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【デブサミ2021夏】セッションレポート(AD)

LINEとAzureで実現する「温泉MaaS」とは? 地域の課題をエンジニアの力で解決【デブサミ2021夏】

【B-2】地域課題解決のためエンジニアが集結!温泉MaaSを支えるMicrosoft AzureとLINEの技術

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 ICTを活用することで、人の移動を根本的に変えるサービスとして注目されている「Mobility as a Service(MaaS)」。今年5月、マイクロソフトとLINEは「Microsoft Azure」を活用し、MaaSの普及拡大を支援する共同プロジェクトを開始すると発表した。「地域課題解決のためエンジニアが集結! 温泉MaaSを支えるMicrosoft AzureとLINEの技術」というセッションでは、日本マイクロソフトの清水宏之氏と共にLINEの比企宏之氏が登壇。LINEがMaaSの支援をする理由のほか、LINE APIとAzure活用した長野県千曲市の事例「温泉MaaS」が紹介された。

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左から:日本マイクロソフト株式会社 MaaS & Smart Infrastructureソリューション本部 専任部長 清水宏之氏、LINE株式会社 Technical Evangelismチーム マネージャー 比企宏之氏

左から:日本マイクロソフト株式会社 MaaS & Smart Infrastructureソリューション本部 専任部長 清水宏之氏、
LINE株式会社 Technical Evangelismチーム マネージャー 比企宏之氏

使いやすいMaaSを実現するためのUXのあり方とは

 日本マイクロソフトの清水氏は運輸・物流・建築・不動産領域のインダストリースペシャリストとして活動を行いながら、特に民間主体のモビリティサービス、スマートシティサービスのビジネス支援を担当。地域交通課題解決に向けた取り組みとして、LINEとのMaaS領域の共同プロジェクト推進に注力している。一方のLINEの比企氏は、LINE APIのデベロッパーリレーション、クラウドとの連携を含めたLINE APIのエコシステムの構築を担当。最近はMaaSのテックサポート、オフラインのDXの推進にも注力しているという。

 昨今、話題となっているMaaS。MaaSとは、ICTを活用してマイカー以外の全ての交通手段によるモビリティ(移動手段)を一つのサービスとして捉え、シームレスにつなぐという概念だ。「以前からある公共交通や移動車やバイク、自転車、徒歩などの所有するモビリティは変わりがないが、共有タイプのモビリティの種類がどんどん増えている」と清水氏は語る。

 従来の共有タイプのモビリティとしてはレンタカーなどしかなかった。だが今はカーシェアやライドシェア、シェアバイク、シェアサイクル、さらにはキックボードなども登場している。これらのモビリティは現在、個別に手配する必要がある。「これを一つにまとめて手配できるようにするのが、MaaSが目指す世界」と清水氏は説明する。スマートフォンなどで目的地を設定すると、さまざまなモビリティサービスを組み合わせ、ストレスなく移動できるようにするのである。

 MaaSというとこうした方法論に注目が集まりがちだが、より大事なのはMaaSによってどんな課題をどう解決できるのかだ。2019年より国内では「スマートモビリティチャレンジ」支援事業がさまざまな地域で実施されており、「モビリティによる地域の課題解決がトレンドになっている」と清水氏は言う。

 地域課題を解決するソリューションとして注目されているMaaS。なぜ、LINEがその支援を始めるのか。

 理由の一つは、LINEが生活インフラとして定着しつつあること。2021年6月時点における、LINEアプリの月間アクティブユーザーは約8900万人。これを日本の総人口で割ると、約70%の人が利用していることになる。「企業などでのLINE公式アカウントの活用も年々、増えている」と比企氏は語る。

 もう一つの理由は、LINEが2019年6月より「Life on LINE」というビジョンを掲げていることにある。これは24時間7日間、生活全てをLINEがサポートするということ。「24時間7日間ずっとLINEを使ってもらうには、オフラインをいかにカバーするかが最重要になる。そこで19年7月にリリースしたのが『LINEミニアプリ』。これを使えば、LINEの中でモバイルオーダーや会員証などのサービスを簡単に提供できるようになるというもの。LINEミニアプリを導入する企業はどんどん増えています」(比企氏)

