントを手掛ける会社の方から「うちで働いてみないか」と声をかけていただき、「医療機関のマネジメントがもっと成熟すれば、日本の医療の現場はもっと良くなるのではないか?」と考えて、思い切って臨床医をやめてその会社でコンサルタントとして働くことにしました。

 そこでは約3年働いて、医療に対する組織的なアプローチについてさまざまな学びを得ることができたのですが、組織マネジメントで扱う「モノ、金、人、情報」のうち、自分は人に最も興味があることがだんだん分かってきました。そこで、患者さんとより個別性の高い1対1のやりとりがじっくりできるクリニックを、自ら開設する決断を下しました。私はゲームが大好きなので、「RPGゲームのセーブポイントのような、患者さんがほっと一息付けるような場所を作りたい」という思いから「秋葉原saveクリニック」という名前を付けたクリニックを同じくゲーム好きのドクターたちとともに立ち上げ、現在に至ります。

秋葉原saveクリニック 院長 鈴木裕介さん
秋葉原saveクリニック 院長 鈴木裕介さん

――先日開催された「デブサミ2021」では、鈴木さんのセッション「エンジニアのためのメンタルヘルスマネジメント<秋葉原のゲーマー心療内科医からのメッセージ>」がベストスピーカー賞に選ばれました。このセッションでもお話されていましたが、やはりITエンジニア職はメンタルヘルスのリスクが高い職業なのでしょうか?

 リスクが高い職業の1つであるという報告は確かにあります。既に先行研究があるのですが、ITエンジニアの仕事の中には「客先常駐の中、タイムリーに相談しづらい関係性」「新たな業務に戸惑いストレスを抱える」「自身の強固な信念にこだわり、辛くても頑張る」といったような、メンタル不調につながりやすい要因が幾つもあり、これらが複雑に絡み合ううちにチームの中で孤独感を募らせてストレスが高まるのではないかと考えられます。

――「デスマーチ」という呼ばれ方も以前からされていますね。

 システム開発プロジェクトは進行スケジュールが厳密に定められていますし、工数も人月単位できっちり決められていますから、進ちょく遅れや予算オーバーがあると数値としてはっきり可視化されてしまいます。一方、エンジニア自身のパフォーマンスや体調は数値では表せませんから、おのずと無理をしてスケジュールに合わせにいかざるを得なくなります。このような環境で長く働いていれば、誰だって多かれ少なかれ心身の調子を崩すのは当然だと言えます。

ストレスとは「ストレッサー」と「ストレス反応」の相互作用

――一方、新型コロナウイルス感染拡大防止のための在宅勤務への移行や、それに伴う急激な環境変化により、ここ最近メンタルの不調を訴えるエンジニアが増えてきているとも聞きます。

 在宅勤務への移行に伴うメンタル不調の要因としては、一般的には「生活リズムの乱れ」「日中の活動量の低下」「他人との交流の減少」などが挙げられます。また経済状況の悪化により、キャリアの見通しが急に不透明になり、そもそも生活が維持できるかどうか不安を覚えるようになった方も増えてきているでしょう。

 やはり環境が急激に変化したことによって、ほとんどの人が多かれ少なかれ何らかの心理的なストレスを感じているはずです。そうしたストレスには大きく分けて、災害や戦争、テロ、パンデミックといったその人の生命や存在に影響を及ぼすかもしれない「カタストロフィ」、大切な人との離別や人間関係の変化、環境の激変といった「ライフイベント」、日常的に繰り返し経験される「不快な衝動」を引き起こす小さな出来事の「デイリーハッスルズ」の3種類があります。コロナ禍は、この3つがまさに同時に発生した極めてストレスフルな出来事でしたから、メンタル不調を訴える方が増えるのも当然だと思います。

ストレスには大きく分けて3種類ある
ストレスには大きく分けて3種類ある

――ちなみに私たちは普段「ストレス」という言葉を当たり前のように使っていますが、そもそもストレスとは一体どのような実体を持つものなのでしょうか。

 厳密に定義すると、ストレスを構成する要素には、原因となる「ストレッサー」と、ストレッサーに遭遇した人が示す「ストレス反応」があります。ストレッサーの例としては、例えば「コロナ禍で将来が不安になった」「上司からパワハラを受けた」「人間関係でトラブルが起きた」といったものが挙げられます。先ほど挙げた「カタストロフィ」「ライフベント」「デイリーハッスルズ」は、まさにこのストレッサーを分類したものです。一方、ストレス反応の例としては「身体が重い」「頭が痛い」「胃が痛い」「何もする気が起きなくなる」といったさまざまな反応の形があり得ます。このように私たちが普段一言で「ストレス」と呼んでいるものは、「ストレッサーとストレス反応の間の相互作用」であることが分かります。

ストレスとは、ストレッサーとストレス反応の間の相互作用
ストレスとは、ストレッサーとストレス反応の間の相互作用

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この記事の著者

吉村 哲樹(ヨシムラ テツキ)

早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。その後、外資系ソフトウェアベンダーでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

鍋島 英莉(編集部)(ナベシマ エリ)

2019年に翔泳社へ中途入社し、CodeZine編集部に配属。同志社大学文学部文化史学科卒。

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https://codezine.jp/article/detail/14041 2021/05/26 11:00

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