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開発現場インタビュー(AD)

東京都公式アプリの内製開発が始動! 都民1400万人がユーザーとなるプロダクトの現在地とは

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 2025年2月にリリースされた「東京都公式アプリ(東京アプリ)」。将来的には都民一人一人がスマートフォンを通じて東京都とつながり、各種手続きの利便性も高められるよう、機能を拡大させていく予定だ。さらに委託事業者による開発から、GovTech東京による内製開発に舵を切り、準備も進めている。行政におけるプロダクト開発の舞台裏を訊いてみた。

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一般財団法人GovTech東京 松尾将幸氏

「いつでもつながることができる行政」を進める基礎づくり

──これまでの経歴、GovTech東京に参画したきっかけなどを教えてください。

松尾将幸(以下、松尾):現在、東京アプリのアーキテクトとして、技術選定や要件定義、全体のアーキテクチャ検討などをしています。経歴としては、新卒でSIerに入社して人工衛星の組み込みソフトウェアやスーパーコンピュータ「京」の開発に携わった後に、パーソルキャリア、DeNA、AWSのソフトウェアエンジニアやソリューションアーキテクトを経験しました。偶然目にしたGovTech東京の宮坂理事長の記事が印象に残り、多くの人に使われるサービスに興味を持ってGovTech東京の門を叩きました。

友成琢(以下、友成):私が新卒入社したのは金融機関のシステム部門で、松尾さんと同じくDeNAを経由し、ヘルスケアベンチャー、SaaS領域での起業や、デジタル庁の立ち上げにも参画しました。GovTech東京に参画したのは、自分の生活と直接関係がある東京都のシステム開発にやりがいを感じ、デジタル庁で省庁のためのシステム開発に携わった経験もいかしながら、パワーが出せると考えたからです。現在は、東京アプリのプロダクトマネージャーとして企画、仕様やワークフローの整理、その他調整などを担当しています。

三上俊輔(以下、三上):私はバックエンドエンジニアです。現時点では仕様が不確定なところが多いので、プロダクトマネージャーをフォローしつつ仕様を策定しているところです。経歴としては、新卒で社会に出てからアクセス解析の分析サービスに12年ほどいて、CTOも経験した後、昨年、はじめての転職でGovTech東京に来ました。自分が挑戦したい社会課題は行政分野で取り組めるのではと考えてのことでした。

──東京アプリについて概要を教えていただけますか?

友成:東京アプリは、現時点では東京都のキャンペーン告知やポイント交換などの機能が実装されています。これまでは外部で開発を進めてきましたが内製化して、将来的には各行政サービスなどを統合して、行政手続きをオンライン化するなど利便性を高めていこうとしています。

コンセプト
東京アプリのコンセプト

──内製化を進めていくとのことですが、どのように?

松尾:現行の東京アプリは内製化ではない形(委託事業者による開発)で開発・運用が進められていますが、それと同時並行で、内製化に移行する動きを進めています。内製化にあたり、既存の機能開発を引き継ぐだけではなく、運用面でもペインポイントを洗い出して、最適なアーキテクチャやデータベース設計などを考えているところです。

──将来的に実装される機能にはどんなものがありそうですか?

友成:構想としては、東京都の発表の通り、行政手続きのオンライン化や個人宛の情報通知などがあります。例えばスマホから給付金申請、検診の通知受け取り、保育園入所までの情報収集や見学予約、申し込みができるようになるなどです。

コンセプト
アプリの構想

松尾:GovTech東京が開催している「ガブテックカンファレンス」の中でも、東京アプリについて説明がありました。「ポケットの中の行政」という表現も使われていますが、将来的にさまざまな機能を見据えています。

──まだスタート地点という現段階で意識しているところは?

