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研究開発チームが展望する一歩先の未来

LINEが考える、AI時代の未来予測とは? 「LINE R&Dビジョン」で提示された4つのコンセプト

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 2020年11月、LINEが主催するエンジニア向け技術カンファレンス「LINE DEVELOPER DAY 2020」がオンラインで開催された。その中でこれからLINEがAI関連領域においてどのような研究開発を進めていくか、その方向性を表す「LINE R&Dビジョン」が発表された。その内容とLINEが実現を目指す社会とはどのようなものか。LINE AIカンパニー CEOの砂金信一郎氏とLINE AIカンパニー Data Labs 技術アドバイザリー 栄藤稔氏に話を聞いた。

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LINE AIカンパニーはどんな組織?

 国内MAU(Monthly Active Users)が8600万人と、最も利用者数が多いソーシャルメディアとして成長を続けているLINE。同社では2019年よりカンパニー制を採用している。昨年2月にAIカンパニーのCEOに就いたのが砂金氏だ。

 AIカンパニーは、同社のAIスピーカー「Clova」を開発していたチームがベースとなっているため、AIチャットボットやLINEカーナビなどLINEのアプリやスマートフォン上で動くアプリを作ることで、私たちの生活を便利に楽しくする役割を担ってきた。「現在は、スマートフォン上のアプリに縛られず、当社がこれまで培ってきた音声認識や対話を組み立てる仕組みなどのAI関連技術を、LINEだけで使うのではなく、外部の会社や団体に提供することで、我々だけではできない世の中の変革を成し遂げたいと思っています。今、そのためのカンパニーミッションを作っています」(砂金氏)

LINE AIカンパニー CEO 砂金信一郎氏
LINE AIカンパニー CEO 砂金信一郎氏

 砂金氏はCEOとして世の中を切り開いていくべく、同社が保有する技術のユースケースを想定し、それを一緒に実現してくれそうなパートナーと共にPoCを進めていくミッションに取り組んでいる。

 砂金氏が牽引するAIカンパニーの技術アドバイザリーに就いたのが、大阪大学先導的学際研究機構 教授の栄藤氏である。「大学では未来のオフィスや未来の環境制御について研究をしています」と栄藤氏。栄藤氏はアカデミアの研究者という顔だけではなく、翻訳サービスの「みらい翻訳」や対話インタフェースの開発を行うコトバデザインを立ち上げるなど、AIの事業家という顔も持っている。

LINE AIカンパニー Data Labs 技術アドバイザリー 栄藤稔氏
LINE AIカンパニー Data Labs 技術アドバイザリー 栄藤稔氏

 栄藤氏と砂金氏との出会いは、科学技術振興機構が運営する「CREST」という研究プログラム。その人工知能領域のリーダーを務めているのが栄藤氏で、砂金氏は「この領域アドバイザーとしてプログラムに参加したのが、栄藤さんと話をするきっかけ」と振り返る。そこで「研究には出口戦略が必要。事業として成立させられそう、世の中にインパクトを与えられそうなものに取り組んでいくべきだ」という栄藤氏のこだわりを知ったという。

 「LINEが今、置かれている状況は、研究のための研究や、10年後、30年後の未来のための研究をしている余裕はありません。作ったものをすぐ市場に投入しユーザーの反応を見て、世の中を動かしていこうとしています。そのために、研究成果はプロトタイピングしながらプロダクトにしていく必要がある。当社にはサービス開発に長けている人はいますが、自社で研究開発した技術をプロダクトにする経験は多くありません。栄藤さんは自分たちが作った技術で世の中を変えていこうという人の筆頭株。難易度は高いと思いましたが、技術アドバイザリーをお願いしました」(砂金氏)

 砂金氏から依頼を受けたのは、ちょうど栄藤氏がみらい翻訳から退いたタイミングだったことも功を奏した。「3年ごとに新しい世界を見るのが好きなんです。LINEの技術アドバイザリーに就くことで、新しい世界が見られると思いました。実際、今、新しい世界を見ています」と栄藤氏は笑顔で話す。

LINE AIカンパニーが提供しているAIプロダクト

 LINE AIカンパニーが現在、提供しているAIプロダクトは「LINE AiCall」「CLOVA OCR」「LINE eKYC」の3つ。

LINE AIカンパニーが提供するAIプロダクト
LINE AIカンパニーが提供するAIプロダクト

 LINE AiCallはスマートスピーカーで培った音声認識や合成・対話技術を組み合わせ、コールセンターなどでの電話の自動応答を実現する技術。

 「スマートスピーカーの音声認識は比較的簡単ですが、人間が自由に発話する電話に応用するためには、ノイズが乗って聞き取りにくい音声も加味して処理しなければならないため難しい。音響モデルや言語モデルなどを工夫して作り上げています」(砂金氏)

 活用事例も登場している。飲食店向けに予約管理システムを提供しているエビソルは、同技術を活用して「AIレセプション」というサービスを提供。「すでに10店舗ぐらいに導入されています」と砂金氏。またヤマト運輸の法人向けAI電話受付にもLINE AiCallが採用され、運用が始まっている。「コールセンターは三密職場なので、新型コロナウイルス感染症対策としても注目されています」(砂金氏)

 「CLOVA OCR」はLINEアプリやLINE家計簿などに活用されているOCR技術。例えばLINE家計簿では、レシートをスマホのカメラで撮影すればそのまま明細を含めて家計簿情報に取り込めるという機能を実現している。このCLOVA OCRの認識精度は、文書解析と認識に関する国際会議(ICDAR)で4分野において世界ナンバーワンを獲得(2019年3月29日時点)。しかも「ダントツに引き離して1位になった」(砂金氏)技術。この技術を生かすために、今のサービスがリリースされたのだ。

 「LINE eKYC」は、「CLOVA OCR(文字認識)」と「CLOVA Face(顔認識)」を組み合わせ、安全性と利便性を追究した、オンライン上で本人確認を完結するソリューション。「このソリューションを使えば、窓口に行って行う本人確認と同レベルでの確認が可能になる」と砂金氏は言う。

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この記事の著者

中村 仁美(ナカムラ ヒトミ)

 大阪府出身。教育大学卒。大学時代は臨床心理学を専攻。大手化学メーカー、日経BP社、ITに特化したコンテンツサービス&プロモーション会社を経て、2002年、フリーランス編集&ライターとして独立。現在はIT、キャリアというテーマを中心に活動中。IT記者会所属。趣味は読書、ドライブ、城探訪(日本の城)。...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

近藤 佑子(編集部)(コンドウ ユウコ)

株式会社翔泳社 CodeZine編集部 編集長、Developers Summit オーガナイザー。1986年岡山県生まれ。京都大学工学部建築学科、東京大学工学系研究科建築学専攻修士課程修了。フリーランスを経て2014年株式会社翔泳社に入社。ソフトウェア開発者向けWebメディア「CodeZine」の編集・企画・運営に携わる。2018年、副編集長に就任。2017年より、ソフトウェア開発者向けカンファレンス「Developers...

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