自分なりのSREを実践しよう
それが「自分たちなりのSREの実践してみる」方法だ。まず安藤氏たちが注目したのは50%ルールである。「価値の高いことをする時間を確保するための戦略と捉えた」と安藤氏。現状の運用現場は運用業務が100%、または100%以上のところが多い。そのため運用以外に割ける時間がなく、運用改善もできない。「そこでトイルの撲滅もその時間を確保するためと捉えることにした」というのである。
Googleは自動化でトイルの撲滅を図っているが、安藤氏は自動化以外の方法を考えてみたという。第1の方法は取捨選択。「今やっているそのタスクが本当に必要かどうかを検討すること」と安藤氏。「目的もわからず、やることが当たり前になっているタスクの疑問を持つことが大事である」。中には必要のないタスクもきっとある。そういったタスクは勇気を持って捨てることだ。
第2はアウトソーシング。「そのタスクをやることは、私たちにとってベストなのかを考えることだ」と安藤氏は続ける。他社に代行してもらったらいくらになるんだろうと調べてみると、自力でやるより速かったり安かったり、さらに正確だったりすることもある。「自分の仕事の中で生産性が高いもの、そうではないものがわかる。時間を確保するためにお金の力で解決するのも一つの選択肢だと思う」と安藤氏は強調する。
第3は順序の入れ替え。運用業務はフロー図やフローチャートに従って行われる。フローの順序は実運用が始まる運用設計の段階で作られる。想定した時間を基に作られるのだが、「実際の運用が始まると想定と違うことがよくある」という。タスクの順序を入れ替えることでフローがスムーズに流れたり、まとまった待ち時間に並列でタスクを進められたりする。作業時間やオーバーヘッドを減らせる可能性があるというわけだ。
第4は特殊性の排除。運用の中でイレギュラーな対応、例外的な処理は多い。「そういったものがあると非効率で、ミスの温床にもなりうる」。これらを極力汎用的な手順で処理するように工夫するのである。「お客さまと共に検討し、業務の変更を交渉することも視野に入れておくこと」。自動化やコード化をする上でも、共通のモジュールで処理する方が可動性やメンテナンス性も良くなるという。
第5は自動化。第1~第4で残った業務もしくは整理した業務の自動化を検討するのである。「ふるいをかけている分、自動化する価値も高いと思う」と安藤氏。このように整理しないと、自動化自体が非効率に進められてしまうこともあるからだ。
以上のとおり、トイルの対処方法にはいくつかの手法があることがわかった。これで「トイルの撲滅をしよう」と俄然やる気になるが、手段や方法論だけでは前に進まない。運用の手順を変えるにはクリアしなければならない大きな壁があるという。「品質を担保できるのか」「周囲の理解が得られない」「関係各所との調製が必要」「変えるための工数の捻出はどうする」「学習コストや教育コストがかかる」などが、直面した壁の例だ。だが安藤氏は「変えるリスクは確かにあるが、変わらないリスクも存在する。変わらなくても安泰とは言えない」と変わらないリスクについての説明を続けた。
変わらないリスクにはどんなものがあるのか。まずはサービスが成長すると、トイルが増えることによりコストが増え続ける可能性があること。価格競争に負けたり、新技術開発・採用したサービスにシェアを奪われたりといった可能性もある。新しい技術を勉強しても仕方がないといった雰囲気がチームにまん延し、メンバーの成長を妨げたり、やる気をそいだりしてしまう。
「このように変わらないこと、変わることどちらもメリット、デメリットが両面ある。どちらか一方を過大評価せずに検討することが大事」と安藤氏。進め方も大事だという。いきなり議論を始めてしまうと、拒否反応を見せる人もいるからだ。例えば自動化するのであれば、まずは検証環境で動くところを見せてメリットをアピールしたり、影響範囲やスキルからスモールスタートして、知見と実績をためながら進めたり、乗ってくれそうな人を味方に付けながら進めていくのだ。
「こういった活動である程度時間が確保できるようになる。得られた時間で私たちはさらなる改善・自動化をしていくつもりだ」と安藤氏。一度で理想に近づけるのは難しい。変化は一度きりではなく継続していくこと。そのためにはスキルアップや技術のトレンドを追いかけることを続けていかねばならない。
「SRE本は当たり前になっている業務にさまざまな気づきを与えてくれる。本の中に書かれていることもあるが、それを読んで自分の現状や経験と照らし合わせると、さまざまな感想アイデアが浮かんでくる。GoogleのSREチームをまねするのではなく、自己流にアレンジしていくことが大事。得られた気づきを基に、快適な運用ライフを過ごしましょう」
そう最後に呼びかけ、安藤氏はセッションを終えた。
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