「潰れるか、成長か」の厳しい環境で、メンバーの理解を得るには
続いて、チューリング社の青木氏が自社の組織とアーキテクチャ設計について語った。同社はあらゆる条件下において車が人間の代わりに運転操作を行う「完全自動運転AI」の開発に取り組むスタートアップ。エンジニアチームは約50名で、そのうち8割がエンジニア、4つのチームに分かれている。
![チューリング株式会社 共同創業者CTO 青木 俊介氏](http://cz-cdn.shoeisha.jp/static/images/article/20116/20116_c.jpg)
青木氏は、「組織の規模が大きくなるにつれてチーム編成は難しくなるが、組織文化・思想とアーキテクチャは密接に関係している。スタートアップは常に『潰れるか、大きくなるか』の二択を迫られている中で、組織とアーキテクチャを固定化するのはかえって良くない」と指摘する。実際にチューリング社では、状況に応じてチームを編成したり解散したりと、柔軟な対応を実践しているという。「朝令暮改は良いことだ」という意識を社内に浸透させ、必要に応じて積極的なチーム再編成を行っているのだ。
また、青木氏は組織の意思決定に関して「豪族スタイル」という独自のアプローチを説明。これは、武田信玄の周囲に特定の領域で強みを持つ豪族が集まっていたように、組織内にも特定の領域で高い解像度を持つメンバーが存在し、彼らに決断を任せることで組織の柔軟性を維持するというものだ。青木氏は「自分より情報量が多く、その分野に詳しい人に判断を委ねる姿勢が大切だ」と解説した。
組織の形がフレキシブルに変わることに対して、エンジニアから反発はないのだろうか。蜂須賀氏のこの問いに対して、青木氏は「事業がうまくいっているときには、変化への反発は起きにくい」と述べた。トップ層がメンバーと十分なコミュニケーションを取り、現状や計画を共有することで、メンバーが組織の変化にも前向きに対応できるようになるという。
そもそも組織論は、メンバーが優秀でコミュニケーションが良好な状態であれば、それほど考える必要はない。不満が噴出するのは、組織や事業が悪い状況にあるときだろう。「そういったときにこそ組織論を見直し、どこに問題があるのかを把握し、解決へ導く必要がある」と青木氏は指摘する。
組織の変化をメンバーにどう説明するかについて、泉氏は「最終的には共通言語であるロジックに行き着く」と述べたが、説得の三要素である「エトス・パトス・ロゴス(信頼・情熱・論理)」を意識することも重要だと語る。冷静な状態ではロジックを用いて「こういうベネフィットがある」と説明するが、最終的には情熱で補う場面も少なくないという。
また泉氏は、ロジックで説明するときは時間軸を変えることも効果的だと説明する。例えば、「今は耐える時期だが、これが将来的にはDX推進に繋がる」といった具合に、足元の状況と中長期的な視点の両方を提示することで、現状の意義や未来への期待が伝わりやすくなるというのだ。