キャリアに途切れはない、選択肢の増やし方とはアウトプットしよう
次に向井氏が実感するのは「キャリアに途切れはない。キャリアとは、スキルを点と点で繋いだ集合体」ということ。スキルとはフロントエンド、バックエンド、デザインのような技術だけではなく、経験や環境から得たものも含む。それぞれが点として存在し、習熟度や年数で大小が変わる。これらの点と点が繋がり、それぞれのキャリアや人生が育っていく。点の間は自由に行き来できて、調整もできる。意外なところで点と点がつながることもある。だから無駄なスキルや経験はないのだ。
こうした考えを持っていると「他人と比べることは不可能であり、無意味」と分かってくる。私たちはついつい職場の同僚や、SNSで自分に似た職種の人と自分を比べてしまう。しかしこれまでの経緯などを考えると、全く同じ点と線の集合体を持つ人はいない。
それよりも自分が持つ点を増やし、大きく膨らませて、つなげて広げていくことがより有意義だ。向井氏は「他人と比べて焦るより、自分のスキルの集合体を洗い出すことで自分という比較対象ができます。過去の自分と比べてどれだけ大きくなれたかで納得していくのがいい」と話す。
この境地にたどり着く前の悔いもある。かつて向井氏は「プレイヤーからマネージャーになると、プレイヤーとして終わってしまう」と恐れていた。そのためマネージャーの打診があっても断り続けていた。
しかし意を決してマネージャーになってみると、見えてない世界が見えるようになってきた。「視座が上がったのではなく、考えることが変わっただけ」と向井氏は言う。プロダクトのビジネスにも目が向くようになり、仲間を動かすためにいかにビジョンを説明するかを考えるようになり、部下たちを「よりよいところに導きたい」という視点で前よりも技術情報を追うようになってきた。しかしこうした視点はチームワークをしていれば誰にも必要なことなので、もしプレイヤーに戻ったとしても役に立つ。
今振り返り向井氏は「もっと早く(マネージャーに)挑戦してもよかったかもしれない。だから恐れずに挑戦したほうがいい。結果的に自分のキャリアに1点(経験)が増えるメリットしかないのだから」と20代にアドバイスする。
また先に挙げたスキルは、増やせば選択肢の手札が増える。手札とは自分が使える選択肢のことだ。例えば仕事で自分が持つスキルから何かを提案したとする。もし手札が1枚なら、それしか選択肢がない。不採用ならそこで終わりだ。しかし手札が2枚、3枚とあれば、1つダメでも代替案を出せるようになる。向井氏は「手札の多さは問題に直面した時の応用力になる」と話す。
選択肢を増やす方法の1つとして副業がある。本業とは異なる企業規模やプロダクトのフェーズに触れる機会となる。大企業に所属していてベンチャーで副業すれば、普段と違うところから客観的に自社を見ることもできる。ただし注意点は本業を圧迫しないように健康にも注意すること。
勉強会やカンファレンスに登壇することで視点や人脈を広げるのもいい。ただセッションを聞くだけではなく、懇親会でいろんな人の話を聞いたり、登壇者に質問するのもいい。可能なら登壇に挑戦するのもいい。「自分が持っているスキルを知ってもらえるし、懇親会で話すときに楽です」と向井氏は笑う。
関連して、向井氏は「アウトプットして自分の分身を作る」ことを推奨する。自分にできること、得意なことは積極的にアウトプットしよう。ブログや登壇、YouTubeもありだ。社内など可能な範囲からやっていこう。アウトプットは時間が経つと自分のことを紹介してくれる分身のような存在となり、より多くのチャンスを自分にもたらしてくれる。もちろんアウトプットにはインプットが必要となり、スキルアップにもつながる。
向井氏は「例えば勉強会やセミナーの懇親会では自分のことを話せるのは10分程度。しかしアウトプットがあれば、相手はそれを知った上で話ができるので、会話の質が高くなるし、なんなら副業の話が来ることもあります。今回の講演も過去の講演アウトプットを見た翔泳社さんが声をかけてくれたのです」と明かす。
最後に向井氏は「キャリアを広げるなかスキルや手段が増えて、どの会社でも活躍できるようになり、健康でいられると、給与アップを目的にしなくても自ずと給与がついてきます(つい給与のことを考えがちだが)。30代も楽しいと思いますが、20代を楽しむことが一番大事かなと思います!」と20代の聴衆にエールを送った。