多彩なMMDモデルを制作しているマシシP
MikuMikuDance(MMD)とは、樋口優氏が個人で制作した3Dアニメーションツールです(公式サイト:VPVP)。3DCGのキャラクターモデルを読み込んで、簡単にポーズをつけたり踊らせたりすることができるため、ニコニコ動画ではMMDを使ったダンスや寸劇などの動画が数多く投稿されています。
MMDではユーザーの手によってさまざまなキャラクターのモデルが制作されており、最近では企業などが公式の3Dモデルを作って公開することもありますが、もちろん自分でモデルを作ることもできます。
翔泳社では自分でキャラクターモデルを作ってみたいという方のために、MMD界隈で異彩を放つモデラーとして知られる、通称「マシシ芸能社」社長ことマシシPに協力を仰ぎ、5月13日(水)に『MikuMikuDance キャラクターモデルメイキング講座 Pさんが教える3Dモデルの作り方』を刊行。そこで、初の単著刊行となったマシシPに、MMDとの関わりや3Dモデル制作でのこだわりなどについてお話をうかがいました。
3Dモデリングを始めたきっかけは『アイドルマスター』
――そもそもマシシさんが3DCGに興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか? 書籍内では「絵が描けないけど動画や絵をニコニコ動画に投稿して遊びたいなぁ」と思ったのがきっかけだったと書かれていましたが、やはりニコニコ動画からですか?
マシシP:ニコニコ動画はβの頃(2007年)から見ているので、ほぼ立ち上げ当初に近いときから見ていると思います。当時はオンラインゲームを遊んでいて、その合間に見ている感じでした。特に『アイドルマスター(アイマス)』のゲームプレイ動画が多く上がっていたので、よく見ていました(※1)。アイマスはキャラが3DCGということもあって、3Dモデリングをやろうと思ったきっかけになりましたね。
ただ、私がそれでモデリングを始めたのは2008年の1月からなのですが、そのころのMMDはマルチモデルに対応していなかったので(※2)、実は当時MMDにはほとんど関心がなく、もっぱらBlenderだけで3DCGを作っていました。その後2008年末になって、ガンプラPが私のBlenderモデルをMMD化して作った動画(※3)がアップされたのを見て、マルチモデルに対応したことを初めて知ったくらいです。
MMDは、アニメ風のレンダリングが一番気に入っています。また、リアルタイムレンダリングになっているところが素晴らしいと思います。
公式サイト:THE IDOLM@STER OFFICIAL WEB
気に入ったキャラを作っていたら、マシシ芸能社ができた
――これまで3Dモデルを作られてきた中で、とくに大きな影響を受けたほかのモデルやモデラーさんはいらっしゃいますか?
マシシP:最初に影響を受けたモデルは、やはりアイマスのモデルですね。それまでの3Dモデルと違い、アニメ風の可愛さをとても良く表現できているので、今でも好きです。また、モデラーのキオさんのモデルが好きで、よく参考に見ていました。以前作ったルカあたりは、アイマスとキオさんの影響を受けたモデルです。
そのあと、まままさんの影響も受けてます。ままま式GUMIモデルの公開は強烈でしたね、3Dでここまで可愛く出来るのかと。まままさんの影響を受けたモデルは、デフォ子とかがそうです。
――マシシさんのモデルも最初のものはアイマス関連のキャラが多かったですね。現在はVOCALOID関連やUTAU関連のキャラなども作られています。いろんなジャンルのモデルが増えていったきっかけはありますか?
マシシP:やはりニコニコ動画の影響が大きいです。ランキングなどで色々なキャラを目にするので、このキャラ気に入った→作っちゃえのコンボですね。また、MMD関係の方とチャットしていて、「こんなキャラいるけど作らない?」といったやりとりから作ったモデルもあります。
――また、マシシさんの特徴として、普通のかわいいキャラクターだけでなく、ののワさんに始まり、いわゆるネタキャラのようなモデルも積極的に作っていることが挙げられると思います(本書の解説は逆にすごく真面目に書いていただいてますが……)。次は誰を作ろうか、どのジャンルにしようかといったことは、どうやって決めていますか?
