セッション・デモ紹介
ここからは、本イベントで発表されていたセッションやデモから、オープン系ITインフラにおけるベアメタルホスト管理、Edgeコンピューティングの活用・導入事例について紹介します。
Metal3によるKubernetes APIを用いたベアメタルホスト管理
まずは、マーケットプレイス会場のOpen Infrastructure Loungeで発表されていたMetal3(Metal Kubed)のデモ「Ironic Bare Metal Demo」について紹介します。Metal3とは、YAMLファイルの宣言的な記述をベースにKubernetesからベアメタルホストを管理することができるソフトウェアです。KubernetesのCRD(Custom Resource Definition)機能を用いてYAMLファイルにベアメタルホスト情報を定義し、Kubernetesで提供されているAPIを使用することで、その他のKubernetesリソースと同じようにベアメタルホストを管理することができます。
Verizonのキーノートセッション「Powering Verizon Media with open source & open collaboration」でも取り上げられていましたが、インフラストラクチャ全体としての最適な管理を実現するためには、仮想マシン・コンテナが実際にデプロイされるベアメタルホストについても、仮想マシンやコンテナと同様に管理していくことが重要となります。そのような背景の中で、Kubernetes APIをインターフェースとしてベアメタルホストを管理できるMetal3は、インフラストラクチャ管理における有力なソリューションとなるでしょう。
デモの中では、実際にMetal3を使用してベアメタルホストを構築・管理できることが紹介されていました。Metal3についてはキーノートセッションで紹介されていたこともあり、デモ会場には多くの人が集まって発表を聞いていました。
Metal3はKubernetes上で実行され、OpenStackのベアメタル管理サービスであるIronicと連携することでベアメタルホスト管理機能を提供します。そのため、実際にベアメタルホストをデプロイする前にKubernetes(デモではMinikubeを使用)とIronicサービスのインストールが必要となるそうです。その後、ベアメタルホストの情報をBareMetalHostsカスタムリソースとしてYAMLファイルに定義し、BareMetalHostsオブジェクトを作成します。これにより、物理サーバのベアメタルホスト登録、ベアメタルホストの状態取得、イメージデプロイなどすべての操作をKubernetes API(kubectlコマンド)で実行できるようになります。まさに、キーノートセッションで掲げられていたOSS連携というテーマを体現したようなデモとなっていました。
今後Metal3プロジェクトでは、Kubernetesクラスタ管理を行うCluster API(Cluster Management API)プロジェクトへの対応についても開発を続けていくとのことです。
Edgeコンピューティングを用いたスマートウェアハウスの実現
Edgeコンピューティングを用いて大規模倉庫管理のイノベーションに繋げた例として、Lenovoの「How to bring things together to the smart warehouse?」セッションについて紹介したいと思います。
Lenovoは香港に本店を置くPCやモバイル端末のメーカーで、今ではデーターセンター、クラウド事業の推進なども行っています。OpenStackをベースとしたクラウド基盤の構築・検証も行っており、今回のサミットにおいても、前回に引き続きOpenStack Upstream Institute(サミットの前日に行われるOpenStack Upstream開発初学者向けの集中プログラム)のスポンサーを務めました。
本セッションでは、Edgeコンピューティングやディープラーニングなどの技術を用いて構築したスマートウェアハウスについて紹介されました。Lenovoは、PCやモバイル端末などの商品を保管するための大規模倉庫を各地に複数所有しており、倉庫内の商品管理について以下のような課題を抱えていたそうです。
- 商品の収容効率向上
- 商品の配置場所特定に要する時間短縮
- 手動業務による在庫管理数ずれの改善、など
これらの課題を達成するために、Lenovoは以下のようなイノベーションを行ったといいます。
- 商品や倉庫内の各スペースに付与したバーコードをリアルタイムで認識し、倉庫内の状況を徹底管理
- ウェアラブル端末(スマートウォッチ・スマートグラス)の利用、自動運転車の導入
- リアルタイム在庫管理データ更新、など
バーコード認識では、さまざまなアングルで撮影された動画から正確に読み取りを行うために、ディープラーニングによる動画解析・画像認識を活用しています。また、倉庫内の状況と処理している動画との間にずれが発生しないように、リアルタイム(高速通信かつ低遅延)な動画解析を行っていると紹介がありました。リアルタイム処理を実現するために、動画解析やバーコード検出などの処理は各拠点のEdgeサイトで行い、時間を要する処理(ディープラーニングのモデルトレーニングなど)はコアデータデンターで行うアーキテクチャを採用しているそうです。ソフトウェアスタックに関しては、アプリケーション実行用のインフラ管理のためにKubernetesを使用しています。また、多数のウェアラブル端末や、倉庫内を録画しているカメラにより今後大量のデータが保存されていくことが予想されるため、ストレージソフトウェアとしては、スケールアウトが容易なCephを利用していると説明がありました。
このようにEdgeコンピューティングやディープラーニングを活用してスマートウェアハウスを構築したことにより、今後、以下のとおり大幅な改善が見込まれると説明しました。
- 倉庫内のスペース利用率: 20%以上向上
- 倉庫内の商品移動: 50%削減
- 従来かかっていた商品搬入・搬送時間: 90%削減
また、この取り組みの中で得られた学びとして、スモールスタートでスケーラブルなプラットフォームを構築していくことや、データを活用したシステム最適化の重要性についても述べていました。今後もLenovoは、リアルタイム動画処理の精度向上や、他拠点倉庫へのシステム拡張、その他新機能によるイノベーションを続けていくとのことです。
おわりに
以上、本記事ではOpen Infrastructure Summit Denver 2019のキーノートやセッション、デモについて紹介しました。次回、2回目となるOpen Infrastructure Summitは2019年11月4日~11月6日に中国・上海のShanghai Expo Centreで開催されます。先日Open Infrastructure Summit Shanghai 2019の公式ホームページでチケット購入のためのレジストレーションが開始されましたので、興味のある方はぜひチェックしてみてください。