開発者体験向上のための取り組みの数々
プロダクトDMOが実施した施策の1つに、「開発案件管理の改善」があった。これまでは開発案件の計画を半年ごとに作成していたが、案件ごとの優先順位を決めていなかったために予想外の事態に直面しても柔軟に計画を変更することができず、結果的に開発現場に多大な負担が掛かっていた。そこで事前に優先順位を決めてその内容を誰もが閲覧できる形で公開するとともに、社内のさまざまな改善活動を行うための工数も一定量確保するようルールを作った。
また社内の組織編成も開発作業の実態と乖離しており、実際の開発作業で必要な役割や権限が各組織で正式にアサインされていなかった。そのため現場によるボランティア作業に依存する部分が多く、これも開発者体験を低下させる一因となっていた。そこで開発作業で必要な役割を持った「組織の箱」をあらためて用意し、きちんと工数を可視化・測定できる仕組みをつくった。
開発者が利用するシステム環境についても、PCスペックを向上させたり、オフィスの環境をフリーアドレス化したりするなどして、より快適で生産性の高い開発環境を整備するよう会社側に働きかけ、その実現にこぎ着けた。さらにはソースコードの管理をGitHub上で行えるようにしたり、ソースコードの静的分析ツール「SonarQube」を導入したりして、コードの品質管理をより効率的に行える環境を整備した。
チケット管理システムの改善にも着手し、非効率な現行システムを最新のSaaSアプリケーションに置き換える取り組みを進めている。そのほかにも、新人研修や中途採用者向け研修の改善や書籍購入補助、資格習得補助といった教育施策の改善、製品リリースのスピードアップのために自動テスト導入やCI/CD改善、製品のサポート対象バージョンの削減など、開発者体験を向上させるための全社的な取り組みを部署一丸となって進めている。
大規模開発を行う組織だからこそ、相手に寄り添った説明を
なおWHIは現在約1700人の社員を抱え、約500人の開発者がCOMPANYの開発に携わるなど、大規模な開発体制を敷いている。こうした組織において開発者体験の向上を図るには、大規模特有の難所を乗り越える必要もあったという。特に、現場と経営の間に入って改善活動の有効性を双方に理解してもらうためには、説明の仕方にもかなり工夫を凝らしたと萩田氏は話す。
「例えばGitHubを導入した際には、経営に対しては投資対効果や生産性向上、人材採用における効果、社員のロイヤリティ向上といった経営の関心事に沿って効果を強調する一方、現場に対しては開発者にとっての利便性が向上することを具体的に説明するなど、それぞれの立場に寄り添った形で導入効果を説明するよう心掛けました」
また一口に「現場」と言っても、各組織が抱える事情によって導入のモチベーションは異なる。そのため現場の意向を無視して強引に導入を進めるのではなく、現場が必要性を感じたときにすぐサポートできる準備を整えておく方針とした。また自分たちも一緒に手を動かして導入を進めるとともに、導入作業や現場への展開状況をSlackのパブリックチャンネルなどを通じて広く公開することで、より導入メリットが社内に広く伝わりやすくする工夫も凝らした。
加えて、社内のセキュリティ管理部門やガバナンス担当部門とも積極的に連携し、「相手を論破して強引に突破する」のではなく「一緒に環境を良くしていこうとする協力者」という姿勢を積極的に示すことで協力を得ることができたという。
2022年のプロダクトDMO発足から約1年の間でこうした活動を展開していった結果、現在では目に見える形でさまざまな効果が現れるようになり、多くの社員がこれらの開発者体験向上の取り組みに高い関心を払うようになってきたという。
「かつては各組織がサイロ化していましたが、現在では互いに有機的なつながりを見せ始めており、それぞれ個別に行ってきたものが相互に関連し合い良いサイクルができてきました。また開発組織以外の組織との良好なつながりも生まれつつあります。当初は小さな取り組みから始まった活動でしたが、いろんな方々の協力を得ながら進めてきた結果、現在では継続的に改善を続けながらより大きな目標に手が届くようになったと感じています」(萩田氏)