期間やリソースが限られているからこそPoCの目的を忘れずに
限られた日程と体制の中で効果的に検証を行うため、PoCで使用するシステムでは想定アーキテクチャをすべて実現するのではなく、前述の検証目的に応じたプロトタイプを作って実施した。例えば、IoT機器を使って設備から自動でデータを収集するには、IoT機器の追加・更新といったユーザー側の設備投資が必要になるため、PoCではユーザーによる手動アップロードなど他の方法で代用し、それによって可視化される情報のビジネス価値の検証に注力した。一方で、利用技術がUX(利用者体験)に直接影響する箇所については、PoCでも同じ技術を利用してユーザーのフィードバックを得ることも重要である。今回の例では、ダッシュボード機能に利用するQuickSightの表現力や操作性についてユーザーの満足度を評価したかったため、PoC向けシステムでもQuickSightを活用した。
ユーザー企業とのPoCでは各社の要望を受け、実際のプロダクトで提供予定の機能を模した簡易的なアーキテクチャをそれぞれに組んでいった。今回のPoCの実施対象になったユーザー企業は、ベトナムのタンロン工業団地に入居する日系企業4社。そのうちPoC実施時の特色の異なる3社の事例が紹介された。例えば、「現場の混乱を避けるため、PoC実施時も作業員の日報やサマリレポートの形式は大きく変えたくない」という要望があったユーザーには、現行の帳票やサマリレポートの形式はそのままに電子帳票ツールやQuickSightダッシュボードで再現し、デジタル化のUXや工数低減効果などを中心に評価してもらった。一方、すでに設備からデータを取得するシステムを持っているものの活用方法に課題を感じているユーザーには、データの見せ方の議論にフォーカスし、ダッシュボード上でどのようにデータを可視化するかを相互に提案しながら試行し、効果が出るかを評価してもらったという。
「PoCを経て、実際にプロダクト版にフィードバックした機能もある。今回紹介した2つの勘所を押さえながら、スピーディーに検証することが重要だ」(日下氏)
DX推進における内製エンジニア組織の意義と魅力
近年、事業会社にとってDX推進はビジネスの競争力を高めるための重要な要素となっている。その企画やシステム投資の判断の鍵を握るPoCにおいてビジネスゴールを共有しながら試行錯誤のサイクルをスピーディーに回すために、ビジネスの現場に近く身軽に動ける内製エンジニア組織の存在意義はより重要なものとなっている。登壇の最後に日下氏は、このセッションのハイライトとして前述したPoCの勘所を改めて強調するとともに、内製エンジニアの仕事の面白さについて触れた。
「DXの潮流によって、事業会社の内製エンジニアの仕事は面白くなってきている。SIerともWebサービス会社とも異なる魅力を知ってもらえれば」(日下氏)