「監視されている感」「自分のタスクさえ終われば良い」「ひとりで解決しようとする」──リモートワークでのチーム開発の課題
──それぞれ現在の役割や経歴を教えてください。
萱間:2005年に伊藤忠テクノソリューションズ(以下、CTC)に入社したJava世代です。Webアプリケーションアーキテクトを経て、8~9年前からアジャイル開発を始め、現在は未来技術研究所で新規事業を開発しています。同時に組織のテックリードやプロダクトオーナーを務めつつ、実際にコードも書いています。
岡:2014年に入社して、いろんな新規ビジネス開発に関わりました。ウォーターフォール開発を一度もしていないので、アジャイルネイティブ世代かなと思っています。どう立ち回ればチームや組織に貢献できるかを日々考えているサポータータイプです。「Team on Air」ではマーケティングを担当しながらコードを書いています。
北沢:新規事業に携わりたいと一念発起してCTCに中途入社しました。Webアプリケーションエンジニアとしてさまざまなプロジェクトへ携わり、アジャイル開発を経験し、本プロダクトの課題感や世界観に共感し、デベロッパーとしてチームに参画しました。
──「Team on Air」はどのような背景で生まれたのでしょうか?
萱間:自社でアジャイル開発を始めてから時間が経ったことでノウハウがたまり、お客様企業でのアジャイル開発支援もするようになりました。そうしたなかで新型コロナウィルスが流行して、よく言われるように、交流が減ったことで「互いのことがよく分からない」状況が多発しました。そこでリモートワークをしているアジャイル/スクラムチームとか、オンラインのチーム開発を支援することができないかと考え「Team on Air」のサービス開発に至りました。
──オンラインでのチーム開発について、開発メンバーの目線ではどういった課題がありましたか?
岡:チーム開発ではゴールを達成できるように、計画していた課題を一つでも多く完成させたいと思いますよね。自分の課題はなるべく早く解決したいですし、また手が空いてる人がいれば手伝ってもらいたいですし、他のメンバーが大変な課題を抱えていたら手伝いたいという気持ちがあると思います。しかしリモートワークだとチームの状況が分かりにくくてアクションを取りにくいです。私を手伝ってくれるメンバーはいるのか、困っているメンバーはいるのかが見えないのは課題だと思います。自主的に「手伝ってほしい」と言えればいいのですが、チームの様子が分からない状態では声を掛けにくいです。
北沢:私は課題が2つあると考えてます。1つはオンラインのコミュニケーションでよく使うチャットツールです。情報をインプットするよりも未読の解消を優先してしまい、読み飛ばしが発生し、チームの状況を把握できなくなってしまいます。それで会議で「すみません、それ何でしたっけ」と聞いてしまったり……。
もう1つは、オンラインでチームを意識しづらくなり、協力頻度が減少していきます。結果として課題が発生しても1人で解決しようとして、時間が多くかかってしまいます。チームに伝えていたら、アドバイスをもらえてより早く解決できたかもしれません。
──チームをまとめる萱間さんの立場ではどうご覧になりますか?
萱間:リモートワークでは周囲の情報が乏しくて「自分に与えられた仕事を完成させればいい」と個人主義に走りがちです。それで当事者意識が薄くなります。もう1つは「情報偏食」。インターネットでは好きな情報ばかり流れてきてしまうので、インプットが偏ります。デベロッパーだと技術的に楽しいことなど興味があるものばかり追いかけてしまいがちです。それらと同じくらいチームの生産性、チームの進ちょくを知っておくことは大事なのですが、なかなかその情報を得る機会が少ないことが課題だと感じています。
──実際、オンライン開発の現場ではどんなことが起きましたか?
