ネットワークエンジニアとしての大志を都政で実現すべく転職
「世界をつなげる」という志のもと、2019年12月から東京都戦略政策情報推進本部に参画し、デジタルシフト推進担当課長として、街のDX、都庁のDX推進を務める平井則輔氏。2005年からソフトバンク株式会社でソフトバンクネットワークの対外接続の企画設計、IPアドレス設計などの技術企画業務、ならびに大企業や地域ISP/CATVにおける、キャリアグレードのインターネットオペレーションの導入支援に従事していた。2013年からは日本最大級のエンジニアコミュニティであるJANOGの運営委員となり、2017年9月から2020年8月まで会長を務めていた。
かねてより、北米からアジア向けの光ファイバーケーブルの大半が集まる日本を、アジア太平洋のインターネットのハブとしたいという構想を抱いていた平井氏。2019年の10月4日に東京都がICT人材募集を開始したことを、JANOGの先輩たちのツイートで知り興味を持った。都庁職員へ転職した理由について平井氏は「東京都副知事の宮坂さんが参与だったころ『TOKYO Data Highway 基本戦略』を立ち上げました。東京都を5Gなどのモバイルインターネットで埋め尽してスマートシティ化し、世界の都市間競争に勝っていくという考えが、自分の構想とも矛盾しないと思い、応募することにしたのです」と説明した。
世界を見渡すと、 Google、Amazon、Facebook、Apple、いわゆるGAFAと呼ばれる、モバイルインターネットにおいてアプリケーションやプラットフォームを提供する企業がリードしている。平成元年の時価総額ランキングでは、いくつもの日本の企業がトップ10ランクインしていたが、30年を経過した現在、日本企業はランク外となっている。
平井氏は「これは企業だけでなく、東京は都市全体のデジタル化では世界28位、デジタルオープンガバメントでは日本は10位、モビリティは11位、キャッシュレス決済の普及も低く、他の都市よりもデジタル化が遅れていることがわかります。都市間の競争を勝ち抜くには、他の都市よりもスピード感を持って、 DXを進めなければならないのです」と述べた。
コロナ対策でわかったシビックテックと行政の可能性
東京のデジタルシフトの大志を抱き、2019年の12月16日から都庁での勤務を開始した平井氏。東京オリンピック・パラリンピックや5Gネットワークの普及などに心を躍らせていたものの、新型コロナウイルス感染症が流行し、業務の中心はコロナ対策にシフトした。
2020年2月26日に第10回の新型コロナウイルス感染症対策本部会議が開催され、情報発信をしていく意思決定がされ、わすか1週間後の3月3日には新型コロナウイルス感染症対策サイトがオープンする。これは、シビックテック団体であるCode for Japanが開発したもので、オープンソースで展開され、類似の都道府県サイトへと波及していった。
「宮坂副知事が大事にしていたのが、オープンソースで作る理由です。未知のウイルスに関する状況は日々刻々と変わる。それだったらアジャイルな開発手法がいいだろうと、GitHubを活用して情報公開をしました。その後全国各地に同様のサイトが構築され、データ形式が揃っていないという問題が起きましたが、東京で公開しているオープンデータを元に、シビックテックのみなさんがデータセットの定義書を作成して公開、それを総務省が推奨するという動きがありました。国と地方自治体、シビックテックのコラボの好例だったと思います」(平井氏)
その後も東京都ではオープンソース、オープンデータを推進し、新型コロナの影響を受けた都⺠や事業者が利用できる支援情報を一元化したサイト「新型コロナウイルス感染症支援情報ナビ」も開設。感染防止徹底宣言ステッカーを掲示している飲食店などの情報を提供する「東京都感染拡大防止徹底宣言 登録店舗マップ」については、ベータ版で公開し、その後改善していくという手法がとられる。さらに、「感染拡大防止協力金申請サイト」は、都民の意見を受け付け、改善要望に応えていく形で運営がされた(改善事例アーカイブ)。