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これから考えるエンジニアのキャリアの形

エンジニアが憧れる自由な働き方の実状とは? 日米の顧客と協働するアジャイルコーチ 藤原大氏が語る「楽しい働き方」への道

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仕事の選び方や進め方、時間管理の方法……組織にとらわれない働き方の実状は?

――どんな形態でも「本業」としてコミットできることが大切なのですね。では、そのような仕事をどのようにして見つけられるのですか。「クライアントの期待値とのマッチング」に加えて、何か見極め方はありますか。

 基本的には紹介がメインで、課題解決したい情熱を持った方ばかりなので、期待値が合えば仕事で失敗することはほぼありません。あえて、その中でもお引き受けする際に重視しているのは、「いいプロダクト」を持つ会社であることです。好きな人が好きなプロダクトを作っている会社はいいですよね。エンジニアはプロダクトを介して社会とつながるので、そこに充足感がなければモチベーションを保つことは難しいでしょう。まして他に真似のできない「なくてはならないプロダクト」ならさらに魅力的です。アジャイルコーチとして、アジャイルでいいプロダクトがさらに価値を増すことは嬉しいこと。mablについても、日本代表を引き受け、営業やCX、CS活動など慣れないことにまでチャレンジしているのも、プロダクトに魅力を感じているからです。

 そしてもう一つは、相手と「いいコミュニケーション」ができるかどうかです。「まっとうな議論ができるかどうか」とも言えるでしょうか。アジャイルコーチは、自分で手を動かすのではなく、組織や人の変化をサポートする役なので、その人たちが変わらないとゴールには到達できません。だからこそ、時には厳しいことを言う必要もあるんです。また、チームの中で意見が合わないこともあるでしょう。そうした時に「あの人は気に食わない」と攻撃するなど、「意見」と「人」とを分けてコミュニケーションできないと議論ができません。

 一方、「ユーザーのために」「プロダクトのために」という健全な話し合いができれば、たとえ意見が分かれても、「こっちをやってみようか」という話もできます。上手くいかなくても方法がダメだっただけで、人がダメなわけではないですから。コミュニケーションが上手くいけば、どんどん組織やメンバーは変化するし、短期間で私がいなくても成果が出るようになります。それに従って、私の収入も減っていくのですが(笑)、最終的には自走できる組織になることが目標であり、それが私の喜びでもあるんです。

――本当に楽しそうに働いていらっしゃいますが、逆にデメリットや後悔したポイントなどはありますか。

 後悔は全くありませんが、バックヤード業務を全部自分で行うのは慣れるまで大変でした。以前から確定申告はしていましたが、会社を作るのは初めてで、判子を作ることから、役員決めや届け出などやることが多くて大変でした。それでも最初だけで、今はルーティンワークとして妻と分担し、税理士さんなど専門家に依頼できるところは依頼しています。

 それ以上に大変だったのが時間管理です。最初の頃は打ち合わせを入れすぎて疲弊し、自分の仕事のクオリティを維持するためには、1日3社がちょうどいいことに気づいてからペースが整ってきました。朝は寝ているか、運動しているか。昼の2時から6時をコアタイムとして3社分の仕事をして、夕方は家族との時間、夜は時差の関係もあってmablの仕事に当てています。週単位で「○曜日の○時」とクライアントごとに時間を決めているので、調整もさほど難しくありません。通勤時間もほぼないし、実感として、会社にいた頃より仕事時間は約半分、アウトプットは倍になったように感じます。

 最近はリモート作業が増えて、ミーティングなどのやりにくさを感じていましたが、いろいろ試してようやく慣れてきました。「仕事の切り替えが難しくないか」と聞かれますが、会社で勤めている時も、複数の仕事をやるのは普通で、割り込み仕事も多かったので、むしろ自分でコントロールできる分、楽になりました。ただ毎日違う会社とやりとりするので、翌日以降に回すと、仕事の調整が必要になり、内容も忘れてしまうので、受け取った仕事はその日に終わらせて相手に渡すようにしています。

過去の習慣を忘れ、自分の「楽しい働き方」に向けて行動してみよう

――フリーランスとなられて3年、自由な働き方を得たことによるメリットについてお聞かせください。

 一つはやはり時間的な余裕でしょうか。前述のように自分に合ったペース配分ができて余裕ができ、家族との時間が取れるようになりました。リモートメインでできる仕事でもあるので、1週間ほどワーケーションとして友人と奄美大島の古民家に短期滞在したこともあります。

 そして、多彩な経験ができることも大きなメリットですね。一定スキルが身についてくると働き方がパターン化し、それでも会社ならそれなりの価値は出せるので、変わらずにいることもできます。でも、世の中が変化し、高度化する中で、ずっと同じことをしていてはスキルの価値は低下します。

 フリーになれば、さまざまな組織の、さまざまな価値観に触れて、新しい挑戦ができます。お金をいただきつつの挑戦で、失敗できないのはヒリヒリしますが、緊張感があるからこそ成長もできるし、新しい武器も身につきます。

