「不可逆にしない」ために、外部に発注した
今回のプロジェクトに参加した4名の役割分担は以下の通りとなっていた。高尾氏がプロジェクトのオーナーとしてゴール・イメージを明確化し、データ分析基盤の改修を池田氏に依頼する。池田氏はLookerが受け持っていた加工集計機能をdbt on troccoに移し替える作業を担当する。
クラシコムはprimeNumberが提供するdbt on troccoを使いながら、ユーザーとして感想や要望をprimeNumberに返す。そして横山氏がシステム全体のコンサルティングを担当した。ここからは、高尾氏、池田氏、横山氏がプロジェクト進行に当たって特に意識した点について語った。
高尾氏は、新しいことを始めるときに「可逆性を持たせるプロジェクトにする」方針をクラシコムが採っていることを明かし、外部に委託できたことはありがたかったという。データ分析をあまりしてこなかったクラシコムがデータ分析を始めるといっても、どんな効果を生むかも分からない、どんな仕事があるかも分からない。 そうなると、いきなり人を採用することは難しい。そのため、外部に委託するという選択をした。
高尾氏の外部に委託するという判断について、横山氏は「よくあること」と評する。「特に、今回のような小さい規模でこれから始めるという初期段階ではよくある話だ」と言う。そして、データ分析基盤が一定以上大きくなったときも外部に委託することが多くなる。内部の人員だけでは業務が回らなくなるからだ。そして、その中間の規模にある企業は、内製にこだわる、自分たちだけでうまくやっていこうとすることが多いともいう。
さらに横山氏は高尾氏の判断について、「無理に規模を追うとか、いきなり大きな体制を作ろうとか、内製化していきなり強いデータ・チームを作るぞという進め方をしないところが、無駄がない投資、ROIが高い意思決定の結果につながっているのではないか」と語った。
池田氏は、業務委託としてプロジェクトに参加したことについて、クラシコムとカヤックが「伴走型支援」という形で協力している事実を挙げ、「いずれは自分が外れることができるように」ということを強く意識していたと明かした。「技術選定にしても、自分が抜けても問題ないものを選定するように心がけていた」と話した。
そして池田氏は、今回のプロジェクトの人員構成は良かったとしながらも、「できればクラシコム社内にもエンジニアがいた方が良かった」と語る。「技術選定などで何かを決めたときにクラシコム社内にもエンジニアがいれば、なぜこうしたのかという意図を引き継げる」とその理由を明かした。
また池田氏は、今回のプロジェクトではナレッジをドキュメント化することを強く意識したともいう。カヤックは伴走型支援という形で参加しており、いつかは池田氏もプロジェクトから外れることを是としている。後継となる人たちに自身の意図を伝えるためにドキュメントを残すのだ。
横山氏は、プロジェクトのコンサルティングと全体進行を担当する上で、「改善していく仕組みと文化」を根付かせることが大切だと感じていた。データ分析基盤は企業の成長に応じて作り変えていかなければならない。
そのため、今回のプロジェクトでは、リファクタリングの文化を定着させることを意識したという。ビジネス・開発の双方にとってソースコードを定期的に整理することが大事な取り組みであるという認識を持てるように働きかけた。
その際、メーカー出身の高尾氏が想像しやすいように、工場での仕事を例に挙げて説明した。ソースコードのリファクタリングをするのは、工場を稼働させる前に床に落ちている器具を整理整頓して事故を防ぐのと同じだ、といい、その重要性を伝えたそうだ。
リファクタリングは効果を示しにくいものではあるが、共通言語を持つことで、相互理解ができた状態でプロジェクトを進められた。