コロナ禍やDXの追い風で、急拡大する電子署名への対応
牧野和夫氏
大手自動車メーカーから米Georgetown Law School卒業後、ミシガン州弁護士登録。その後帰国しアップルコンピュータ法務部長としてJobs氏と急成長期を経験。現在は大学・法科大学院での講義や、日本や外資系のIT企業・ベンチャー企業の顧問を十数社担当。
飯田浩司氏
牧野氏と同じ法科大学院を卒業後、ニューヨーク州弁護士登録。日本・米国の電機、IT、製薬、エンタテインメント企業などの法務部で、さまざまな国内・国際取引・訴訟などの法律的なサポートやアドバイスを行なってきた。現在は大学・大学院などで法律の講義を行なっている。
中藤丹菜氏
モバイルソリューションを提供しているCM.comオランダ本社に唯一の日本人としてジョイン。カントリーマネージャーとして2018年に日本法人CM.comJapan設立。現在は、電子署名プラットフォームをはじめとしたさまざまなコミュニケーションツールのローカライズ、ビジネス拡大を指揮する。
――皆さんそれぞれに海外での電子契約・署名に精通されていて、同時に日本の事情もよくご存知のことと思います。まずは海外と日本それぞれの導入・運用状況、またその背景についてご紹介いただけますでしょうか。
中藤:まず海外では電子署名はかなり前から広く普及しており、市場規模では2015年で$517M(約5620億円)、2019年は約2倍の$1.10B(約1兆2000億円)と言われています。さらに2020年では$2.8B(約3兆500億円)とさらに倍になっています。
特に、米国・カナダの電子署名市場の拡大は顕著で、北米市場は2019年で既に$440(約4780億円)となっていました。さらに2019年から2020年の年間成長率(CAGR)は27.68%となりました。新型コロナウィルスの世界的な流行により、多くの企業、個人が遠隔地での活動を継続するために文書から電子署名へ切り替わることになったためです。
飯田:北米、とりわけ米国で電子署名が増えた背景としては、一つは商習慣的側面も大きいでしょう。既に20年以上前から最終契約書をそれぞれの当事者が印刷の上、署名頁に署名をし、その署名頁だけを相手方にFAXで送ることによって、印刷した契約書の原本を両当事者間で郵送する手間を省略する動きがありました。その後、署名頁をPDF化してメールで送る方法に発展し、さらに、現在のような電子証明書とタイムスタンプを用いた電子署名の導入へつながっています。中藤さんがおっしゃるように、新型コロナウィルスの流行でそれがさらに加速したというところでしょうね。
法制面では、統一州法委員会全国会議が1999年に制定した統一電子取引法(UETA)と、2000年に成立した連邦法であるESIGN法があります。UETA自体は法律ではないのですが、各州が採用して州法となり、実際にほとんどの州がこれを採用しています。また、採用していないニューヨーク州とイリノイ州にはESIGN法やUETAと基本スタンスを同じくする独自の州法があります。因みにイリノイ州では今年、UETAを採用する法案が公開されたので、近くUETAを正式に採用することになりそうです。海外と取引する場合はこうした点も認識する必要があります。
――日本ではいかがでしょうか。新型コロナウィルスの社会的影響が大きいことは同様ですが、状況はまた異なるように感じます。
牧野:米国のようなPDFでの署名交換もほとんど行われておらず、そもそも電子署名がまったく普及していなかったのですが、コロナが後押ししてまさにこれからというところですね。
実は電子署名制度の立法化は電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律)が、米国のESIGN法とほぼ同時期の2000年に施行されていたのですが、取引の双方がシステムを導入することが必要な”当事者型”ということもあって、企業でも積極的には電子署名が導入されず、せっかくの法制度が利用されずに来てしまった事情があります。加えて、「重要事項説明書を書面で目の前で説明すべき」といった法規制などが導入の障害となりました。