萱間:オフラインの時は作業中とか、おやつを食べているとか、全部見えていたのに、オンラインで見えなくなったのが大きなインパクトでした。全く面識がない人とチームを組んだ時に、その人がどんなおやつを食べるのか、そもそも食べないのか、情報がまるでない。カンバンを見れば着手しているものは分かるが、課題があるかよく分からない。スクラムマスターとしてプロジェクトを見た時に、状況が全然分からないと実感しました。
それでリモートワーク中はZoomで常時接続をすることがありますが、徐々にメンバーが脱落していきました。目の前にいないのに、繋がっているような拘束されているようなストレスがあったようです。
岡:自由に作業ができるはずなのに、監視されているような感じがあり、のびのび作業ができなくなってしまう感じでした。逆に何もないと、1人で開発しているようでチームの繋がりがなくなるような感じになります。
北沢:いわゆる「分報」、逐一、Slackで自分の状況を知らせるような取り組みもありましたが……。
萱間:それも労力でストレスになる場合があります。そもそも自ら情報発信することが得意な人と不得意な人がいます。沈思黙考する人もいるので、みんな同じにはできません。
GitHubを「聞く」? チームの状況をストレスフリーに把握する「Team on Air」
──リモートワークにおけるチーム開発の課題解決のために「Team on Air」があるとのことですが、どんなサービスでしょうか?
萱間:先のZoom常時接続やSlackの分報などはオフラインのやりかたをオンラインで実現しようとしているので、うまくいかないと思いました。そこで、オンラインでしか働いたことがない「オンラインネイティブ」の視点で考えてみたところ「耳って暇じゃないか?」と気づいたのがきっかけです。
オフィスでは耳でいろいろ聞いていたのに、リモートワークでは耳は使いません。この耳で「ながら聞き」すれば、効率的に情報のインプットができるのではと考えました。Slackだとメンションの通知はプッシュで届いても、内容を見ようとするとウィンドウを切り替えるなど自発的な行動をしなくてはなりません。投稿を見てから作業に戻るとしても、集中力を戻すのに時間がかかります。こういう積み重ねが個人、ひいてはチームの生産性に影響を与えてしまいます。
「Team on Air」ではプッシュで通知が来たら操作不要で耳で聞くだけ。作業に集中したければ聞かなくてもいいようにできます。これがチーム開発の情報インプットを「ながら聞き」するというソリューションです。
──開発者としては使うツールが増えることになりますが、実際に使ってみてストレスはなかったですか?
北沢:あくまで耳で聞くのがメインなので、個人的には使っている実感がなくインプットできるのでストレスはなかったです。例えばSlackで投稿された時や、GitHubのイシューにコメントが作られた時などのタイミングで情報が流れてきます。
──会議の時とか、ミュートが必要な時があるのでは?
岡:ミュートは画面右上にあるボタンをクリックするだけで、すぐミュートできるようになっています。ただ、ミュートを忘れてミーティング中に流れてしまうことがあるので、Zoomやミーティングツールを開始したら、自動検出してミュートにする機能を開発中です。ミュート中のメッセージは後から読み返せるよう、タイムラインのように文字で表示されています。
──アジャイル開発に関連した機能はありますか?
萱間:もともと「Team on Air」はアジャイルのチームビルディングをサポートするというコンセプトがあるので、アジャイルのセレモニーをお知らせする機能があります。
岡:チームが何曜日始まりかなどを設定できるようになっていて、例えば「今からプランニングです」「今からレトロスペクティブです」とか通知できるようにしています。クラウド連携すると「今回のスプリントの目標は○○です」「ストーリーポイントは現在X%消化しています」などの進ちょくも流れます。状況により、メンバーのケアやヘルプに使ってもらえるといいなと思います。
──開発者としては普段使うGitHubとの連携が気になるところですね。簡単に連携できますか?
岡:例えばGitHubと連携するなら、ブラウザを開いて認証して、オーガニゼーションの名前とリポジトリの名前を入力して[登録]を押すだけで連携できます。後はそのリポジトリでイシュー作成、コメント記入、アサインがあれば、それらをトリガーに音声が流れます。
萱間:詳しい情報を知りたければ、「Team on Air」アプリ内のリンクからジャンプできます。例えばGitHubならイシューやコメント、Slackなら該当のチャンネルとか。「Team on Air」を入口にして、いろんなサービスに飛べます。自分でそれぞれのツールを開く必要がなくて便利です。詳細情報が集約されるとも言えます。
GoogleカレンダーからAmazon CloudWatchまで! 今後追加される新機能は?
