アジャイル開発を推進するため組織自体も段階を踏んで変革していく
続いて、水野氏が再度登場して、組織の変革事例について説明した。
「アジャイル開発では、チームが自律していることが重要です。しかし、それだけで成功するとは限りません」。たとえば、3つのチームがそれぞれが自律して動いているとする。うまくいっているチームもあれば、うまくいっていないチームもあり、さらに、うまくいっていても方向性が異なるチームもあるとなると、果たして成功とは言えるだろうか。
自立したチームがさらに方向性も合わせるためには、組織が関与し、最低限のルールや規定を共有する必要がある。つまり、自律だけじゃなくて自律と規律とのバランスが重要だというわけだ。
水野氏は、こうした組織の関与の仕方として「組織のDoneの定義」と「事業プロセスにおける審査の適用」を例に挙げた。
「組織のDoneの定義」は、組織として守るべき品質を定義したもの。「事業プロセスにおける審査の適用」は、従来ウォータフォールでやっていた企画や検証段階でのゲートにあたる。「アジャイルでこうした関与が必要なのか疑問を持つ人もいるかもしれませんが、組織のなかでチームを運営する以上は最低限必要になると考えています。ただし、チームの規模や重要性などでレベル分けして権限を委譲するといった進め方をしています」
そして水野氏は、組織としてアジャイル開発を推進するためには、組織自体も段階を踏んで変革していく必要があると語った。そのために、ジョン・コッターの組織変革の8ステップを順に取り組んでいくといいと述べた。
「具体的には、まず変革をリードするチーム作りを行いました。変革推進に必要な人材を巻き込んでチームを構成します。また、組織としてのコミットメントも必要になります。たとえば、このチームもアジャイル的に進めたいので、アジャイルを理解して組織内の推進をリードできるアジャイルリードを配置するといった具合です」
さらに、社内外問わずステークホルダーとの調整ができるコーディネーターという役割の人を配置した。このコーディネーターがハブとなって、ステークホルダー間の調整や情報共有をはかり、全体をとりまとめて円滑に動くように仕向けていったという。
最後に、こうした成功事例をどのように組織に定着させようとしているのか。そのための重要な要素として、水野氏は「アジャイルリード」という役割を紹介した。
組織内でアジャイルを推進するチームを作ったら、そのチームのスクラムマスターがアジャイルリードとして参加し、新規チームの立ち上げを支援する。ここで立ち上がった新規チームのスクラムマスターが、さらに別の新規チームの立ち上げ時にアジャイルリードになる。これを繰り返していくことで、組織内の横展開をはかっていくというわけだ。
「このように組織の変革を推進していきましたが、まだまだやりはじめたばかりです。今後も、こうしたスキームにのっとって定着化をはかっていきたいと考えています。もしも、こういった事例が皆さんの参考になれば、持ち帰って活用いただけることを期待しております」
水野氏はこのように語り、セッションを締めくくった。