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Developers Summit 2024 Summer レポート(AD)

脱落者が出がちな社内イベントを継続させるには? ITエンジニアが技術力で支える健康推進プロジェクトに学ぶ

【23-A-4】はたらくを楽しく!エンジニアの健康と協働を促進する社内イベントの仕組みと技術

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イベントの全社展開に伴い、運営の自動化をすすめる

 50名の新卒社員にスモールスタートした際のアンケートで満足度が高かったこともあり、全社版開催への検討が始まった。全社版「Connected Walking」については、人事と相談し、健康保険組合から2,000ポイント/人の協賛を受け、勢いづくかと思われた。しかし、業務の傍ら運営している状況では、新卒版のように頻繁にSlackのチェックやコメント、リマインドなど盛り上げ作業ができない。そこで運営メンバーの業務を洗い出し、イベント実施中のタスクが毎週繰り返し実施するため負荷が高いことを確認。課題として「1.参加者数の増大によって運営側の工数が圧迫」、「2.参加者のモチベーション維持向上」を挙げた。

イベント実施中のタスクを洗い出してみると……

 この「Connected Walking」成功のカギとなる、イベント運営を支える仕組みや技術面については、発地氏が紹介した。「社員が本業もやりながら短い時間で楽しく続けられる」ために、運営工数を削減しつつ、チームチャンネルで交流を促すような施策の検討が始まった。

 まず、施策の実施にあたり、運用工数の削減は大きな課題だ。そこで、Googleスプレッドシートで作成した「歩数記録表」からGoogle Apps Script(GAS)で情報を取得し、それらを分析・変換処理をして、Slack APIで個人ごとの情報を届けるという仕組みを構築した。たとえば、次のような業務について自動化で工数を削減している。

施策(1):未入力者への働きかけ

 未入力者に対して自動でリマインドを行うbotを作成。未入力者一人ひとりに一括でリマインドを送信することができ、リマインドにかかる工数が大幅に削減され、イベント全体チャンネルで@channelを付けてアナウンスするよりも、体感で未達成者の50〜70%がBot実行後に行動するなど、高いリマインド効果が得られた。

施策(2):チームチャンネルの作成やメンバー招待の手間の削減

 スプレッドシートで管理しているチーム表に基づいて、チャンネルの作成とメンバー招待を行う。作業の負担軽減だけでなく、チャンネルが早々に開設にされたことでメンバー間の交流がイベント開始後スムーズに開始できたほか、イベント運営側にも各チームチャンネルへのアナウンス自動化や参加者の投稿数の取得が可能となるといったメリットがあった。

施策(3):チームごとのリンク案内

 各チームへのアナウンスをチームチャンネルに投稿できるアナウンスbotを作成。チームごとのお知らせの他、ビンゴシートなどをチームチャンネルに投稿し、自動でピン留めするというもの。参加者事に異なるリンクを配布したり、運用工数を削減したりできるだけでなく、入力シートへのアクセスの導線も改善できた。

 さらに参加者のモチベーション維持のために、次のような施策を実施。これらについても自動化することで運営の負担を軽減している。

施策(4):目標歩数や BINGO達成状況の経過共有

 スプリントの中盤にあたる木曜日頃に、歩数目標およびビンゴの達成状況をチームチャンネルに共有する。タスクのリマインダーにもなり、この投稿を見て各チームが残タスクの分担を始めるなど、協働のきっかけにもなっている。

施策(5):1週間ごとの目標&KPTでふりかえり

 週次の振り返りアンケートの結果をチームチャンネルに共有する「おつかれさまbot」を作成。達成状況に応じてコメントが変わり、トータル歩数などパーソナライズされた情報が共有される。これによって、チームメンバーとの会話のきっかけが生まれ、モチベーション維持にもつながった。

施策(6):コミュニケーション数の把握

 Slack投稿取得や分析スクリプトを実装し、各チームチャンネルの投稿情報をSlackが取得してスプレッドシートに書き出していく。チームの盛り上がりが可視化され表彰の指標となるほか、定量的なデータに基づきコミュニケーション数向上のテコ入れ施策を検討できるようになった。

