利用者800万人のシステムが抱える3つの構造課題
実はフィンテック企業──丸井グループをそう形容しても、もはや違和感はない。丸井の店舗としての印象が強い同グループだが、現在は自社発行の「エポスカード」を軸としたフィンテック事業が収益の大半を占めており、小売と金融を掛け合わせた独自のビジネスモデルで成長を続けている。
その丸井グループが、2024年10月に新たな一手として立ち上げたのがテックカンパニー「マルイユナイト」だ。マルイユナイトは、顧客起点のデジタル体験を支えるアジャイルなプロダクト開発を加速させ、グループ全体に波及させていくことを目的に設立された。背景には、事業の中核であるフィンテック領域の拡大において、開発効率の伸び悩みが経営上の大きな懸念事項となっていたことがある。こうした課題に対処すべく、丸井グループは新会社を通じた構造的な変革に踏み出した。

なぜ開発効率が上がらないのか。マルイユナイトのCTO、巣籠悠輔氏は3つの要因を挙げる。

1つ目は、システムのレガシー化だ。2025年6月期時点で800万人の会員を抱えるエポスカードの基盤システムは、2006年のリリース以降、実に20年も更新されてこなかった。「フロントエンドとバックエンドの分離もなく、開発体制が並列で組みにくい。RESTにも対応していない。設計思想自体はしっかりしていたが、テスト性などが低く、検証に膨大な時間を費やしている状況だった」(巣籠氏)
2つ目は、システムと組織の肥大化だ。これまで機能やサービスを追加するとき、事業ドメインやアプリケーション単位で部署を設置して運用を担当してきた。こうした体制は、サービス規模が小さかった当初は問題なかっただろう。しかし、会員数が増え、時代やニーズに合わせて機能を増やす中で、担当部署も増加。さらに、システムの全容を把握して統括する担当者が不在だったため、新たに機能を追加、修正したいとき、システムの影響箇所をすぐに洗い出すことができず、複数の関係部署との調整や検証で必要以上のコミュニケーションコストや工数がかかっていた。
3つ目は、ベンダー依存の体制だ。丸井グループではこれまで社内エンジニアがおらず、要件定義こそ社内で行うものの、開発はベンダーに外注するのが通例だった。さらに部署ごとに発注していたため、コードベースの統一性もなく、「コードを見たら、似たような処理が何度も出てきたり、ドメインごとに設計思想がバラバラだったり。全体最適の視点がない状態だった」と巣籠氏は振り返る。