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最新トレンドから読み解く! これから国内で生成AIを構築していくエンジニアに求められる"スキルセット"とは?

【23-B-6】最先端の生成AIトレンドから先読みする これからの生成AIエンジニアに求められるスキルセット大解剖

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 近年の生成AIの発展によって、国内でもより効果的に活用するために、独自のAI構築やAIと連携するシステム開発などが始まっている。生成AI関連市場は拡大傾向にあるのは間違いないといえるだろう。AIをはじめ、各種DXサービスを提供する株式会社ギブリーのAIラボ室長の新田章太氏と、技術パートナーである森重真純氏が、2024年5月にシアトルで開催された「Microsoft Build」での生成AIトレンドのリアル、および各社の動きを紹介しつつ、国内におけるAIエンジニアに求められるスキルの変容や方向性を語り合った。

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マイクロソフト「Microsoft Build」で紹介された3つの生成AIトレンド

 HRtechツールの開発・提供などでエンジニア組織づくりの支援を行ってきた株式会社ギブリーの新田章太氏、企業のAI戦略やシステム開発などのコンサルタントとして活躍し「生成AIが誰よりも好き」と語る森重真純氏。2人は、5月末にマイクロソフト主催のカンファレンス「Microsoft Build」に訪れ、生成AIの最新トレンドに直に触れてきた。

 新田氏は「カンファレンスでは『生成AI』ではなく、ほぼ『Copilot』という言葉で置き換えられていたのが印象的だった。また、『パーソナルAIアシスタント』という個人的な使い方よりも、チームを連携して生産性や創造性を高める目的で使われるものへとシフトしていた」と語る。

株式会社ギブリー 取締役 兼 Givery AIラボ 室長 新田 章太氏
株式会社ギブリー 取締役 兼 Givery AIラボ 室長 新田 章太氏

 たとえば、プレゼンテーションの雛形を作る、要約をする、翻訳をするように、「個人が一つの作業において、何かを依頼してアウトプットが返ってくる」というのが、従来の生成AIの使い方だった。それが、TeamsやZoomのようなビデオ会議の中に入って、議事録をとり、タスクマネージャーにタスクを加え、タイムキープするなど、「チームの連携を高めて生産性を高める」ことを主眼とするものへと進化しているという。その中で、特に印象的だった3つのトレンドについてそれぞれ紹介された。

AIケーパビリティの向上

 マイクロソフトは、Copilotについて「単なる生成AIではない」とし、「マルチターンの会話でエージェント機能を持ち、複雑な認知機能を擁して、タスクの手助けをするソフトウェアの総称」と位置づけている。つまり、マイクロソフトの場合、Copilot for 365やPower Platformなどのオーケストレーションツールで、ユーザーのタスクや業務、会話などをコントロールして、認知機能モデルによって最適化し、掛け合わせる存在がCopilotなわけだ。

Copilotは複雑な認知機能を要するタスクの手助けをするソフトウェアの総称

 新田氏は、「これが実現すると、エンジニアリングとは、生成AIのモデル、会話、ワークフローなどのレイヤーをかけ合わせてソフトウェアを作っていくことになる。それがまず重要なポイントとなるのではないか」と語った。

 そして2つ目のポイントとして新田氏が挙げるのが、「カバレッジの広がり」だ。個人からチームへと「情報のカバレッジ」が広がるのに加え、「AIが何をしてくれるのか」というタスクのカバレッジも広がっていく。これまで検索がメインだったのが、提案からさらに進んで、たとえば日程調整やメール返信など「タスクの実行」までできるようになりつつある。

カバレッジの広がり

 そして、声や会話がインタフェイスとなる"カンバセーション・オーケストレーション"によって、AIとの会話を設計しながら、さまざまな外部ツールと連携し、タスク実行の手助けを行うプラットフォーム「Copilot Studio」や「make」などのサービスも登場している。

ワークフローとAIを会話でつなぐConversational Archestration

LLMからSLMへ

 これまで良く知られてきたLLM(Large Language Model)に対して、急速に注目を集めているのが、業界などの特定分野に特化した軽量型モデルであるSLM(Small Language Model)だ。端末で動作し、よりスピーディーなレスポンスが可能になり、再学習時のデータセットの少量化が可能。そのため、LLMの欠点である学習コストを軽減し、ハルシネーションやセキュリティなどのリスクを抑えられる。