しかし、2020年になってコロナ禍にもかかわらず「ハンコ出社」が多いということや、働き方改革やDXなどの奨励も追い風となって、ようやく政府も本腰を入れて電子署名の普及に務めるようになってきました。具体的には2020年の7月、9月に、電子署名法の解釈が経済産業省・総務省・法務省により公表され、当事者型に加えて、第三者が双方の署名を証明する"立会人型“の適用を認めたり、一部契約書で必要だった印紙の支払いが電子契約書では不要ということも改めて示されたり、それらが弾みとなって、電子署名を検討・導入する企業が増えてきたという印象があります。「重要事項の説明など、案外リモートでできるじゃないか」と気づいたということもあるでしょうね。
「デジタル印鑑=電子署名」ではない? 取り入れる際の注意点とは
――海外がより進んでいるとなると、日本企業では、まずは海外とのやり取りで対応に迫られる状況にありそうですね。特に電子署名が標準になりつつある米国とやり取りする場合の注意点などはありますか。
飯田:ESIGN法、UETAともに共通するのは、FAXやPDFでやり取りしていた時代の慣行も踏まえ、電子的記録や電子署名の定義を広く捉えていることです。特定の形式や技術を要求しておらず、書面に代わる電子的記録や電子署名の有効性、証拠能力を広く認めるものとなっています。有効性や証拠能力に関して、当事者型や立会人型のような区別もしていません。
ただし、ESIGN法やUETAを踏まえ、電子契約や電子署名が有効となるためには以下のような点に留意する必要があります。なお、それらの多くは日本の電子署名に関する法制に対応する上でも重要な項目になろうかと思います。
- 当事者に当該文書に署名する意思が認められること
- 文書を電子的に署名することについての同意があること
- 監査証跡(ログ)が残され、その記録が保存されていること
- 締結された書面のコピーを署名者が受領すること
- 記録が保存され、必要な際に再製が可能であること
また、米国の法制では、家族法や相続法に関連する文書、保険契約や生命保険に関する文書、リコールに関する文書など、これらの法律の適用が除外されているものがあります。
その他、消費者契約については、消費者が電子契約の利用を理解した上で同意していることを担保するために一定の情報の開示措置が要求されています。また、米国食品医薬品局(FDA)に文書を提出する場合など、別の法令により、特定の形式や技術について詳細に要件が定められている場合もあります。
――米国でも一部業界や消費者、個人といった部分での例外があるというわけですね。日本でもそうした例外などはあるのですか。
牧野:日本については、業界によっては電子契約を認めない法規制がありましたが、ここに来て急速に認められるようになりました。たとえば人材派遣業は、3月の通常国会の派遣法の改正で、既に認められていた対個人に加え、企業間での電子データでの契約締結が認められました。加えて不動産売買・賃貸借・請負契約なども5月の通常国会での改正法が成立して電子契約が認められています。
そうそう、日本独自の注意点としては、押印という商習慣ゆえか「電子署名=デジタル印鑑」と考える人もいますが、デジタル印鑑の電子的な印影だけでは法的な効力はありません。本人の意思で作成したことを裏付ける証明書として、必ず電子署名システムが必要になります。これは勘違いしている人が少なからずいそうなので、強調してお知らせしたいですね。
複雑な電子署名だからこそ、シンプルな導入方法を
――法制度も整い、コロナ禍やDXなどの社会的状況も相まって、国内外で電子署名や電子契約書などが一般化するのは必至と思われます。しかし、実際に導入するとなると、さまざまな方法があるので迷われる方も多いようです。
牧野:そのあたりは、導入に迷われる方もいれば、導入して手間が増えたという方など、いろいろ聞きますね。不都合で最も多いのは、導入したクラウド型電子署名システムがスタンドアローンであるゆえに、社内で利用している他のシステムとの連携ができないという状況でしょうか。たとえば営業や採用などの部門システムで契約書を締結して、それをローカルに保存して、さらに電子署名プラットフォームにアップロードして電子署名を紐付けるという作業。それをシステムごとにやらざるを得ないというのです。
