プラットフォームを活用することのメリットとデメリット
課題は大きく2つ。一つは特定のクラウドベンダーにロックインされること、もう一つがクラウド支出のコントロールが困難なことである。クラウドロックインとは、データを移動することが困難となるデータロックインやクラウド事業者独自のサービス仕様に縛られたりして、別のクラウド事業者へ容易に移行できない状況のことであり、クラウドロックインによって自社サービスの柔軟性が損なわれてしまうリスクがあるほか、「事業継続性の観点でもリスクが生じる」と金児氏は語る。
海外ではすでにこの問題は注視されており、例えば昨年、英国では競争・市場庁が、クラウド市場の競争に悪影響がないか調査を行ったことがニュースになった。同じく英国情報通信庁ではクラウド事業者から外にデータを転送するときに支払うEgressコスト(ネットワーク転送量)、独占を招きかねない割引、技術的な移行障壁という3つの懸念点を表明している。「英国では国レベルで、クラウドの市場環境に対して懸念点を示している」と金児氏は言う。
アカマイが提供するAkamai Connected Cloudはオープン技術を使って構築することを哲学としており、ユーザーにもロックインを回避するためにオープン技術上でサービスやアプリケーションを展開することを推奨しており、クラウドロックインのリスクを低減している。特にEgressコストについては注力しており、超過料金は、一部の特定リージョンを除き、1GBあたり0.005米ドル。クラウド事業者によっては1GB当たり0.1米ドル前後で提供されることも多いため、圧倒的に低いコストで実現。しかもインスタンス毎に無料のEgress転送量が1TBから20TBまで提供されるので、「Egressコストを意識する必要がないお客様がたくさんいる」と金児氏は話す。Egressトラフィックの多い企業はよりメリットを享受できるというわけだ。
クラウドロックインを防ぎ、ポータビリティ性を高めるにはどうすればよいか。「一つのアプローチとして、クラウドネイティブ技術を採用すること」と金児氏は指摘する。
クラウドネイティブコンピューティング技術を推進する非営利団体「Cloud Native Computing Foundation(CNCF)」の定義によると、クラウドネイティブ技術とは、スケーラブルなアプリケーション構築および実行するための能力を組織にもたらすものだとされている。CNCFではアプローチの代表例としてマイクロサービスやサービスメッシュ、イミュータブル・インフラストラクチャー、コンテナ、宣言型APIが挙げられている。「CNCFではクラウドネイティブを実現するためのトレイルマップを公開している。ポータビリティを高める上でクラウドネイティブ技術は非常に参考になるので、チェックしてほしい」(金児氏)
続いて金児氏は、クラウド事業者のプラットフォームを活用した構成と、プラットフォームに依存しない設計の例を紹介してくれた。クラウド事業者のプロプライエタリ製品を活用したワークロードの特長は、市場投入までの時間を短縮できることやクラウド事業者からのサポートがあること。一方で、オープン技術を使った場合は、コスト効率や事業継続性の向上が期待できるという。将来的に意思決定をシステムに迅速に反映したいのであれば、オープン技術を採用して、ポータビリティを意識して設計するのが望ましいだろう。
ポータビリティを高めることで得られるメリットは、「クラウドプロバイダーをコモディティ化できること、そしてイノベーションを促進できること」と金児氏は指摘する。コスト効率の改善や高い可用性の実現が期待できるというわけだ。
ポータビリティを高めるために、まず何から取り組めば良いのか。金児氏は最初の一歩として、現在、クラウド上でどのようなことをしているか、それらのワークロードがクラウドロックインに陥っていないかを把握することから始めてみてはとアドバイスする。