LLMの欠点とSLMの利点

 新田氏は「企業ではより高速で安全な、特化型のSLMが採用され、ある種オンプレミスでAIが動く世界観が一般的になる可能性が高い」と評した。実際、「Copilot+PC」というAIを多用するプロセス専用のCPUが発表されている。プロセスユニットの中にAI専用のプロセス「NPU」が搭載されており、PCでユーザーの動作をレコーディングし、それに対してAIが回答する「Recall」機能も紹介されている。さらにNPUはIntelも力を入れており、一般化が進むと考えれば、従来の「クラウド連携」から「デバイス完結」へシフトすることも予想される。

MaaSとLLMOps

 AIの世界も多様化するほど、「いかにそれらを統合的に管理し、運用改善をしていくか」が重要になる。そこで、モデルについても一から作るのではなく、既存に存在するものから選択し、チューニング、改善、最適化、評価することが当たり前になる。

 たとえば、Azure AI Studioにも1600以上のAIモデルが「モデルカタログ」として用意されている。その中から選んで、プロンプトフローをチューニング、個別に最適化して、実際運用する際には、ハルシネーションリスクやメモリー負荷などを全てモニタリング監視できるようになっている。

AIへの業務の代替が進む中、課題はAIの予測不可能性の制御

 こうした生成AIのトレンドを総して、森重氏は「『テイクアクション』がキーワードになる」と語る。CopilotのようなAIが他のツールを使って処理できるようになることで、より広範囲で業務を自動化できれば、人はより生産性を高め、「人にしかできない部分」に注力できる。

株式会社ギブリー Givery AIラボ 技術パートナー 森重 真純氏
株式会社ギブリー Givery AIラボ 技術パートナー 森重 真純氏

 森重氏は「ワクワクする一方で、結構ドキドキハラハラもする」と語り、「生成AIがオーケストレーションツールとなり、画像検出など他のAIと連携することで、人が今行ってる業務が代替できると証明されたに近い」とその理由を述べた。つまり、まだ仕事がわかっていない新社会人が、ほぼ生成AIで置き換えられると言っても過言ではない。

 しかしながら、実際に案件に携わる中では、現状ではまだ限界がある。そこで、SLMの活用や、ルールベースのロジックをLMSのワークフローに組み込んでいくなどの対応が必要になる。生成AIは「何でもできる」とはいえ、処理できるタスクの難易度に限界があり、部分的に条件分岐や深層学習モデルなどを組み合わせて、精度改善をすることが望ましい。タスク分解をして、「部分的に得意なものは得意なところに依頼をする」という戦略だ。それは、専門分野について士業に業務依頼をすることと同じと言えるだろう。

 新田氏も「ソフトウェアとAIの掛け合わせは重要になってくる」と話す。現時点でモデルを選んで実際に業務に必要な実装をすることは、時によってはソフトウェア開発のほうが楽なこともある。プログラムは実行して返ってくるものが明らかだが、AIに対するプロンプトでは予測不能なことも多い。しかも自然言語的に制御するのは、会話設計とそのシステムにおける制御が必要だ。

 新田氏は「AIはすごくオープンで、予測できないところを結果して返してくれるほか、ディスカバリーのような感覚。しかし、そればかりに頼ると発散してしまい、制度の高いシステムが組めない」とその難しさを表現する。

 森重氏も「めちゃくちゃその通り」と同意し、「たとえば優秀なエースの人に仕事を依頼しすぎて、パフォーマンスが落ちることも、"発散"という文脈ではありうる。生成AIが難しいのは、1つ機能を追加しただけで急に動かなくなることがあるところ」と語った。

 そのため、全体を見ながら、あるLLMに対してタスク量や難易度を試算しながら、システム設計としてワークフローやアーキテクチャをしっかりと組んでいく必要がある。そこが難しいところであり、面白いところだ。

AI活用のカギを握る「プロンプト エンジニアリング」の精度を高める

 AIの予測不可能を制御するために不可欠である「プロンプト エンジニアリング」とはどのようなものか。プロンプトエンジニアリングとは、「対話型のLLMに対して、精度の高いアウトプットを得るための技術」であり、いかに指示や命令を設計、最適化するかが重要となる。たとえば「猫を描いて」というよりも、細かく指定したほうが期待通りの結果が返ってくるのは誰もが体験していることだろう。

