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エンジニアのためのヘルスケア

産業医に聞いてみた――心と身体に効く、エンジニアのための処方箋

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人間のストレスと性格を独自の視点で分析する「FFS理論」

――ストレス反応にはどの人にもある程度共通する傾向がありそうですが、ストレッサーは人によってかなり違いがありそうです。

 そうですね。同じ出来事に遭遇したとしても、それをストレスと感じるか、何とも思わないか、それともむしろポジティブにとらえるかは人それぞれです。このストレッサーの個人差に着目して、人間の特性を5つの因子に分けて個性を定義付ける理論として現在注目を集めているのが、「FFS(Five Factors&Stress)理論(開発者:小林惠智博士)」です。FFSとは人間の個性を「凝縮性」「受容性」「弁別性」「拡散性」「保全性」という5つの因子を軸にして、それぞれ数値化し多寡とその順番によって、その人の個性を総合的に判断しようというものです。これによって、その人が「どのようなストレッサーに対して、どんなストレス反応を示す傾向があるか」が分かるようになります。

FFS(Five Factors&Stress)理論
FFS(Five Factors&Stress)理論

 この理論の大きな特徴は、単に個人個人の個性を分析するだけでなく、それらの分析結果を基に組織全体の編成の最適化を目指すという点にあります。従業員が自分自身や周囲の人々の個性を客観的にとらえられるようになることで組織内のミスコミュニケーションが減り、結果的に組織全体の能力向上が期待できます。こうした点に着目して、既に多くの企業がFFS理論を人事施策に導入していて、私も産業医を務める会社に対して適用しています。

――こうした客観的な指標があれば、自身がストレスを感じやすい環境やイベントを先回りして避けられるようになりますね。一方、そうした手法を用いることなく、自分が現在どれほどのストレスを受けているかを客観的に判断するのは、実際はなかなか難しいですよね。

 そうですね。ゲームの世界ならプレイヤーの「HP(ヒットポイント)」は常に数値で把握できますが、現実世界においてはそうはいきません。従って、自分のメンタルヘルスの不調をなるべく早期に検知できる手段を持っておくことは極めて大事だと思います。

 最も分かりやすいのが頭痛や胃の痛み、食欲不振といった生理反応や、「寝つきが悪い」「朝なかなか起きられない」といった生活面での変化ですね。これが「なかなか深く眠れずに、夜中何度も起きてしまう」「仕事に行きたくなくて、朝なかなか布団から出られない」という段階まで来てしまうと、かなり危険なサインだと思っていいでしょう。ITエンジニアの方なら、「タイプミスが増えた」というのも比較的分かりやすいサインだと思います。

そのほかメンタルの不調によって出る身体の症状
そのほかメンタルの不調によって出る身体の症状

呼吸を意識することで副交感神経優位の状態を作り出す

――ITエンジニアの方々が明日から始められるメンタル不調予防策などがあれば教えてください。

 ちょっとベタかもしれませんが、瞑想やヨガ、マインドフルネスなどの実践は、ある程度効果が期待できると思います。人間の自律神経には、仕事などオンタイム時の攻撃・逃走モードに用いられる「交感神経」と、オフタイム時のリラックスをつかさどる「副交感神経」があります。メンタルヘルスを良好に保つにはこの2つのバランスがとても大事なのですが、ストレスを受け続けていると交感神経が過剰に働きすぎて両者のバランスが崩れてしまいます。特に在宅勤務の環境では、かつて通勤や帰宅といった「儀式」を行うことで交感神経と副交感神経がうまく切り替わっていたのが、そうした儀式が失われたことで切り替えがうまくいかなくなるケースが見られます。

 その点ヨガやマインドフルネスなどは、意識的に副交感神経優位の状態を作り出すためのものですから、交感神経が過剰になっている状態を鎮めて心身をリラックスできる効果が期待できます。ここで重要な鍵を握るのが、「呼吸」です。一般的に息を吸う時には交感神経が優位になり、吐く際に副交感神経が優位になると言われています。そこで意識的に息を長く吐くよう心掛けることで、副交感神経優位の状態を意図的に作り出せます。また呼吸を遅くすればするほど副交感神経が優位になりますから、例えば「2秒で息を吸って、1秒間止めて、7秒間かけて吐き出す」という呼吸を1分間に6回繰り返すだけでも、効果が期待できます。

――ちなみに鈴木さんご自身は普段、メンタルヘルスを良好に保つためにどんなことを心掛けていますか?

 ストレッサーに直面した際にストレス反応を回避する手段のことを「ストレスコーピング」と呼びますが、このストレスコーピングをなるべく多く用意しておけば、その分ストレス反応を回避できる可能性も高まります。私自身も、自分に合ったストレスコーピングを多数リストアップした「コーピングリスト」を用意していて、ストレッサーに直面した際にはこれらの中から適切なものを引き出して用いています。ストレスコーピングの具体的な内容は人によってさまざまですから、その人に合ったコーピングリストをなるべくたくさん用意しておくことがメンタル不調に陥らないためのコツの1つです。

鈴木さんのコーピングリスト
鈴木さんのコーピングリスト

――最後に、現在ストレスを抱えているITエンジニアの方にアドバイスやメッセージがあればぜひお願いします。

 先ほども申し上げましたが、ITエンジニアの労働環境はメンタル的にしんどくて当たり前ですから、調子が悪くなった時にダメージを受けていないふりをして無理に頑張ろうとするだけではなく、むしろ自分が本調子ではないことを素直に受け入れて、適切に対処していくことも大事だと思います。見栄を張り、苦しさに耐えることも確かに「頑張り」の1つですが、自身が置かれた状況を冷静に客観的にとらえて、将来の自分にとって好ましい方向に舵を切っていくことはさらに重要な「頑張り」ですから、まずは「ああ、今自分はダメージを受けているんだな」と客観的に認めて、なるべく早くコーピングに向かえるよう発想を変えてみることをお勧めします。

――鈴木さん、ありがとうございました!

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この記事の著者

吉村 哲樹(ヨシムラ テツキ)

早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。その後、外資系ソフトウェアベンダーでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

鍋島 英莉(編集部)(ナベシマ エリ)

2019年に翔泳社へ中途入社し、CodeZine編集部に配属。同志社大学文学部文化史学科卒。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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