強烈なカルチャーショック
清水
それが、人類の未来について話しているんですよ。
編集部
人類の未来、ですか?
清水
まさかそんなことを話しているとは思っていなかったので、驚いてしまって。それまで僕の持っていた、いわゆるベンチャーの社長のイメージって、自分がお金持ちになること、つまり「株式公開だけを目的にしている人」だったんですよ。
編集部
確かにそんなイメージはありますよね。
清水
ところが彼らの発想は全く違ってて、上場することなど誰も話題にしないんですよ。彼らは「朝から晩までプログラムを書くことが最高の幸せだ」って話しているんですよ。
編集部
仕事の目的がお金ではない。
清水
彼らの中で「プログラムを組む」という仕事は、「何かの役に立つから」と思ってしている訳ですよね。なので彼らは、「結局俺たちの人生って、人類の未来にどれだけ貢献できるかってことなんだ」という話をするんですよ。延々とですよ、延々と。僕はもう圧倒されてしまって。
編集部
すごいですね。
清水
そして、彼らが聞いてくるんですよ。「ところで清水さんは今、人類の未来にどんな貢献をしようとしているんですか?」って。僕はその時、お金がなくて、苦労している時期で、家賃すらままならない状態ですから、当然、頭の中では人類の未来より、明日の食事のことを考えていました。だから何も答えられるわけもなくて。
それでも「なんかこいつらすごいな」と。僕は日々の生活でいっぱいいっぱいだというのに、生活を日々しながらもそんなことを考えているやつがいるのかと感心しました。あれはものすごいカルチャーショックでした。僕はそれまで、いろんなしがらみや、お金のことにまみれた世界で生きてきたんで、彼らみたいなアカデミックな人がとても新鮮に映ったんでしょうね。
WebアプリケーションはSQLに振り回されるという問題がある
清水
それで僕も一念発起して、長い間あたためていた「ワークフロー指向の次世代文章アプリケーションプラットフォーム」に関する論文を書くことにしたんです。未踏ソフトウェアに応募するために。
編集部
それはどんなものなんですか?
清水
データベースフレームワークというか、概念みたいなものですね。通常のSQLを使うデータベースに対する対抗概念になります。SQLのデータベースってみんな使うじゃないですか。僕もドワンゴ時代、今の会社でもですけど、SQLを使って、SQLを基準にWebアプリケーションをつくっていました。ですが、だんだんWebアプリケーションの運営や設計そのものがSQLデータベースの構成に制約を受けていくようになってしまうんです。
編集部
テーブル設計などは、繰り返される仕様変更に耐えきれないことが多いですね。
清水
たぶん、みんながいろんなところで言っていると思うんですけど。これを解決するためにO/Rマッパーとか、オブジェクトデータベースとかXMLデータベースとか生まれては消えてしているわけです。
でも僕は前からそういうことに制約を受けてるんだろうなと感じてたんです。最初に作るところはいいんですけど、運用するとかメンテナンスするとかっていうときに全然うまくいかなくなってしまう。特にWebアプリケーションの場合、行き当たりばったりなので、どこかで破綻する。
編集部
それについて研究することにしたんですね。
清水
ええ。この論文を書いて、未踏ソフトに応募したらこれが採択されて。
編集部
そして翌年、天才プログラマー/スーパークリエータに認定されたと。
清水
そうですね。
編集部注
天才プログラマー/スーパークリエータ認定制度とは、次世代のソフトウエア開発を支える100人の天才発掘を目指し、2000年度から経済産業省が
IPA(情報処理振興事業協会)を通じて始めた「未踏ソフトウエア創造事業」で、経済産業省が認定した者の総称。有望な開発者に100万~約4000万円程度が補助される。清水氏は2004年に同事業に採択され、翌2005年に天才プログラマー/スーパークリエータとして認定された。
編集部
ちなみに、天才プログラマーって日本に何人ぐらいいるのでしょうか?
清水
もともと100人ぐらいを発掘することを目標にしていたはずです。有名なところだとファイル共有ソフト「Winny」を作った金子勇さんとか、
ソフトイーサ株式会社の登大遊さんとかが認定されています。(前述の)安達君もそうですね。論文を書いて、「未踏ソフトウエア創造事業」に応募して認定されたのですが、人生において一番勉強したかった時期に、一番勉強できました。
編集部
03年に起業して、05年に認定。社長業の傍ら研究するのは大変だったと思います。そのときの研究成果がZEKE(ジーク)ですか?
清水
そうです。現在、弊社では
ZEKEというWebアプリケーションプラットフォームを主軸において、いろんな商品展開をしようとしていますが、ZEKEはこの時の研究成果を生かしたサービスになっています。もちろん、ZEKE以外にもコンテンツを作ったり、全く新しいコンセプトの動画配信サービスを企画したり、いろんなことをしていますね。
携帯コンテンツ業界の未来はない?
編集部
ZEKEも含め、清水さんは携帯コンテンツ業界に長いこと関わっていますが、清水さんから見て今の業界はどうですか?
清水
僕は今の路線のままでは未来はないなという気がしています。
編集部
それは、どうしてでしょう?