松尾:言語やミドルウェアなどアプリ自体の技術選定では、安定したものを選ぶ方針です。東京アプリは10年、20年と長く続いていく構想です。将来大きなアップデートやマイグレーションが見えている場合でも負債にならないよう技術選定する必要があります。

 ただ、最新技術のキャッチアップと開発効率化の観点から、よく話題になっているAIエージェントは開発でも活用していきたいと思っています。例として挙げるなら、別のプロダクトでDevinを検証で使ってみて、とても有益だと実感しました。すごく進展が早い分野なのでDevinか別のものにするか。プロダクト自体は基本的には枯れた技術を採用する方針にしつつ、開発プロセスは進展が早い分野なので最新技術を積極的に採用していきたいと考えています。

三上:私もDevinは少し試した程度ですが、「早めにフィードバックが欲しい」のが本音ですね。その場その場で使うタイプと、バックグラウンドでやるタイプ、両方使えるといいなと思っています。

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同財団 三上俊輔氏

都民1400万人が使うプロダクトを内製するという責任

──行政サービスとして、永続的な開発や運用をしていくために工夫していることはありますか?

松尾:私たちの任期は基本的に5年なので、技術選定をする際は「5年先に責任を持てるか」という視点を大事にしています。ですから、ニッチすぎるものは選びません。現在のプロジェクトメンバーが「すごく面白い」「生産性が高い」と判断しても、5年後のメンバーがそう思えなければ技術負債になる可能性もあります。

 また、ドキュメンテーションが大事だという共通認識があり、決定事項はなるべくドキュメントに残そうとしています。GovTech東京は情報管理にNotionを使っているのですが、データベースとして決定事項をまとめています。

友成:「誰々さんに聞けば分かる」というのは避けたいですよね。これではモダンじゃないと思うんですよ。知りたいと思った人が見られるように共有されていることが大事で、それがオンラインになった世界のメリットですから。例えば、新しい人がジョインした時「読めば分かる」状態にしておくこと、属人化が排除されていることが大事です。

三上:負債を残さないという意味ですと、無理な仕様には「ノー」と言うことも大事です。技術を魔法の道具のように「なんとかなるでしょ」と過信するのではなく、無理があるなら「これはやめたほうがいい」と言える関係性も重要です。

友成:内製開発だと特にそうですね。何か不具合が起きて、長期的にベンダーなど外部のサポートに多大なコストをかけてしまうことがないように、リスクや負債を抱えないような判断をしておくことが後々のためにも大事です。

──属人的にならず、技術的負債をプロアクティブに解消するような技術選定をしているのですね。行政と民間とで、開発するうえでの違いはどんなところにあると捉えていますか?

友成:民間とは、そもそもサービスの思想が違いますよね。行政は広くあまねく対応することを考えたうえで、データの取り扱い、セキュリティ、可用性、UXなども考慮する必要があるので、総合格闘技のようなものです。民間だとどこかにフォーカスすることもできますが、行政だと、例えばハンディキャップをお持ちの方や日本語を母国語としていない方はどうするか、音声入力はできるのかなどアクセシビリティも考慮していかなくてはなりません。

松尾:ユーザー層の広さと多様性はやはり違いますよね。民間だと、尖ったアプリで1000万人に嫌われても、100万人に受ければミリオンヒットとなりますが、行政だと成功の考え方も違います。

 また、民間は限られたユーザーに合わせてプロダクト、サービスの開発・改良をしますが、行政はオールターゲット。例え一部の人にしか感じない不具合であっても、対応する責任があります。その前提を守った上でどんな開発がベストなのか、現在進行形で模索しているところです。

三上:迷ったときの意思決定も違いますね。GovTech東京だけで決めることではなく、自治体や利用者など多くのステークホルダーと共に、いかに最善の選択をしていくかが重要です。

 技術選定でいえば、例えばバックエンドでRustを使うか判断する場合、性能面で候補には上がると思います。しかし現状でRustをきっちり使える人は少ないですし、チャレンジングになってしまうので、そこの部分はリスクを取らないという判断になると思います。民間なら採用していたかもしれませんが、そうしたところは違うと思います。

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同財団 友成琢氏

GovTech東京でしか得られない貴重なスキルと経験

──GovTech東京でしか得られない経験は何でしょう?

