楽しみながら働き、成果を出せる組織「Work fun! Management」を目指す
どんな人でも、楽しく仕事をしたいと思うもの。新村氏もまた「難しいことを楽しんでやること」をモットーに仕事に取り組んできたという。そして、新村氏が所属する株式会社Works Human Intelligenceもまた「『はたらく』を楽しくする」をミッションに掲げ、HRテック業界のリーディングカンパニーとなるべく、事業と組織づくりに取り組んできた。
そんな同社が目指す「Work fun! Management」のために、重要なカギを握るのが「目標設定」だ。今までは、設定した「仕事の目標」に対し評価や振り返り、フィードバックを行う際には、成果・結果はもちろんながら、仕事を遂行する中での「顔色」や「行動」「会話」などが重要な手がかりとなっていた。しかし、新型コロナウイルスの影響でリモートワークが日常となった今、そうした手がかりを得られぬまま、これまでどおりの目標設定および評価・振り返りが可能になるのか、疑問に感じている人も多いだろう。
しかも、たとえ新型コロナウイルスの問題が収束しても元通りということは予測しにくく、リモートワークがさらに広がる傾向にある。実際、Employee Experienceとして「意外と仕事ができる」という気付きがあり、「自由な場所・時間でできる」「副業しやすい」といったメリットに加え、他社や関係者も受け入れ、ツールやシステムも拡充してきた中で、「会社としても受け入れざるを得ない」というのが実情だろう。リモートワークが定着していくのなら、どのように仕事が変わっていくのか。
そもそも仕事とは、「やる気」があり、遂行した後の「達成感」が報酬となって繰り返すうちにアウトプットの質も効率性も上がっていく。このメカニズムを研究した心理学者J・リチャード・ハックマンと経営学者グレッグ・R・オルダムが重視したのが5つの「職務特性」だ。単調な仕事ではなくスキルを発揮できる「①技能多様性」、はじめから最後まで仕事を完結できる「②タスク完結性」、世の中や人のためになっているという「③タスク重要性」は心理状態として「仕事の有意味感」に、自らが決定する「④自律性」は「仕事への責任感」に、そして評価や結果が返ってくる「⑤フィードバック」は「成果への知識」にそれぞれ紐づくと考えられている。それによって「やる気」や「達成感」が醸成されるというわけだ。
こうした職務特性と心理状態の関係性を踏まえ、どのようなアプローチを行えばいいのか。「仕事の有意味感」を与えるには、上司が本人に合わせた“腹落ちする”説明を行うことが望ましく、「自律性=仕事への責任感」を持たせるには、本人が決定することが必要だ。さらに「フィードバック=成果への知識」については、組織として成果発表会など成果を共有する機会が有効だという。
それでは、「Work fun! Management」を考えた時、なぜ「目標設定」が必要なのか。会社を変わりたい、収入を増やしたい、仕事を「楽しい」と思えない……など、現状を変えたいと考えるなら「何かをやる」必要があり、それを完遂するための「目標設定」が欠かせない。しかしながら、そのために「やるべきこと」には「やりたくないもの」「やらなければならないもの」も少なくなく、それを「やりたい!」に変えるには、「なぜやるのかを認識し、自ら決定すること」が重要であり、単に決定するのではなく、「他の人に説明できる」ほどの“腹落ちレベル”であることが大切だ。しかしながら、目標を設定したとしても行動や意識を変えることは大変であり、継続的に取り組まなければ意味がない。だからこそ、やり続けるための理由(=目的)がとても大切になるというわけだ。
目的・ゴール・目標を自分ごと化するための「目標設定のコツ」
それでは、メンバーが仕事を“fun=楽しみ”として取り組むようになるためには、マネジメントはどのようにアプローチすればいいのだろうか。
目的を「現状を変えたい理由」とし、ゴールを「目的を達成するための結果の定義(または組織目標)」、目標を「ゴールに到達するためのマイルストーン(または個人目標)」と位置づけた時、さらに目標を達成するための細かなアクションプランが必要になる。
ここで、まずは「目標の種類」を考えた時、「①創出・開発」「②向上・強化」「③改善・解消」「④維持・持続」の4つに分けられる。「①創出・開発」なら、新規サービスなど新しい価値の提供であり、何かと比較することが難しいため、多くの場合「期日基準」を設ける。また「②向上・強化」は現状のものをより良くすることであり、過去と比べた「状態基準」で判断する。「③改善・解消」はいわゆるバグなどマイナスの状態でより良くなった「状態基準」か具体的な「数値基準」で推し量る。そして、「④維持・持続」は運用面での価値向上であり、具体的な「数値基準」が目標となることが多い。
これらを踏まえて、具体的に「目標設定」をどのように行うのか。新村氏の場合、「主題」「副題」「アクションプラン」そして「達成の定義」の4項目を踏まえて考えるという。
まず「主題」に簡潔にタイトルを付ける。有意味性を伝え、当人の意思で選択することが大切だ。そして「副題」では、なぜしたいのか、誰をどのような状態にしたいのかを考える。この時、当人の言葉で表現することが最も重要だ。そして、いつまでに何をするのか「アクションプラン」を最低3つ、できれば5つ以上書く。ここではアドバイスとして、論理的かつ実現可能性を鑑みたものであることを伝えておくとよい。その上で、「達成の定義」どのような状態を“達成”とするのかを定義する。ここにも当人の意思が重要であり、事前に当人と上司が合意しておくことが望ましい。目標通り100点の定義と、それを超えた120点の定義の両方を具体的に考える。
なお、目標数の適正数は期間とほぼ比例しており、3か月なら3〜5点、半年なら5〜10点、1年なら10〜15点程度が適当だ。目標が少なければ漠然とした“テーマ”となり、具体性が乏しくなる。一方目標が多すぎると単なるタスクとなり、目的を見失ってしまう。目安として「1か月に1点」と考えるとよいだろう。
そして、新村氏は自身が会社で目標設定の運用にあたり、心がけている「運用五箇条」を紹介した。まず1つめに大切なのは「目標設定は時間がかかる」と考え、適切なフォローを行うことだ。締め切りは作らず、話を聞いたり、人の話を聞くように促したりするなど、上司は気長に取り組むようにすることが大切だ。その上で、2つめに「設定した目標を追加・修正もしてもよい」とする。そして3つ目に「達成はほめ、できなかったら分析する」、4つめの「進捗管理ではなく、障害を取り除く」というように、必ず上司がフォローやアドバイスを行うことが大切だ。そして、節目には時間をとって「フィードバックを得られる機会を設けること」も必ず行いたい。できれば上司だけでなく、グループ内や他部署のメンバーなど、できるだけ広い範囲からのフィードバックが受けられるとより効果的だという。
最後に新村氏は「大切なのは仕組みじゃない」と言い切り、「どんな良い仕組みも一緒にやる仲間一人ひとりの気持ちに向き合わなければ上手く運用することはできない。まず、自らが相手のファンになり、次に相手が自分のファンになってくれれば、どんな仕事も楽しくできると思う。それが『Work fan Management』」と熱く語り、まとめの言葉とした。