メンバーの「自発性」を促すために
エンゲージメントの高いチーム文化を醸成するため、大阪拠点はどのような取り組みをしてきたのか。彼らが大切にしてきたという6つの要素を、大西氏は解説した。
「1つ目は、メンバーに『自分自身で考えてもらう』ことです。チームリーダーだけが全ての物事を考えるのは無理があります。それに、自律的な組織を作るには、各メンバーが主体的に動いてくれる状態を生み出さなくてはいけません」
その状態を実現するために、大阪拠点ではいくつもの工夫をしてきた。例えば、チームの課題をメンバー全員に考えてもらう施策がそのひとつだ。これにより、各メンバーの視座が自然と引き上げられる。また、個人の経験学習を促進し、学びを最大化できるといった側面もある。
大西氏は、書籍で解説されている組織論のノウハウも積極的に取り入れてきた。少し前に『ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』という本が流行したが、同書に記載されている「助言プロセス(何かの意思決定の際に、関係する人々や部門に必ず相談するというルール)」の仕組みを大阪拠点に導入したそうだ。
具体的にはチームを結成して半年後に、助言プロセスを理解・実践するためのワークショップを開催。さらには、半期ごとの個人成長目標の設定でチームリーダーの承認を廃止し、助言プロセスによって、納得のいく成長目標を各自で作る方針に切り替えている。それ以外にも、チームで何かを決めるときは、チーム全員が集まって対話する「全員同席」の仕組みを導入した。
「次の要素は『自身らしく働いてもらう』ことです。メンバーが自分自身のスタイル(強み・価値観)を理解できれば、何かのチャレンジをしたときや逆境に遭遇したときに役立ちます。なぜなら、自らのスタイルを「拠り所」とし、思考や行動の指標とできるからです」
スタイルをチーム内で共有できていれば、メンバー同士のあうんの呼吸も生まれ、「この人はなぜここにこだわっているか」「どんな価値観で仕事をしているのか」といった理由が見えてくる。
Sansanでは、メンバーの特性を理解するために2つのツールを導入している。「ストレングスファインダー」と「エニアグラム」だ。両ツールは、その人が何に対して強み・弱みを持っており、どういった分野に関心があるかを可視化してくれる。診断結果は全社的に公開されており、仲間の個性を理解する助けとなっている。さらには、「メンバーに自分自身と向き合ってもらうため、1on1ミーティングも重視しています」と大西氏は語る。
とりわけ中途入社したメンバーは、自分を見失ってしまいがちな傾向がある。過去の職場と環境や文化が変わるため、一時的にパフォーマンスが落ちることが多いからだ。だからこそ、自分のスタイルが確立されるまで、1on1を通じて考え続けてもらっているという。
「次の要素は『チームでの方向性・役割を大切にする』ことです。Sansanのプロダクトとチームには、ある程度の関連性があります。例えば大阪拠点では、Sansanの管理者向け機能をメインに開発していますが、『なぜ管理者系の機能を開発する意義があるのか』を明確にしてメンバーにビジョンを提示しなければ、全員が同じ方向を向いて前に進むことは困難です。また、チームのミッションや目指すべき姿についても、一定期間ごとに全員で集まり、ともに議論し合いながら検討しています」
「成長し続ける組織」を作るために
「次の要素は『チームとして成長機会・支援を大切にする』ことです。せっかくチームで働いているのだから、各メンバーが成長できる環境を全員で作っていきたいですし、一緒に切磋琢磨するような関係性を構築していきたいんです」
その環境を作るため、大阪拠点では半期ごとに立てる成長目標や、1カ月に1回実施するYWTの「T(次にやること)」などの内容をチーム全員に共有している。これにより、成長のため他のメンバーに助けてもらうべき部分を明確にし、かつ個人の成長を「チームの成長」として全員に捉えてもらうのだという。
大阪拠点では、メンバーへのフィードバックの仕方にも特徴がある。半期ごとに、全員が各メンバーから直接的にフィードバックをもらう場を設けている。改善してもらいたい点について話す際は、どうしても該当メンバーのマイナス要素を説明しなくてはならない。しかし、「その人の成長のため」という共通認識を持ってその場に参加することにより、多少言いづらいことでも積極的に発言できる文化が醸成されていく。
「次の要素は『採用はチームごとにする』ことです。Sansanに中途入社してくれる方は、当社のミッションに共感して入社してくれます。さらに言えば、大阪拠点に来てくれる方は、まだ立ち上げのフェーズで人数が非常に少ない段階でジョインしてくれたメンバーばかりなので、拠点を大きくしたいという想いも持っています。そうした想いを持った人がせっかくいるのに、僕だけが採用を頑張っていてはもったいない。全員が高い志を持っているのだから、みんなをうまく巻き込んだ方が絶対に成果は出ると考えています」
では、メンバーに採用を「自分ごと化」してもらうために、彼らは何をしているのだろうか。そのための施策が、採用に関するOKRをチームで考えることだ。「書類・面談数を前期の2倍にする」「リファラル採用活動を3回実施する」「勉強会・イベントに3回登壇する」「大阪採用専用の求人を作成する」など、数多くの具体的な指標を立て、全員が一丸となって取り組んでいるという。
「そして最後の要素は『職場環境を良くする』ことです。最近、エンジニアが増えたことによりオフィスの増床がありました。通常は総務の方がレイアウトを考えますが、せっかくなのでエンジニア視点でオフィスを拡張したいと私から頼み込んで、私たちの意見を取り入れたレイアウトにしてもらいました。エンジニアは1日のうち半分以上はオフィスにいますから、自分たちで自由にアレンジでき、生産性を向上させられるようなオフィスを作りたかったんです」
良い組織文化とは、誰かひとりの力だけで生み出されるものではない。所属するメンバー全員が自発的に思考し、「良い文化を作ろう」と手を取り合うからこそ生まれるものだ。その重要性を改めて語り、大西氏のセッションは終了した。
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