HTML5がもたらすインパクト
私が考えるHTML5がもたらす本当のインパクトとは、ウェブ・ページがリッチになるという点ではありません。既に言及したとおり、多くの機能はプラグインで実現されています。利用者から見れば、それがプラグインで実現されていようが、HTML5で実現されていようが、関係がないことです。HTML5によってもたらされる本当のインパクトは、HTML、JavaScript、CSSといったウェブ標準のテクノロジーが、あらゆるコンピューター・アプリケーションのベースになる可能性を秘めている点なのです。既にスマート・フォンの世界では、その流れが現れてきています。
- Samsung Mobile Widget SDK
- Palm WebOS(HP Palm Developer Center)
- BlackBerry WebWorks
これら海外のスマート・フォンでは、既にアプリケーション開発のプラットフォームとして、HTML、JavaScript、CSSを採用しています。ウェブ標準のスキルだけで、ネイティブ・アプリケーションと変わらないアプリケーションを製作できます。デバイスごとにネイティブ・アプリケーション向けのプログラミング言語を学ぶ必要がないのです。
ウェブ標準のテクノロジーは、パソコン向けのウェブという領域を超え、スマートフォン、テレビなど、さまざまなコンピューター・デバイスのアプリケーション開発のプラットフォームになる可能性が出てきたのです。これは、ウェブ業界に閉じた話ではなく、あらゆるコンピューター関連の業界を巻き込むことを意味します。
HTML5仕様の策定状況
現在、HTML5は、ウェブ標準策定団体であるW3Cによって策定が進められています。W3Cの仕様は、その完成度に応じていくつかの段階を経ることになります。最初は草案と呼ばれる状態からスタートし、最終的には勧告と呼ばれる状態になります。
草案にもいくつかの段階がありますが、その中で重要なのは最終草案と呼ばれる状態です。名前の通り、草案としての仕上げの段階です。W3Cの仕様がいつどの状態に達するのかを予測することはできませんが、HTML5の最終草案の時期は2011年と言われています。最終草案の段階になると、細かい点を除いて概ね安定した仕様となり、劇的に仕様が変更される可能性は低いと言えます。2010年12月現在、HTML5仕様は最終草案の手前あたりです。まだ仕様変更が想定されるので、その点を踏まえて、本連載をご覧ください。
HTML5仕様がまだ草案だと聞いて、まだまだHTML5は使えないと思われる方も多いことでしょう。しかし、以前と比較して仕様の安定度も増しているため、ブラウザさえサポートしていれば、既に利用することが可能です。
また、仕様の変更の可能性について調べることも可能です。W3CのHTML5仕様を見ると、まだ検討課題が残っている部分に関しては、次のようにマーキングされています。
これは、本記事執筆時点で最新版となる2010年10月19日版のHTML5仕様におけるiframe要素の部分を抜粋したものです。このブルーの囲みを見ると、iframe要素には2つの検討課題が残っており、最終草案になるためには、これを解決しなければいけないことが分かります。このような検討課題に関連する部分を避けることで、今後の仕様変更の影響を最小限にとどめることが可能です。
HTML5の現在の実装状況
2009年5月、米Google社がサンフランシスコで開催したイベント「Google I/O 2009」にて、Google社がHTML5を強力に支持することを発表しました。それまであまり注目を浴びてこなかったHTML5が、一気に世界中から注目を浴びるようになりました。おそらく、これが、HTML5を取り巻くブラウザ競争の始まりだったと言えるでしょう。ご存じの通り、今ではChromeはHTML5関連の機能を最も多く実装したブラウザの1つです。
FirefoxやSafariやOperaも以前からHTML5のいくつかの機能を実装していましたが、近年、HTML5関連の機能の実装を加速しています。
2010年3月、米Microsoft社がラスベガスで開催したMicrosoftの開発者向けカンファレンス「MIX10」にて、Microsoft社は、次期Internet Explorerに、ウェブ標準、そして、HTML5の機能を積極的に実装すると表明しました。2010年12月時点で、Internet Explorer 9ベータ版が公開されていますが、既に、旧来のInternet Explorerとは比べものにならないほどに進化しています。
現在では、かつてのように独自実装を競うのではなく、ウェブ標準の実装度を競う段階に来ています。各ブラウザ・ベンダーは、ブラウザのリリース間隔を早め、できる限り早く新たに実装したHTML5関連のAPIをウェブ制作者が利用できるよう、競い合っていると言えます。