中藤:修正があったら、また各部門や業務のシステムに戻って、再びその流れで電子署名依頼手続きを行うとなると、本当に煩雑ですよね。契約締結のフローそのものを、各部門のシステム上で見ることができないので、進捗確認がしづらいという話もよく聞きます。契約も、電子署名サービスプラットフォームと各部門システムの2つのサービスで締結する必要があり、効率的でないばかりか、管理にも大きな負担がかかります。
牧野:法務の方はITに強い人が少ないので、社内全体のシステム統合を考えずに導入していることもありますし、新しい仕組みが登場してもリプレースなどに躊躇することが多いです。なので、電子署名の仕組みも含めて、契約締結フローを最適化するには、各企業でシステム部門と連携していく必要があり、システム部門側の法的知識のキャッチアップも必要になってきます。
――法制面でのキャッチアップもシステムには不可欠ですし、SaaS型で常に刷新されるほうが運用も行いやすいように思われますが、ご指摘のようなシステムの分断という悩ましい問題もつきまといます。解決策はないのでしょうか。
中藤:望ましいのは、電子署名プラットフォームの電子署名機能を、必要なシステムに組み込むことで、機能の一つとして提供されることでしょう。たとえば、CM.comが提供する「CMサイン」はAPIでシステムに電子署名機能を組み込めるので、ユーザーはシングルサインオンでシステムに入って作業し、署名フローの管理及びデータ保存もその中で行うことができます。エンドユーザーのUXの向上だけでなく、業務フローも改善し、ローカルに落としてアップロードするという手間もリスクもなくすことができます。
飯田:それはいいですね。米国の法制的にも、当事者の同意証明や監査証跡の管理、記録の保存と再生といった、リアルでは難しい作業を当該システム内で行えれば、有効性が担保され、作業負担も大幅に削減されます。
中藤:電子署名独自のプラットフォームを利用する場合は、ログインなどのパスワードを覚える必要があったり、使い方に慣れる必要があったりするなど、電子署名によって一つ業務が増える感じになります。でも、既存の使い慣れてるサービスの機能の一つとして使えれば、心理的なハードルは大いに下げることができるでしょう。
さらに、CMサインは「再販形式」を取っており、自社システムの顧客に対して電子署名サービスを販売できるのでシステムの機能の一つやパッケージサービスとして提供できます。なので、契約周りまでを自社サービスで管理することでUXの向上を図りたい企業にとても人気がありますね。また、SIerやシステムベンダーなどの事業者などが、システムに組み込んでパッケージとして販売することも容易にかないます。
つまり、通常は電子署名プラットフォームとシステムベンダーの2箇所で契約をする必要がありますが、CMサインは自社システムに機能として追加し、販売できるのでユーザー企業は当社との契約をする必要がなく、システムベンダーとの契約だけでいいわけです。今、電子署名機能が入ったシステムパッケージはほぼ皆無なので、新しい機能としていただければ競合に対する差別化、付加価値化につながると思います。
開発者が電子署名機能を追加する上で、知っておくべきこととは
――SaaSのメリットはそのままに、再販型としてシステムに組み込めるというのは画期的だと思います。具体的には、どのようなユースケースがありますか?
中藤:国内ではミュートス様が提供する製薬企業向けの副作用情報収集管理システム「MESICOT(メシコ)」に提供が始まっていますが、現段階では海外での事例が進んでいるので、そちらから紹介しますね。オランダのLIFT Software(以下、LIFT社)は、20年以上にわたってソフトウェア業界に携わり、時間管理や請求書作成ソフトなどを含む、プロジェクトマネジメントシステムを提供している会社です。同社が提供しているSaaS型パーケージに、CM.comの電子署名システム「CMサイン」をAPI連携で統合し、同社の機能の一つとして顧客に販売しています。
同社が提供するソフトウェア上でシームレスに「CMサイン」の電子署名機能を使用することできます。「CMサイン」に別途ログインする必要もないため、別のシステムであることに気づかないことも多いそうです。実際に担当者からも、「今回の統合で、顧客が見積書へ瞬時に対応できるようになった。自社のSaaS型パーケージに電子署名機能を追加することで付加価値が向上し、売上にも良い影響が出ている」との声をいただいています。
牧野:ユーザー企業の反応はどうですか?
