LINE R&Dビジョンで示された4つのUmbrella Topics
このようなサービスに応用される、高い技術開発力を有しているAIカンパニーが、LINE DEVELOPER DAY 2020で「LINE R&Dビジョン」を発表した。LINE R&Dビジョンとは、LINEが今後3~5年の研究開発の方向性を示し、その目的とゴールを示したものである。公表した理由について砂金氏は「外部に発表することで世の中の進化を早められるのではと考えたこと。そして、僕らが何をやっているかを広く説明することで、共同研究や事業などの仲間を集めやすいと思いました。メリットしかないので、最初からどんどん公表していこうと思っていました」と語る。栄藤氏も「ビジョンステートメントが定まっていないと、R&Dの活動の方向性が定まらず、人も集まりません。どこの部署、会社でも最低限必要なものだと思います」と同調する。
LINE R&DビジョンはNAVERとLINEのAI関係者200人のアイデアが基になっている。「今後3~5年間でLINEに大きなインパクトを及ぼすであろう技術的変化、社会的変化とは何か。そしてそのビジネス価値はどうなるのかという問いに対する意見を募集したところ、300近いアイデアが集まりました。そのアイデアから5人のエディターがトレンドを抽出して、『Umbrella Topics』としてまとめました」と栄藤氏は話す。栄藤氏はエディターの一人だが、砂金氏はあえて検討会には入らなかったという。
Umbrella Topicsは、集められたアイデアを抽象化した技術コンセプトのことで、「Digital Me」「Generative Intelligence」「Trustworthy AI」「Dark Data」の4つ。
「Digital Me」は「個人のデジタル化」のこと。「リアルな自分と同じ性格、権限を持ったデジタルクローンをバーチャル空間で作ることは、まだ実現していません。それを我々が作るべきなのではという議論がありました。これができればeKYCはもちろん、ヘルスケア、スマートシティ、金融、旅行などのサービスにも応用することが考えられます」(栄藤氏)
「Generative Intelligence」は「生成するAI」と訳すことができる。「今、私たちはビデオを見てそれを自動でテキストにしたり、テキストからビデオを自動で作ったりすることができる丘の上に立っています。Generative Intelligenceはその技術を拡張したもので、異なる情報源が結びつく世界です。具体的には単体の画像認識や音声認識が融合し、AIが複数の機能を持つようになる。それが今、見えている世界です。個別の音声認識や画像認識の能力は格段に上がっていくでしょう。当社では音声認識で世界1位を目指すべく、開発に取り組んでいます」(栄藤氏)
このGenerative Intelligenceは教育の多様化にも貢献できる。「例えば今、Netflixで配信されている『ブラック・ミラー:バンダースナッチ』は、プレイヤーの選択によって生成されるドラマが変わります。高度にパーソナル化された、インタラクティブなコンテンツが増えていくことは間違いなく、それは教育サービスでも同様です」(砂金氏)
「Trustworthy AI」とは、AI開発者が社会的責任をまっとうするために挙げているテーマだ。プライバシーを守ることはもちろんだが、データ処理の公平性を担保することが求められる。「公平性の担保には、バイアスのかかっていないデータを処理することと、処理した結果にバイアスをかけないという2つの異なる処理があります。大量にデータを預かりAIに処理をさせる企業は、フェアでなければなりません」(栄藤氏)
それだけではない。開発したAIが社会の倫理にとって正しいものなのか、社会的正義に基づいてAIが動くのかという研究も行わねばならないという。「AIが統計的に正しく動作しても、それは倫理的に正しいかどうかのさらに上のレベルのバイアスに関する研究をしていくという決意表明とも言える」(栄藤氏)
砂金氏も、「倫理観と公平性については、日本およびアジアでシェアを獲得している僕たち自身が、最適解を見つけ出していかねばならない。そのために基礎研究から取り組んでいくということです」と付け加える。
ダークデータの本格活用が始まる
最後のテーマが「Dark Data(ダークデータ)」。ダークデータというと、悪いデータというイメージを抱く人がいるかもしれないが、「日が当たっていないデータ」を意味する。データの90%にあたるダークデータを使えるようにしていこうということだ。教師なし学習でデータが知識化していく技術が登場したことで、「日の当たらなかった90%のデータが価値を持つようになってきた」と栄藤氏は話す。大量のデータを有効活用していくことができるようになってきたという。例えばOpenAIというAIを研究する非営利団体が制作した文章生成言語モデル「GPT-3」は、ダークデータ活用の一つの形を示している。
現在、LINEはFAQ型のチャットボットを提供している。その際は質問と回答のペアにしたラベル付データを大量に用意し、AIに学習させて言語モデルを作っているという。だが「この方法は非効率でかかるコストも大きい」と砂金氏は指摘する。タスクごとのデータを活用して各タスクの言語モデルを作るのではなく、汎用的な一つの大きな汎用の言語モデルを作り、その上でダークデータを活用し、各タスクに特化したモデルを作っていくことができれば、非常に効率的にチャットボットが作れるようになる。「そのためにLINEとNAVERは日本語に特化した超巨大言語モデルの開発に取り組んでいく」と栄藤氏はいう。もちろんこのチャレンジは必ず成功するという保証はないが、「いつかは突破できるはず」と栄藤氏は力強く語る。
LINEではLINE R&Dビジョンで描いた未来に向かうにあたり、エンジニアにどんなことを期待するのか。
「エンジニア、特にAIや機械学習、ディープラーニングに関わっている人には、とりあえず実験してみようという心持ちを持ってほしいと思います。さらに、他の人が作ったテクノロジーをこれはすごいと受け止め、それを応用すればどんなものができるのか、想像してほしい。そういう人たちが増えることで、日本の取り組みっていいよねと思ってもらいたい。そしてグローバルに対して、日本のIT産業の発言力が高まるような状況を作りたいですね」(砂金氏)
「私たちのアイデアだけで面白いもの、未来が実現できるとは思っていません。共に技術開発に取り組むコミュニティを作れればいいなと思っています。私たちが掲げる4つのテーマの根底には社会的貢献がベースにあります。これは東洋的な考えです。この考えから生まれた技術開発で、共に世の中をひっくり返しませんか」(栄藤氏)
日本からグローバルへの最先端の技術の発信。LINE AIカンパニーの挑戦はこれからが本番だ。