 Life on LINEの対象は小売り、エンターテイメント、移動、金融、行政都市などさまざまな領域があるが、「今回は移動の領域に焦点を当てて、フォローすることとなった」と比企氏。とはいえ、LINEがMaaSのサービスを提供するわけではない。LINE APIの提供により、各事業者の課題を解決していくという。「LINEから見たMaaSとは、使いやすいオーダーメイドの移動体験を提供すること。日々の暮らしを支える身近で簡単なサービスにすることを目指している」(比企氏)

 一般的に身近で簡単なサービスにするために、重要になるのがUXである。UXの一般的な定義はユーザー・エクスペリエンスだが、「企画者はユニーク・エクスペリエンスに陥りがち」と比企氏は言う。つまり他社と差別化するために、オリジナリティを入れることにこだわり、かえって使いにくいものになったりすることがあるという。

 だが、本来オフラインでユーザーが求めるUXとはユニバーサル・エクスペリエンスだという。ユニバーサル・エクスペリエンスとは次の「4つのレス」を可能にする。

 第一にサービスへのシームレスな流れやアプリ導入作業が不要などの「フリクションレス」であること。第二に同じようなサービスで操作方法を迷わせない「操作学習レス」であること。第三に適切なタイミングでのサービスと心地よいコミュニケーションが提供できる「心の壁レス」。第四はサービスの中にキャッシュレスが内包されており、キャッシュレスすら意識させない「プライスレス」であることだ。

 すでにLINE APIはさまざまな課題解決に活用されており、その概要は「LINE API Use Case」というサイトで紹介されている。「同サイトでは操作できるデモやシステム図、OSS、開発するための情報もそろっている。関心のある方はぜひ、見てほしい」と比企氏。

 LINE API Use CaseではMaaS系のものだけではなく、OMO(Online Merges with Offline:オンラインとオフラインの融合)的な新しい移動体験が得られるユースケースのデモも提供している。「PCの画面とスマホのLINEアプリの画面が同期するUXとなっている。ぜひ、PCとスマートフォンで操作をしてほしい」と比企氏。

LINE APIのユースケースが見られるサイト
LINE APIのユースケースが見られるサイト

 そして今回、LINEとAzureが連携することで、「移動の効率化だけではなく業界やオフライン/オンラインの壁を越えた、シームレスなワクワクする顧客体験『Beyond MaaS』の世界を目指していく。月間8900万ユーザーを持つLINEのオフラインでの顧客接点のサービスのフリクションレスをAzureとLINE APIで実現し、オフラインの世界を変えたい」と比企氏は意気込みを語る。

LINE+AzureのMaaS事例、千曲市の「温泉MaaS」とは?

 LINEとAzureを組み合わせてどんなMaaSに取り組んでいるのか。その事例として清水氏が紹介したのが長野県千曲市で展開している温泉MaaSである。

 千曲市は長野市の南にある市で、地域全体をワークスペースにするという「ワーケーション」という地域活性化の施策に取り組んでいる。「例えば棚田をワークスペースにする棚田ワークや寺の本堂をワークスペースにする寺ワーク、観光列車をワークスペースにするトレインワーク、足湯温泉をワークスペースにする温泉ワークなど、仕事のシチュエーションや気分に応じてさまざまなワークスペースで仕事をしてもらえるよう整備している」と清水氏は説明する。

 同市のワーケーションには課題があった。まずはワークスペースが点在していること。次に公共交通で来る人も多いが、公共交通路線と離れていること。さらに全ての場所に駐車場は完備されていないこと。そして送迎も検討してはいたが、将来を通しての継続性に難があったことだ。

 この課題を解決するために千曲市ではMaaSに取り組むことにしたという。

 千曲市がMaaSに取り組む背景には、実は清水氏の存在があった。清水氏は昨年9月、千曲市のワーケーション体験会に参加した。その際に千曲市が移動手段に課題を抱えていることを知り、事務局の人にMaaSという概念を紹介したのである。

