メンタルが強くても堪える「二度と経験したくない失敗」とは
最後のテーマは、「二度と体験したくない失敗経験」についてだ。橋本氏がこの問いを投げかけると、青木氏は過去にプロジェクトが「炎上」した経験を語った。
普段はポジティブで上機嫌を保つことを心がけ、クライアントやチームメンバーと接している青木氏だが、あるプロジェクトでハードな交渉を乗り越え、ようやくクライアントとの合意に達した後、さらなる問題が発覚したという。
チームリーダーから「実はもう一つ課題がある」と報告を受けた青木氏は、内心「ふざけるな」と感じつつも、再発防止策を指示し、ミーティングを終えた。その後、誰もいない場所で行き場のない感情を発散したエピソードを振り返り、「人はミスをするものだという前提で、感情的にならず冷静に対応することが重要だ」と述べた。
次に岩瀬氏が、自社開発における失敗体験を紹介する。ある通話系サービスのトラブル対応で、クライアントから「その場でデバッグしろ」と要求され、クライアントの目の前でコードをデバッグしなければいけない状況になったというのだ。進捗をリアルタイムで確認される中で、リモートで働いている他のエンジニアにSlackでサポートを求めながら、必死に対処を行ったという岩瀬氏は、「最終的に1~2時間で問題解決に至ったものの、体感で50時間くらいに感じた」と苦笑しながら振り返った。
橋本氏は、クライアントとの追加要件や見積もりについての会議中、担当者が突然豹変し、2時間にわたり罵倒された経験があるという。「メンタルが強い自分でも、さすがに精神的に堪えた」と述べ、このような状況では精神面での強さも必要だと付け加えた。
話は自社開発の課題に移り、岩瀬氏は「社内のステークホルダーとの調整の難しさ」について触れた。自社開発ではプロダクトマーケティングや販売企画など、関わる部門が多いため、ロードマップが一人歩きしてしまい、機能のリリースが遅れ、社内で炎上することもあるという。橋本氏も「プレスリリースのためにリリースを急がされる」といった経験を共有し、岩瀬氏は「プロジェクトマネジメントの鉄の三角形の概念を知らない人も多く、そこを丁寧に説明して基本であるスコープ、スケジュール、リソースを調整することが重要だ」と補足した。
最後に、橋本氏が「AIが受託開発や自社開発にどう活用されるか」というトレンドに関する質問を投げかけた。
青木氏は、「プロジェクト管理においては、AIがスケジューリングや意思決定支援で効率化に貢献するだろう」と語り、自社ではAIを活用したチャットシステムの開発を進めていることを明かした。AIの効率化により、人間が行うべきコミュニケーションや調整に集中できるという。
岩瀬氏は、日常的にLLM(大規模言語モデル)を活用している立場から、「最新のAIモデルが技術学習やアイデアのブラッシュアップに大きな影響を与えるだろう。ChatGPTやClaudeを使って問題解決を図ることで、作業効率が劇的に向上している」と説明する。また、AIがコンサルティングやメンター的な役割を代替することで、エンジニアやPMの学習プロセスが大きく変わる可能性があるとも指摘した。
橋本氏も同様に、日常の調整や情報収集でAIを活用し、「脳のリソースを無駄にしないためにAIを頼ることが増えている」と共感を示した。従来の検索結果がノイズで溢れている点に触れ、AI活用の重要性を訴えたところで、セッションは終了した。
今回のセッションでは、受託開発と自社開発の両方の視点から、現場での実践的なノウハウが共有され、キャリア形成やチームの育成、採用に至るまで幅広い領域で役立つ多くの示唆が得られた。現場のリアルな経験に基づく学びは、参加者にとって今後のプロジェクト成功への貴重なヒントとなるだろう。