ソフトスキルを身に付ける研修はどのように作られたのか
平子氏は2022年の新卒研修の設計で外部の力を借りると決めた後、教育を手掛けている複数の企業に連絡を取った。その中でもギブリーの提案は「ディー・エヌ・エーの意図をくみ取ったものであり、魅力的だった」と振り返る。ただし、「提案内容をどのように実現するのかという部分が見えていなかったのが不安だった。そこで、検証のための時間を長めに取った」という。
両社の取引が決まり、ギブリー側からの提案を受けるようになると、不安は的中する。新田氏は「ディー・エヌ・エー側の意図を可能な限りくみ取って提案していったが、『何か違うんだよなー』という反応が続き、話がなかなか前進しなかった」と、当時の状況を思い返す。
当時感じていた違和感について平子氏はこう語る。「研修生には『学ぶことは楽しい、今後も学び続けたい』と感じてもらいたいという思いがあったが、ギブリー側の提案を見てもそれが研修生の体験にどのようにつながるのかという部分があまり見えていなかった」。
新田氏はその当時の提案内容について「今考えると、講師やカリキュラム内容など研修のハード面の話が多かった。先方が求めていたのは研修生に与えたい体験や感情変化などのソフト面だった。これではすれ違いが続くのも不思議ではない」と語った。提案の差し戻しが続いたため、新田氏は平子氏にジャーニーマップを共同で作るところから始めることを提案した。「ここから空気が変わっていった」(新田氏)。
ジャーニーマップの作成を提案した理由について新田氏は「何をいつやるかではなく、受講者に最終的にどうなっていてもらいたいか。学習の過程で何を感じてほしいかといった抽象的なところですりあわせができていないと上手くいかないだろうなと考えた」と明かした。そして、ジャーニーマップを作ることで「抽象度が高いレベルで抱えていた暗黙知的なものをすりあわせながら進めることができた」と振り返る。
ジャーニーマップを作成するときは、平子氏と新田氏の2人だけでなく、昨年の受講者、研修を担当する講師、現場で活躍しているエンジニアなど、さまざまな関係者に参加してもらったという。そして、ジャーニーマップを作る際には「ペルソナを決めて、ユーザージャーニーを書いていった。昨年の受講者にはペルソナとして関わってもらった」(新田氏)そうだ。
多様な参加者が意見を出し合った結果、完成したジャーニーマップ(下図)はかなり大きなものになった。結果について平子氏は、「多様な参加者の視点、もちろんギブリーの視点も盛り込めて、ディー・エヌ・エー単体ではできなかった価値の創出につながった。作成時は参加者間で議論しながら進めたが、アイデアがポップコーンのようにポンポン飛び出していた」と手応えを語る。
平子氏はまた、「ジャーニーマップの作成時はマインド、感情といったところから入っていった。『研修生には最終的にこういうことを考えていてほしいな』ということや、『今後の研修を楽しみだと思う』などといったことを考えていた」と、研修生の感情を第一に考えて進めたことを強調した。研修生には「研修を受けた後の自分にわくわくドキドキしていてほしいな」とも思っていたという。
ジャーニーマップの効果は大きかったようだ。「研修生の感情、体験など価値観をすりあわせ、それを実現するにはどうすれば良いのかという視点を持って、実際の研修で何をするかを話し始めたらスムーズに話が進むようになった」(新田氏)。
こうして研修内容が決まり、実際に研修が始まる。しかし、ここに至っても研修内容は完全に固まったわけではなかった。平子氏は「受講者から毎日アンケートを採り、アンケートの結果に応じて毎朝研修の内容を調整した」と研修時を振り返った。ちなみに、研修時に受講生が開発したサービスは「CTO室が引き取って、現在でもディー・エヌ・エー社内で運用を継続している」という。サービスの完成度の高さと、それを可能にした研修の充実ぶりがうかがえる。
最後に平子氏は今年度を振り返って来年度に向けてこう語った。「まず、来年度入社の新卒については採用が上手くいって、今年度の倍の人数になった。今年度のままではできないので、内容を考え直したい。そして、今年度は講師を早く決めることができなかったため、設計から講師を巻き込むことがあまりできなかった。来年は早めに講師を決めて巻き込んでやっていきたい」。