 すると千曲市も「面白いからやってみよう」という話になり、昨年11月に開催されたワーケーション体験会で、地域の移動課題を考えるアイデアソンを開催することになった。「このアイデアソンにはワーケーション体験会参加者だけでなく、地域の行政や交通機関、商工会、温泉旅館の経営者、千曲市民など30人が参加。ワーケーションに来た人、観光に来た人、千曲市に住んで仕事をしている人、生活をしている人で自動車がある人、ない人と、想定される5つのペルソナにわかれて検討しました」(清水氏)

 その中で出てきたのが、初めて行った地域で、タクシー配車を電話で依頼するのはハードルが高いという意見。そこで生まれたのが、「気軽にタクシー配車を依頼できる温泉MaaSだった」と清水氏。

 だが、MaaSの仕組みを作ったとしても、本当に来訪者に利用してもらえるのか、という課題があった。「いきなりいろんな機能を持ったアプリを作るのはリスクが高いので、簡単なアプリで試してみることにした」と清水氏は語る。

 そしてタクシー会社に温泉MaaSを受け入れてもらえるかという課題もあった。そこでタクシー会社にはアプリは配車受付のみで試してもらうことにしたという。「運転手とのやり取りは従来の無線で指示する方法を採用しました」(清水氏)

 また決済についても紙のチケットで支払うという方法を採用している。

 出来上がった仕組みは、ユーザーがLINE公式アカウントを友だち登録すると、LIFF(LINE Front-end Framework)アプリというLINEアプリ上で動くウェブアプリとしてタクシー配車予約画面が立ち上がる。そこで必要な情報を入力すると、タクシー会社に通知が行き、ユーザーに「迎えに行く」という連絡が届くというものだ。

温泉MaaSの仕組み
温泉MaaSの仕組み

 システム構成にはAzure Static Web Serviceという静的なWebの仕組みをホストする仕組みを採用。各種リクエストについては、サーバーレスのクラウドサービスAzure Functionsを使ってバックエンド側とやり取りする仕組みとなっている。「今回はSQLデータベースを使っているが、用途に応じて、NoSQLデータベースのCosmos DBを選択してもよいかもしれない」と清水氏は言う。

温泉MaaSのシステム構成
温泉MaaSのシステム構成

 観光地はコロナ禍の影響もあり、経済的に打撃を受けている。「ここにエンジニアが貢献できる領域がある」と清水氏は力強く語る。

 今回、千曲市では地域を活性化させるため、ワーケーションという施策を採用した。だがワーケーションによる関係人口の増加、平日需要の創造、観光需要の増加を誘うためには、持続可能性がなければならない。一過性のものにしないために、千曲市では温泉MaaSという取り組みを採用した。「温泉MaaSに関わっている人はワーケーションのリピーターになっており、地域のエンジニアと共に温泉MaaSを作っている。このような取り組みを通して、持続的な関係人口を増やしていけると思う」(清水氏)

 温泉MaaSはワーケーションイベントの実施ごとに発展中だという。「レンタサイクル管理、チャットボットの仕組みなど、要望のあったサービスを増やしていこうとしている」と清水氏。

 最後に清水氏はこう聴講者に呼びかけて講演を締めた。

 「ワーケーションで自分の技術を生かして地域貢献することを考えてみてはいかがでしょうか」(清水氏)

【オンデマンド ウェビナー】長野県千曲市のワーケーション x MaaSの取り組み

 本オンデマンド ウェビナーでは、「温泉MaaS」の取り組みを推進している長野県千曲市のふろしきや田村様に、取り組みの狙いや内容を現地の様子を交えてご紹介します。

【Microsoft Learn】Azure Static Web Appsについて学ぶ

 Microsoft Learnは、マイクロソフトの様々な製品やサービスを、短時間で効率よく学習できる e-Learningで、どなたでも無料でご利用いただけます。サンドボックス環境で実機演習するものや理解度を確認するクイズなどが含まれています。

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【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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