中藤:LIFT社の顧客の一つで、JEコンサルタンシー社という金融コンサルタント会社では、25人のコンサルタントを雇用し、自営業者との取引も行っています。2020年6月からLIFT社が提供するサービス上でCMサインを使用し始め、顧客への見積書や雇用契約書、自営業者への契約書などに電子署名を適用しています。
LIFT社のソフトウェア上では、送付先のメールアドレスを記入するだけで、署名依頼者に署名の依頼メールが届き、依頼された側は指定されたシステムにアクセスして署名するだけで完了します。こうした電子署名の仕組みが簡便に導入できたことで、紙や印刷のコストはもちろん、業務効率化を実現し、時間とコストを大幅に削減できました。また、オランダでは特に政府関連のプロジェクトでは、署名が法的に有効であることを証明する証拠署名の履歴ログである「監査レポート」が必須なのですが、CMサイン上で署名した際に監査レポートが自動送信されるので人為ミスの削減にも貢献しています。
飯田:いつも使っているシステム上で電子署名をするだけであれば、ITに弱い人でもスムーズに対応できそうですね。監査レポートの自動送信も法務の人間には嬉しい機能だと思います。
――エンドユーザーだけでなく、ソフトウェア開発企業にとってもメリットが大きいと思いますが、自社システムに組み込んで販売する、再販式電子署名を選ぶ上で、開発者が知っておくべきこと、注意すべきことはありますか。
牧野:ソフトウェア開発企業で特に気をつけるべきといえば、電子帳簿保存法の保存義務を満たすようにシステム構築をする必要もあるでしょう。同法は何度か改正されていますが、以前は紙ベースでも保存する必要がありましたが、認定タイムスタンプなど、一定要件を満たせば電子データでの保存が認められるようになりました。CMサインのようにはじめから入っているか、システム側で備えているか、いずれかであれば基本は問題はありません。
生産性やUXを向上させ、電子署名機能をより便利で使いやすいものに
――CMサインのような再販型電子署名システムで、実際にAPIを実装するにあたって、他に便利な機能はありますか。
中藤:APIを実装するにあたっては、CMサインの場合、機能面として開発難易度が高い”電子署名依頼画面”のインタフェイスをそのまま利用できます。電子署名依頼機能は、契約者に記入してほしい日付や名前、印鑑などを、ドラッグ・アンド・ドロップで作成するものなのですが、画面はかなり複雑な開発が必要なんですね。それをそのまま導入できるのは、ソフトウェアの付加価値向上に大きく貢献すると思います。
牧野:企業にとっては、やはり商習慣的に電子印鑑などは気になるようです。
中藤:けっこう海外の電子署名サービスには電子印鑑機能がないことが多いですね。CMサインも日本企業からの要望が高いので2月にデジタル印鑑作成機能を新たに追加しました。個人の認印、法人の角印、代表社印の3種類を作成でき、利用用途に合わせて選択できるようになっています。
――最後に、今後、電子署名機能にはどのようなことが求められていくと思われますか?
中藤:現在は、コロナの影響で電子署名サービスを利用してみようという、検討段階の企業が増えてきました。今主流なのはプラットフォーム型ですが、使い慣れるにつれて、前述のような業務フローの効率化や書面保存といった部分が気になるようになると思います。そうなった時に、CMサインのように電子署名をあらゆる業務システムの機能に直結して追加することで、業務効率化を実現し、コストや時間を削減できれば、結果として電子署名の普及につながると考えています。現在はBtoBサービスの事業者の利用が多いですが、遅れてBtoCサービス事業者でも普及が進むと考えられるので、たとえばEメールだけでなくSMSやセキュリティ上安全性の高い+メッセージで配信できる機能を搭載しています。そうしたニーズに先回りして、きめ細やかに対応していきたいと考えています。
飯田:現在は米国がトップランナーですが、欧州もかなり進みつつあり、それに伴ってアジアなど他の地域でも電子的記録や電子署名の導入が進んでいくでしょう。その中で、我が国でも企業の競争力の観点からも、しっかり対応していく必要があるのは間違いないでしょう。
日本企業は、これまで従来の仕事の進め方に頼りがちでしたが、他社が対応するタイミングを待つのでなく、自社の業務効率化、働き方改革、リモート業務、DXなど、企業変革やデジタル化のコンテキストの中で対応していかなければ、世界的な時流に置いていかれるおそれがありますね。ぜひ、できるところから結局的に取り組んでいただければと思います。
牧野:使い始めたところも、慣れてきたら全社的に効率的に統合されたより便利で使いやすいものを求めていきたい欲が出てくるでしょう。その中でいい形で競争が生まれて、より使いやすく便利な電子署名システムになっていくことを期待しています。
――本日はありがとうございました。
CMサインについての関連情報
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