「当たり前」となったクラウド活用、実際どこまで浸透している?
CDN事業からスタートし、昨今はWebセキュリティ事業も主軸の一つとして展開してきたアカマイは2022年2月に米Linodeの買収を発表をした。現在は、LinodeのIaaSを活用した「Akamai Connected Cloud」というクラウドサービス事業を展開している。Akamai Connected Cloudはコアからエッジまでのインフラストラクチャを一括で提供、ワークロードとアプリケーションを分散して配置できるクラウドサービスである。具体的な例を挙げると、エッジ向けに提供してきたキャッシュによる高速な応答、画像、動画コンテンツの最適化、負荷分散などのエッジ上のサービスと、Web Application Firewall(WAF)、DDoS攻撃対策、Bot対策というWebセキュリティサービスに加えて、ロードノードバランサー(NodeBalancer)やコンピュートサービスまでカバーしている。
アカマイがクラウド事業に参入した理由は、「集中型クラウド・プラットフォームが抱えているコスト、パフォーマンス、スケールの課題を解決するため」と金児氏は説明する。
現在、多くの企業がマルチクラウドを採用している。実際、金児氏が参加者にたずねたところ、半分近くの参加者が「マルチクラウドを採用している」として挙手した。また日経クロステックの調査によると、60%以上の企業がマルチクラウドを採用していたという。「このようにマルチクラウドはもはや一般的になっている」と金児氏。
このようにマルチクラウドが当たり前になる一方で、海外のFlexera社の調査によるとクラウドに支払う費用が当初の予算よりも増加する傾向にあるという。そこで多くの企業が既存クラウドの最適化、コスト削減のための取り組みを進めているという。
「クラウドを使えば新しいサービスをすぐ立ち上げることもできる、便利なテクノロジーだが、その一方でクラウドの課題も顕在化している」と金児氏は続ける。
プラットフォームを活用することのメリットとデメリット
課題は大きく2つ。一つは特定のクラウドベンダーにロックインされること、もう一つがクラウド支出のコントロールが困難なことである。クラウドロックインとは、データを移動することが困難となるデータロックインやクラウド事業者独自のサービス仕様に縛られたりして、別のクラウド事業者へ容易に移行できない状況のことであり、クラウドロックインによって自社サービスの柔軟性が損なわれてしまうリスクがあるほか、「事業継続性の観点でもリスクが生じる」と金児氏は語る。
海外ではすでにこの問題は注視されており、例えば昨年、英国では競争・市場庁が、クラウド市場の競争に悪影響がないか調査を行ったことがニュースになった。同じく英国情報通信庁ではクラウド事業者から外にデータを転送するときに支払うEgressコスト(ネットワーク転送量)、独占を招きかねない割引、技術的な移行障壁という3つの懸念点を表明している。「英国では国レベルで、クラウドの市場環境に対して懸念点を示している」と金児氏は言う。
アカマイが提供するAkamai Connected Cloudはオープン技術を使って構築することを哲学としており、ユーザーにもロックインを回避するためにオープン技術上でサービスやアプリケーションを展開することを推奨しており、クラウドロックインのリスクを低減している。特にEgressコストについては注力しており、超過料金は、一部の特定リージョンを除き、1GBあたり0.005米ドル。クラウド事業者によっては1GB当たり0.1米ドル前後で提供されることも多いため、圧倒的に低いコストで実現。しかもインスタンス毎に無料のEgress転送量が1TBから20TBまで提供されるので、「Egressコストを意識する必要がないお客様がたくさんいる」と金児氏は話す。Egressトラフィックの多い企業はよりメリットを享受できるというわけだ。
クラウドロックインを防ぎ、ポータビリティ性を高めるにはどうすればよいか。「一つのアプローチとして、クラウドネイティブ技術を採用すること」と金児氏は指摘する。
クラウドネイティブコンピューティング技術を推進する非営利団体「Cloud Native Computing Foundation(CNCF)」の定義によると、クラウドネイティブ技術とは、スケーラブルなアプリケーション構築および実行するための能力を組織にもたらすものだとされている。CNCFではアプローチの代表例としてマイクロサービスやサービスメッシュ、イミュータブル・インフラストラクチャー、コンテナ、宣言型APIが挙げられている。「CNCFではクラウドネイティブを実現するためのトレイルマップを公開している。ポータビリティを高める上でクラウドネイティブ技術は非常に参考になるので、チェックしてほしい」(金児氏)
