4つのフェーズに分かれる、これまでのアウトプット歴
崎原氏がアウトプットを行ってきた時期を分類すると、4つのフェーズに分かれる。フェーズ1はエンジニアを志し、就活をして内定を得るまでであり、フェーズ2は内定者時代である。フェーズ3は大学卒業後、社会人として研修を終え、現場に投入されるまでの期間で、フェーズ4は研修を終え、実際に働き始めた時期だ。
崎原氏は中学・高校を普通科で卒業し、大学では工学部の情報系学科に進んだ。大学での教育は主に数学と理論に基づいており、C言語で有名なアルゴリズムを書く程度の授業が中心だった。このため、大学卒業時にはコンピュータの基本的な知識も不足していた。
ITの基礎知識もほとんどなく、サーバーにログインすることすら知らなかった。大学の授業は主に標準入力からのデータ処理に限られていたのだ。大学3年の秋に転機が訪れる。
DjangoというPythonのWebアプリフレームワークを使ったことでエンジニアとしてのキャリアを志すこととなったのだ。しかし、実績がないために就活は困難を極めた。インターンの機会にも恵まれず、仕方なく自分で学び、作ったアプリのURLを就活のエントリーシートに記載することになった。さらに、他にもなにか成果物を作りたいとの思いから、アプリ作成時に得られた知見を技術記事としてまとめるようになり、これが執筆を始める動機となった。また、既存の技術記事が初学者にとって理解しにくいことも執筆の動機の一つとなった。
崎原氏はアクセンチュアに内定し、卒業後の職を確定させることができた。就活が終わり、働き始める前のモラトリアム期間がフェーズ2だ。この時期は義務感から解放され、自分の興味に基づいてGo言語やAWSを使ったインフラ構築に取り組んでいた。
この時期のアウトプットの主な動機は、初学者にわかりやすい記事が世の中にないため自分で書きたいということに加え、試行錯誤や学んだ内容のサマリーを外に出すことで他人からのフィードバックを得たいという願いがあった。学生で技術に興味を持つ同僚や同好の士が周りにいない環境であったがゆえ、自作の内容がベストプラクティスに沿っているかのアドバイスを身近な場所で得ることが難しかったためである。
フィードバックを受けることを望みながらアウトプットを続けた結果、技術者コミュニティと繋がることができ、フェーズ3に至る。崎原氏はGo言語のコミュニティに参加し、ハンズオンや技術同人誌の執筆、LT登壇などを通じて新たな形のアウトプットを始めた。
投稿する記事について技術者コミュニティからは「いい記事だね」「いいまとめだね」「これは誰も書いてなかった」といった肯定的な反応を多く得ることができた。自分の活動に対するフィードバックを得る目的は達成されたのだ。これにより彼女は自信を得て、初学者や中級者向けの技術記事を書くことが自分のミッションであると感じるようになっていった。
崎原氏はコミュニティ活動を行いながら大学を卒業し、アクセンチュアに就職した。新卒研修を終えて現場投入を迎えることで、フェーズ4に入った。趣味とは異なり、仕事としてITエンジニアリングに向き合う必要が出てきた。
仕事では明確な課題解決が必要であり、そのための切迫感が個人開発とは異なる。コンサルティング会社では、課題解決のためのプロとしての助言が求められる。ただ作業を行うだけでなく、その結果から何が学べるかを考える必要がある。また、自分たちだけでなく業界全体を見渡す横断的な視点も求められるようになった。
「明確な課題感があることは、記事の知見がなぜ求められているのかという動機の厚みを増しますし、記事の結論が普遍的で現場横断的な知見になることも良いことです。アウトプットが大好きな人間として、エンジニアとしてコンサルティング会社で働くことは、意外にも居心地が良いと感じています」(崎原氏)