三上:2点あると思っています。1つはこれから長く使われるサービスをゼロから開発できること。LINEやPayPayにも立ち上げの時期がありましたけど、これから大規模に使われることになるサービスってそう多くはないと思います。そうしたサービスの初期から携われることは、なかなかない機会ではないかと思います。

 もう一つは、*GQ (Government Intelligence Quotient) 。多くのステークホルダーとコミュニケーションをしながら最適解を見つけていくスキル。それが、GovTech東京で学べることだと思います。

* GQ (Government Intelligence Quotient)

 例)行政の仕組みや法律知識、各種連絡調整など行政職員として必要な知識やスキル

松尾:私が入職する前には、内製開発を行うという部分はあまり情報として出ていなくて、ジョインしたらベンダーさんのマネジメントやプロジェクトマネジメントに携わるのかなというイメージでした。しかし実際は設計や実装で手を動かすこともできました。

三上:そうですね、1年前に求人票を見て「ちょっと違うかな」と思った人は、あらためて再確認していただけるといいかなと思います。

松尾:あとは、組織自体が2023年にできたばかりなので、組織内部のルールや開発標準も整備中の段階です。そのため、そもそもどうあるべきかを考えるフェーズなのでエンジニアとして貴重な体験ができると思います。

友成:エンジニア自身の得意と興味を掛け合わせ、多様なテーマに取り組める環境があり、企画やアーキテクトなどにも挑戦できて機会は幅広いと思いますね。ただこうした状況も期間限定で、5年、10年経つと役割分担が進むかもしれないので、今のフェーズならではだと思います。

 自分が初期から開発に携わったサービスが時を経て、人々にどのように利用され、社会にどのような影響を与えるか。これはとても興味深いテーマです。深くて長くて良いサービスを作る体験は技術を超えて面白いと思います。

──これから挑戦したいことや展望などを教えていただけますか?

友成:行政における開発の進め方は未開拓です。合意のとり方、技術の見せ方、チームの作り方、プロジェクトの進め方など、技術と行政をセットにして考えることが求められます。そこもエンジニアから見たらポータビリティがあるスキルになると思うんですよね。

松尾:現段階で具体的に言えることは少ないのですが、私自身が都民でもあるので自分にとって使いやすいアプリにしていきたいですし、自分ができることは全てやっていきたいと思います。私が5年後、任期を終えてGovTech東京を去るとき、東京アプリのプロジェクトに関われたことを誇りに思い、残しておきたいと思えたらいいなと思います。

友成:具体的にどの機能とは言いませんが、東京アプリにチャレンジングな最新技術を使う可能性はありますか? 例えば災害時などの緊急事態でも立ち上げやすいとか使いやすい技術があったとしたら?

松尾:東京アプリのベースの上に乗っかるものに関しては、尖ったものを選ぶのは全然ありだと思います。そこはプラグインみたいなイメージです。もしかしたら自分たちが作るのではなく、民間の方にAPIを提供して使っていただくのもいいかなと思っています。逆に土台の部分はしっかりと枯れた技術で、ユーザーさんに影響を与えないものを、と考えています。

三上:フロントは今後たくさん出てくると思うので、開発効率とかで選ぶのはもちろん良いと思います。一方、バックエンドは長く使われるので新しいものはあまり出ていないというのもあるので、エコシステムがしっかりしているところを選びたいですね。

──GovTech東京に向いているのはどんなエンジニアでしょうか?

三上:行政に関わりたいだけではなく、これから成長する可能性が高いサービスにエンジニアリングで関わりたいなら、今の「東京アプリ」の現場は最適なフェーズになってきているのではないでしょうか。

友成:例えば、法令、会計関連のサービス経験がある人なら特に考え方が近いかと思います。ほとんどの人が行政関係に来たことがないと思いますが、あまり心配せずにまずは興味があればぜひカジュアル面談でお話しましょう。民間でやりきったなと感じられている方も、ぜひGovTech東京へ!

松尾:特定の言語や技術にこだわらず、いいプロダクトを作りたいという想いがある人、向上心がある人が向いていると思います。

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提供:一般財団法人GovTech東京

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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