続いて金児氏は、クラウド事業者のプラットフォームを活用した構成と、プラットフォームに依存しない設計の例を紹介してくれた。クラウド事業者のプロプライエタリ製品を活用したワークロードの特長は、市場投入までの時間を短縮できることやクラウド事業者からのサポートがあること。一方で、オープン技術を使った場合は、コスト効率や事業継続性の向上が期待できるという。将来的に意思決定をシステムに迅速に反映したいのであれば、オープン技術を採用して、ポータビリティを意識して設計するのが望ましいだろう。
ポータビリティを高めることで得られるメリットは、「クラウドプロバイダーをコモディティ化できること、そしてイノベーションを促進できること」と金児氏は指摘する。コスト効率の改善や高い可用性の実現が期待できるというわけだ。
ポータビリティを高めるために、まず何から取り組めば良いのか。金児氏は最初の一歩として、現在、クラウド上でどのようなことをしているか、それらのワークロードがクラウドロックインに陥っていないかを把握することから始めてみてはとアドバイスする。
分散コンピューティングで開発者が低遅延でコードを使用可能に
続いて話題は分散コンピューティングへと移った。開発者が分散コンピューティングに魅力を感じる点は、低遅延、スケーラビリティが得られること。これを実現しているのがアカマイのコンピューティングソリューション、EdgeWorkersとEdgeKVである。EdgeWorkersは分散型サーバーレスネットワーク。一方のEdgeKVは分散Key-Valueストアである。アカマイのプラットフォームでは130カ国以上、4100以上のロケーションにChrome V8のJavaScriptエンジンを展開し、開発者自身が作成したコードをエッジ上で使用できるようになっている。
アカマイが提供する分散コンピューティングを活用するメリットは、アプリケーションロジックをユーザーの近い位置で実行できること。低遅延が実現できる高い拡張性を持たせることもでき、突発的なトラフィックにも対応できるという特長を持つ。
EdgeWorkersとEdgeKVの活用例としては、パーソナライゼーション、A/Bテスト、CDNのトークン管理、動画マニュフェストファイルのコントロール、APIオーケストレーション、サードパーティインテグレーションなどが挙げられる。
すでに導入し、成果を上げている企業も登場している。ニッセンホールディングスはその一社。リコメンド商品を表示するAPIリクエストにおいて、ユーザー毎に商品の組み合わせが異なると、CDNキャッシュがヒットせず、表示の遅延が発生していたという。この課題を解決するためEdgeWorkersとEdgeKVを導入。具体的にはEdgeWorkersでAPIリクエストを解析処理し、CDNキャッシュに個別にヒットできるようにした。さらにEdgeKVに商品情報を蓄積することで、API処理をエッジにオフロードし、表示遅延の課題を解消したという。
またサードパーティインテグレーションの例として、EdgeWorkersとQueue-itの組み合わせを紹介。Queue-itは、アクセス集中による不具合発生を防ぐ仮想待合室ソリューションである。Peach Aviationではアクセス集中を避けるため、EdgeWorkersとQueue-itを導入。サイトのキャパシティを変えることなくパフォーマンス改善を実現したという。
アカマイではさらに未来を見据え、ユニークな取り組みをしていくという。その一つが、Geckoというコードネームで呼んでいるソリューション。エッジローケーションでより多くのバーチャルマシンやコンテナを動かせるような仕掛けを考えているという。「レイテンシーに敏感なアプリケーション開発をしている人にとって、よりメリットを享受できるような仕組みを提供していく予定」と金児氏は力強く語る。ゲーミングではゲームサーバーの立ち上げ、ソーシャルメディアであればユーザーのライブ映像やWebRTC、メディアであればライブストリーミング、AIであればエッジ上で推論の実現が可能になるという。
ポータビリティを推進したい方、また低レイテンシーを実現する分散コンピューティングを実践したい方は、開発者目線で設計されているAkamai Connected Cloudを試してみてはどうか。