AI時代にも変わらないエンジニアの価値とは
それではAI時代にも変わらない、エンジニアの本質的な価値はなんだろうか。高柴氏の問いかけに対し、ばんくし氏は「家を建てる力」だと答えた。

家の完成イメージや、建材、道具があっても、職人なしでは家を建てることができない。あるいはコンテナハウスであれば専門技術がなくても家を建てられるかもしれないが、万人にとって住みやすいとは言い難い。ソフトウェア開発も同様だ。AIで簡単にソフトウェアをデプロイできる世界になっても、ユーザーに価値を届けるためには、これからもエンジニアリングのスキルが必要不可欠だと、ばんくし氏は強調する。
エンジニアにとっての「家を建てる力」は、具体的には以下の要素からなるという。まずはコンピュータサイエンス、開発スキル、プロジェクト管理といった技術的知識だ。そしてプログラマの三大美徳である「怠惰力」も重要だ。これは自動化や効率化へのあくなき追求を指す。最後に、ユーザーがどのような体験をするかまで含めてプロダクトを作り上げる「創造力」だと、ばんくし氏は言う。
エムスリーの採用プロセスで評価されるのは、まさにこのような力を兼ね備えた人材だ。ばんくし氏はこれを、「ギークでスマート」なエンジニアだと表現する。ギークであるとは、エンジニアとしてのこだわりだ。特定の言語やフレームワークへの愛、あるいはユーザーに価値を届ける上での哲学をしっかり持っていることを意味する。スマートであるとは、それらのこだわりを、開発チームやユーザーにとって最適なタイミングでの活用や、あるいはビジネスインパクトを考慮した適切な技術選定に生かせることを意味する。
そこで高柴氏は、ばんくし氏にエムスリーの具体的な選考プロセスについて尋ねた。同社の選考プロセスは、Webテスト、一次面接、二次面接、三次面接という一般的な構成だが、それぞれのフェーズには、同社のカルチャーが色濃く現れている。

Webテストでは、スキル面接サービス「HireRoo」によるコーディングテストを行う。その際、コーディングへのAI利用も許可しているのが、同社の試験のユニークな点だ。一次面接では、自分が書いたコードを説明してもらい、エンジニアとしての知識や技術的理解を測る。二次面接では、プログラミングを始めたきっかけや、どのような開発プロジェクトに参加してきたかなど、候補者のエンジニア人生を振り返ってもらう。最後に三次面接で、プロダクトマネージャーとの面接となり、候補者とチームとして仕事ができるかどうか測る。
「AI使用を許可することで、時代の変化に対応する力があるかも見ています。またAI使用の許可も含め、これらのプロセスすべてを、アトラクト(候補者の入社意欲を高める工夫)を意識して設計しているのも、エムスリーの採用の特徴です」(ばんくし氏)