 プロンプト エンジニアリングでは、精度を高めるためには、「1.指示を明確にする」「2.コンテキストを与える」「3.背景情報を与える」「4.サンプルとなるインプットデータを与える」という4つの要素を与えることが有効とされている。

 そして、さらに精度を上げるテクニックとして、「過去の解答例をいくつか提示する」「思考回路を与える」といった「揮発的な学習=シングルターンでのやりとり」が有効だ。その中で特に注目されているのが「ReAct」であり、プロンプトから必要なタスクを動的に認識させて、検索や計算など外部APIを活用した情報を取得し、その情報を付加して回答を返す」というもの。

 つまり、モデルを固定値として追加学習をさせずに、思考プロセスを共有して、外部の情報も組み合わせる。そうすることで負担をかけずに、クローズドな状態でも精度を上げられる。このようにさまざまなAPIや外部情報と連携し、業務フローの設計まで踏み込むことが、生成AIシステムのエンジニアのスキルとして重要になる。

 そして、現在はオープンAIなどをユーザーが意図的に選択して使っているが、今後は表には出てこなくなり、業務システムなどの裏側で自動的に使われる可能性が高い。しかし、その裏側でこそ最適化が重要となり、作り手に高いスキルが求められるようになるのは必至と言える。

 つまり、ユーザーは自然言語の対話を通じて無意識のうちにAIを使うようになるが、プロンプトエンジニアリングは、ソフトウェアとの連携やワークフローの構築などの重要度が増してくる。そして、AIエンジニアリングについては、業務に特化したAIのモニタリングやチューニングなどがさらに求められるようになるという。

生成AIエンジニアに求められる「プロンプト✕AI✕ソフトウェア」のスキルセット

 それでは具体的にAIを活用するために、それぞれの人材には、具体的にどのようなスキルセットが求められるようになっていくのか。

 業務で日常的に活用する人は、ツールやデバイスがAIインターフェースになるため、あまり意識せずにAIを使いこなせるようになる。スキルとしては、業務理解とともにAIと対話できる論理力、質問力などが求められる。

 プロンプトエンジニアには、さまざまなAPIとのインテグレーションやワークフローオーケストレーションなどが求められるため、業務設計やプログラミング的思考、そしてAPIやJSON(JavaScript Object Notation)などのWebリテラシーが欠かせない。そして、AIエンジニアについては、SLM台頭に伴い、ハードやアルゴリズムなどの知識も幅広く求められるようになる。また、オペレーションも含めてチューニングによって最適化するスキルも必要になる。

 森重氏は、そうした一般的なスキルに加え、AIを活用するあらゆる人のベーススキルとして、「批判的思考力」をあげる。生成AIが生成したものを批判的に捉える、既存の業務フローを批判的に捉えるといった姿勢と能力が、現在の結果にとらわれず、より高みを目指す動力となるわけだ。そして、「そのような観点を持てるかどうかで、生成AIに飲み込まれるか、より良くしていくか、それ以上のものを作り出していくかが決まる」と語った。

 さらに、森重氏は「生成AIの知識やプログラミングのスキルは時間をかければ十分に修得できる。あとは、それ以上に時間をかけてしっかりと自分の中で『生成AIエンジニアリングマインド』のようなものを醸成していく必要がある」と語り、「生成AIを扱えるエンジニアが世の中に少ない中で、学ぶことを前提とし、その上でマインドセットに向き合って醸成するほうが重要」と強調した。

 新田氏は、「これからの生成AIエンジニアには、『プロンプトエンジニアリング』と『AIエンジニアリング』に加えて、APIやデータなど高機能部との連携を実施できる『ソフトウェアエンジニアリング』という3つのエンジニアリングスキルの"掛け算"が必須。それによって、さまざまな目的、用途に応じて実用的に使えるAIプロダクトができるはず」と語った。

 そして、最後に2人が属するGivery AIラボについて、「さまざまなメンバーとコミュニティを形成し、多くの企業に対して生成AIの導入から開発、伴走、教育までを幅広く提供している」と紹介。生成AIを体系的に学べる「メタバースアカデミー」の開講など、人材育成研修や専門環境の構築などを通じて、真のDXを実現する支援を行うという。生成AIの活用、教育などに関心のある方は問い合わせてみてはいかがだろうか。

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提供:株式会社ギブリー

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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