──チームの働きやすさについての機能はどうでしょうか。
萱間:まだ開発中の機能ですが、チームに必要な技術情報(ブログやニュース)を盛り込もうとしています。RSSのようなイメージです。あるいは、メンバーの人柄や価値観を共有するために、あらかじめインタビューしたものを決まった時間に配信することも考えています。
──実際に使ってみた感想を教えてください。
岡:チームの状況がなんとなく聞こえてくると、そこから察知してコミュニケーションが増えたと感じてます。今までならプルリクが上がっても自分がレビュアーとして設定されるまで気づきませんでした。しかし音声でプルリクが上がったと知ると、自分がレビュアーでなくても「いい機能をありがとう」とコメントする機会が増えました。同時に「そこは少し違うんじゃない?」とコメントすることも増えましたが。
またそれぞれが「プルリク作りました」と分報で発信する必要がなくなり、その分フィードバックや困っている人を手伝うことに回せています。プロダクトの価値を高めるうえでいい影響を及ぼしていると感じています。
萱間:「Team on Air」で一方的にインプットを増やしたらアウトプットが増えたのは意外で興味深かったです。これまでランチの誘いとかやってもあまり成果が見られず試行錯誤していましたが、「Team on Air」を始めたらなぜかコメントが増えて驚きでした。コミュニケーションにいい影響を与えています。
北沢:チームの状況が把握しやすくなり「個人ではなくチームでプロダクト開発している」と意識できるので「チームとして何が最善か」を考えながら行動しやすくなったと思います。
──社外で使っている方からはどんなフィードバックが届いていますか?
岡:アプリケーション開発や保守・運用を請け負っているある企業さんからは「最初“ながら聞き”ってどうだろう? と思ったが、意外となじむ」とか、「文字だと読みきれない情報も音声だと聞きやすい」、「目で文字を読むより、耳で聞く方が記憶に残り、フォローに繋げることができた」という感想がありました。
──あらためてこのサービスの現状と今後を教えてください。
萱間:現在はベータテストでプロブレムソリューションフィット(PSF)、つまり本当に課題を解決できるかどうかの確認をしています。ちゃんと課題を解決できていると確認できたら、正式なサービス化に向けて進むつもりです。
──今後追加予定の機能にはどんな機能がありますか?
北沢:スクラムのなかでボトルネックや滞留しているところに気づけるような機能も開発中です。着手中のイシューが一定時間を過ぎるとアラートが出るとか。
また、まだ構想段階ですが、音声入力機能も考えています。例えば、現時点では「○時からZoomでプランニングがあります」と通知があるのですが、これをZoomに参加するなら「参加します」と言えばZoomを起動して入室できるようにします。GitHubの詳細へのリンクを開くのも、音声で該当のイシューを開くとか。チームビルディングというよりは個人の利便性向上となりますが。
萱間:連携予定のサービスでいうと、Googleカレンダー、Google ドライブ、Google CloudのStackdriver、Amazon CloudWatch、Asana、Trello、Bitbucketなどいっぱいあります。
──「Team on Air」に興味を持った読者にメッセージをお願いします。
萱間:「Team on Air」は現在ベータテスト中です。ランディングページからダウンロードして、初期設定すれば自由にお使いいただけます。フィードバックをいただけたら、確実にご希望に添える形で反映させていただきたいと思いますので、ぜひご利用いただけるとうれしいです。
岡:ベータでまだ粗いところはありますが、皆様のご意見を取り入れてよりよいものにしていきたいので、ぜひご意見いただけたらと思います。
北沢:スクラムはチームによって色が分かれると思います。現在は「Team on Air」チームのスクラムのやり方を反映した状態ですので、いろいろフィードバックいただけたらぼくたちのチームの勉強にもさせていただき、「Team on Air」を改善していきます。ぜひフィードバックをよろしくお願いいたします。
リモートワークで「耳」、使っていますか?
Team on Airはチームの進捗状況やスケジュール、メンバーの作業着手状態や課題などについて、自分の作業をしながら聞いて知る音声配信サービスです。音声による"ながら聞き"で情報がインプットされ、それがアウトプットに繋がりチームのコミュニケーションが自然と増えていきます。本記事で興味を持たれた方はぜひこちらからダウンロードしてご利用ください。お問い合わせは team-on-air-support@ctc-g.co.jp までお願いします。