 私の場合、直近ではmablでの仕事が特に大きな刺激になりました。米国の会社で日本市場を相手にした仕事なので、価値観や商習慣のギャップが大きく、意見もかなり割れます。しかし、丁寧に説明すれば米国側とは異なる意見も「make sence!(そうだよね!)」と受け入れてもらえる。ただ日本市場はまだ小さいので、特にコストのかかるマーケティングに関してはシビアで、ここも喧々諤々とやっています。英語でのコミュニケーションについても、リモートメインになってテキストでのコミュニケーションが増えたことが幸いし、なんとかなっていますね。むしろダイレクトに伝えすぎて怒られたりしています(笑)。

――組織に縛られず、自由な働き方をしたいと考える人はこれからも増えてくると思います。そうした人にアドバイスをいただけないでしょうか。

 私自身の体験からいえば、会社に属しながら副業で少しずつ世の中における「自分の価値」を知り、それによって独立・開業する方法は悪くないと思います。確定申告などに慣れて、税金や経費などの実感を得るのも必要でしょう。ただし、本業ができていない人が、副業をやるのは本末転倒だと感じますね。「お金を稼ぐ手段」としての副業だと、アルバイトと同じように「時間を切り売りすること」になりがちです。価値ではなく、時間を売る形態だと市場や雇用側都合で価格も決まります。その副業で本業のスキルが上がるのか、より高い価値を提供できるのか。そうしたことを意識すれば、行うべき副業も決まり、自分の「身の丈」も見えて、独立後の自分の働き方も想像できると思います。

 あと、ちょっと苦言になるかもしれませんが、今の仕事の問題を打開できない人には「自由な働き方」は向いていないかもしれません。フリーになれば基本的に問題は自分で解決する他ありませんので。

 私自身はアジャイルコーチをやっているほどなので、課題を解決することが得意で好きなんですよね。だから、そこに集中してバリューが出せる働き方を模索してきたつもりです。しかし、そうした試行錯誤をしなければ、いつまでも自分の価値を高めることができません。例えば、僕のような凡人だと、たいしたコーディングができず、時間労働になりがちなので、最もバリューが出せる部分にどうやって集中するか考える必要があります。どういう働き方でも、最適化は必須だと思います。

 具体的には、ちょっとありきたりながら、自分のキャリアを定期的に見直すことが重要だと思います。転職活動を始めて慌ててやるのではなく、1年の終わりにLinkedInを更新してみるだけでもいいでしょう。1年間の差分がどのくらいがあるのか、そして自分のコアは何なのか。私の場合は、テスト自動化やQA組織づくり、エンジニアリングマネジメントなど、強みを複数作れたのはラッキーだったと思います。特にアジャイル開発は一番のコアになりました。次は「コーチング」を加えて、誰かの自走を加速させるような力を身に着けたいと思っています。

――働き方の最適化という意味で、今後どのようなことをお考えですか。

 以前から3都市くらいを行き来しながら仕事ができればと考えており、実際、短期的なワーケーションも経験して、現実味を帯びてきました。もとは大阪出身で、地元に仕事がないから東京に出稼ぎに来たという感覚だったんですよね。でも、今後は大阪にいても東京の仕事ができるだろうし、他の場所でもできる。場所にとらわれず、「自分がやりたいこと」をやれる時代になってきたと感じます。

 今後はもっと制約がなくなって、「会社にいればお金がもらえる」ということもなくなるでしょう。それはそれで厳しい時代になるかもしれませんね。だからこそ、まずはユーザーとしてでもプロダクトなどを触ってみて、可能性を感じたら仕事をしたい会社の人に会いに行ってみることが大切だと思います。人と会って肌が合う人と仕事を考える。そして、その対象となる世界に広げてみるといいと思います。色んな人と会って、ガンガン仕事を検討し、ガンガン仕事に失敗したり、仕事が成立しなかったりすることに慣れることも大切です。上手くいかなかった理由もしっかりフィードバックを受けて、自分の市場価値を知れば、一回り成長できるでしょう。

 私自身、「組織の枠を越えて働きたい」「3拠点で働きたい」というように、「無理だろう」と思われるような働き方をイメージしながら、自分の価値を考え、行動してきたことで、幸運にも理想とする働き方に近づきつつあります。その中で実感しているのが、これまでの働き方の常識や習慣をリフレッシュすることの大切さです。アジャイル開発の中にも、「過去の習慣を忘れる」というプラクティスがあり、新しい習慣を作ってみると「どうして今までこんなことをやっていたんだろう」と思わされるんですよね。ぜひ、働き方の固定概念にとらわれず、それぞれの「自分にとっての楽しい働き方」を考えていただきたいと思います。

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この記事の著者

伊藤 真美(イトウ マミ)

エディター&ライター。児童書、雑誌や書籍、企業出版物、PRやプロモーションツールの制作などを経て独立。ライティング、コンテンツディレクションの他、広報PR・マーケティングのプランニングも行なう。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

小林 真一朗(編集部)(コバヤシシンイチロウ)

 2019年6月よりCodeZine編集部所属。カリフォルニア大学バークレー校人文科学部哲学科卒。

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https://codezine.jp/article/detail/14690 2021/09/02 11:00

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