マシシP:ニコニコ動画で見かけたり、チャットで共有されたり、最近だとTwitterとかで「これはw」と思ったら作ってます。VOCALOID系だけは「全員揃ったほうがいいかな?」と思って作りましたが、基本は無計画で、気に入ったキャラがいたら作るだけです。
いつの間にか「マシシ芸能社」と呼ばれたりしていますが、面白いのはモデルを利用して動画を作られている皆さんなので、私は普通の人だと思います(たぶん)。
絵が描けなくてもできる3Dモデリング
――メインで使用されている3DCGソフト「Blender」(※4)について伺います。マシシさんの観点から、MMDモデルを作るソフトとしてBlenderを見た場合、どういうところに良さがあると思いますか?
マシシP:MMDモデル制作用のソフトとして見た場合のBlenderのメリットは、有志の方が作ってくださったMMDモデル用のエクスポータが優れているので、MMDモデル作りのほとんどの作業がBlender側でできてしまうところです。 一方、操作体系がほかの3DCGソフトと比べて特殊なところと、日本語に完全には対応していないところが少し大変ですが、最近はそれも改善されてきています。
公式サイト:Blender Foundation
――3Dキャラの作り方ですが、初心者向け解説書やWebのハウツー記事では、「まず原画を用意します」から始めて、原画をもとに面を貼っていく手順のものが多いのと思うのですが、本書のメイキングはそれらと違って球や立方体などの基本図形から作っていくのが特徴的でした。
マシシP:私の場合、解説本などは読まずに我流で3DCGを始めて、絵も描けなかったので、とくに最初はこのやり方でやっていました。 今は他の方法でも作りますが、本書では初心者向けということで、この方法に絞って解説させていただきました。
――じっさいにモデリングをする段階では、どういうところにこだわっていますか?
マシシP:特に目は時間をかけて調整します。黒の点だけの目だとしても、その位置とかを少しずつ変えたモデルを、並べて比較とかもやりますね。目はミリ単位の違いでもキャライメージが変わってくるので、一番重要な部分だと思ってます。 あとは、3DCGでは頂点が増えれば増えるほど、モデルをMMDで使う際にPCスペックが必要になってしまうので、できるだけ頂点は少なくなるようにしています。
「好きなキャラを作ろう」という情熱が継続の秘訣
――本書ではマシシさんに、「3Dモデルを作りたいと思った初心者向けに、基本の練習は省いてモデル完成まで一気通貫で解説してください」と、ある種の無茶振りをして解説いただきましたが、実際にマシシさんが初心者のころに挫折しそうだったところや、どうやってモデリングを上達してきたかについて教えてください。
マシシP:まず顔で何度も挫折しかけました。その次に体のバランスですかね。絵を描いたこともない人がモデリングすると、宇宙人が生まれるんですよ(笑)。上達するには、他のモデラーさんのデータを見ることと、同じキャラでも良いので何回も作ることです。特に他のモデラーさんのデータはノウハウの塊みたいなものですから、ポリゴンの貼り方などを見るのはとても勉強になります。
――完成したMMDモデルは広く公開されていますが、自分が作ったモデルがいろんな動画の中で動いているというのは、モデラーとしてはどういう感じですか?
マシシP:自分のモデルを気に入って使ってもらえたというのは、それだけで嬉しくなります。使われている動画には、面白いものからちょっとそれは……というものまでいろいろありますが、価値観の違いと割り切って見ています。 ニコニコ動画だとジャンルを超えてモデルが使われたりしますが、そうした広がりは別のジャンルを知るきっかけにもなるので、どんどん広がって欲しいですね。
――これから本書などをきっかけに、MMDユーザーモデルを作ってみようかな、という方に向けて、励ましのことばをお願いします。
マシシP:本書ではいきなりゼロから作る方法を解説しましたが、他のモデラーさんが作った好きなモデルの改造から始めるのも1つの手です。「モデリング操作を覚えよう」と思って始めても、勉強と同じですぐ飽きてしまうので、「好きなキャラを作ろう」という意気込みで、チャレンジしてみてください。