 なお、GASの実装では、「ブラウザベースでしかエディターがない」「バージョン管理が難しい」「行動分割ができず、再利用が難しい」などの課題もあったが、GASのGoogle製CLIツール「clasp」を活用することで解決。ローカルから”コマンド一発”でデプロイし、TypeScriptやLinterによる静的検査といったツールの恩恵を受けられるようにするなど、開発者体験を向上することができた。

 自動bot化で無駄な手戻りを削減できた一方、発地氏は「運営メンバーに必ずしも技術があるとは限らず、メンテナンスのハードルは上がる印象がある」と語り、「複雑なスクリプトに関してはclaspを導入するなどの棲み分けが有効かもしれない。また、ゼロから開発し直すなら、Googleのasideが使いやすく進化している」とアドバイスした。

エンジニアリングで“楽しく働く”に貢献

 こうした施策運営の自動化を実現した結果、煩雑なルーティンワークから解放され、少ない運営人数でも「どうしたら参加者が楽しんでくれるか?」という本質を追求できるようになったという。参加者からも好意的なフィードバックが寄せられた。なお、GASやSlack APIの実装は世の中に参考事例が多く公開されているため、ChatGPTやGitHub CopilotといったAIを用いた開発と相性がいいという。また、今回使用した技術や仕組みは、ウォーキング大会だけでなく、オンボーディングやチーム運営にも応用できると考えられる。

 イベントの参加者・参加率は右肩上がりに増加。2023年の11月に開催した全社版イベントでは、管理職や執行役員なども含め、全社員の約4割にあたる750名が参加し、そのうち約94%が4週間のイベントを最後まで完走した。また、開発部門の1日あたり平均歩数は約4,000歩から6,500歩に増加、30分以上の運動を継続している人も増えている。

 定性的な効果については、経営層や人事部へのインタビューでも好感触だったという。たとえばCHROの八幡氏は、「この活動が社員の健康維持や健康意識の向上に大きく貢献している。従業員エンゲージメントの観点でも、その果たす役割は大きい」と語っており、新卒研修担当の平野氏も「“リフレッシュ”確保の重要性、社会人としての健康意識の醸成ができた。同期の繋がり強化や、会社へのエンゲージメント向上にも繋がっている」と回答している。さらに、石川芳郎会長からは「このイベントのお陰で血液検査も血圧も完璧だった」というコメントが寄せられた。

 また継続的な効果の検証のため、イベント開催から9か月経過した現在(2024年7月)の状況を改めてアンケートで確認。運動習慣については「イベントをきっかけに運動するようになり、今も継続している」「以前より体重計に乗る機会も増え、健康に対する意識が変わった」といった声が聞こえてきた。また社内コミュニケーションについても「普段の業務では接しない他部署の人との接点ができた」「偶発的な雑談が期待できなくなった今、雑談を奨励するためのとても良い機会」「中途入社したてでイベントに参加したが、この時つながった人とは趣味で今もつながっている」などのポジティブな声があがっており、協働の促進に一役買っているという。

 発地氏、本川氏は、「こうしたイベントで“はたらくを楽しく”に貢献できた」と語り、そのメリットについて(1)健康と交流協働の活性化ができること、(2)社内向けの小さなサービスとして、PDCAサイクルを回す体験ができること、(3)活動自体が楽しいこと、を挙げた。運営メンバーとして継続して活動できている理由について、本川氏は「エンジニアにとって、自分が関わった仕組みや施策がユーザーに利用されることや、評価されたり世の中に広がったりすることには、シンプルな面白さがあると思う。それが原動力になっているのではないか」と評した。

 発地氏も「社内イベント成功のポイントは、参加を促す仕掛けと継続する仕組み、さらに『楽しんでできること』が何より重要。大事なのは、みんなの背中を押すきっかけづくりと持続する仕組みづくり。エンジニアは技術で会社を健康にできる」と語り、「少しでもやってみたいと行動を起こすきっかけになれば幸い」と結んだ。

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この記事の著者

伊藤 真美(イトウ マミ)

エディター&ライター。児童書、雑誌や書籍、企業出版物、PRやプロモーションツールの制作などを経て独立。ライティング、コンテンツディレクションの他、広報PR・マーケティングのプランニングも行なう。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

丸毛 透(マルモ トオル)

インタビュー(人物)、ポートレート、商品撮影、料理写真をWeb雑誌中心に活動。

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CodeZine編集部(コードジンヘンシュウブ)

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