ChatGPTがもたらす業務効率化の実例
まずは冒頭、「ChatGPTによって効率化が進んでいるのは、どのような業務分野や産業分野か」との問いが司会者によって投げかけられた。
「ChatGPTをコンサルティング業務で使っている」と答えたのは波々伯部氏だ。「物事が進まないパターンは2つあります。やり方が分からないか、やる気がないかのどちらかです。やる気はどうしようもないですが、やり方が分からないのであれば、ChatGPTに聞けばいい」。
波々伯部氏は複数企業でCFO(最高財務責任者)を勤めてきた経歴を持つ。現在は会社員として経営企画業務に携わる傍ら、合同会社HOHO代表として経営コンサルティングも提供する。
そんな波々伯部氏がChatGPTをコンサルティング業務で活用するのは、上場支援や経営支援の場面だという。たとえば海外でEC事業を展開するにあたって、何を準備すべきかを顧客から問われたとする。ECを経験したことがなければ、情報を検索し整理するだけで2~3日はかかる作業だ。しかしChatGPTを使えば、必要最低限の情報を簡単に揃えられる。タスク分解や物事のリストアップは、ChatGPTが最も得意とする分野の一つだからだ。
一例として、ChatGPTに、「この国で、この商品をEコマースで売ろうとしている。モノは日本から輸出する。現地に倉庫がある」といった情報を与えたうえで、どのようなバリューチェーンになるかを質問してみれば、商流や金流、物流などに関するさまざまな情報が得られる。それぞれのプロセスに関わる業者をたずねれば、サイト運営業者やECカード業者、決済業者、倉庫業者などを提案してくれるし、倉庫業者との契約についても、基礎となる条項を出してくれるというから驚きだ。
「ChatGPTの精度は100%ではありませんが、動き出すために必要な最低限の情報はくれます。何も分からず動けない状態から、とりあえずいったん前に踏み出せる状態になれる」と言うのが、波々伯部氏の経験だ。
続いて経験を語ったのは三宅氏。ZEN Architects代表として企業の生成AIサポートを手掛けている三宅氏によれば、多くの大企業ではAI活用に自社データを使用する傾向があるという。この際に重要となるのがRAG(Retrieval Augmented Generation)、すなわちGPTの保有する学習データ以外のデータを都度ユーザー側で足すことによって、必要なデータを生成させる技術だ。三宅氏によれば、生成AIによる業務効率化は、いかにRAGを使いこなすかに掛かっているという。
続いて三宅氏は、日本の製造業がここ10年、20年で競争力を落としていることに触れ、「ChatGPTやOpenAIの技術を使えば、課題を解決できるかもしれない」と期待を語る。
「ちょっとステレオタイプかもしれないが」と前置きしたうえで、日本企業の労働生産性についても述べる三宅氏。「海外では、重要な8割に注力し、それ以外は捨てることで効率化を図ります。対する日本では網羅性が非常に重視される傾向があり、そこにかなりの時間をかけます。そして網羅性を突き詰める作業は、ChatGPTにとって大の得意分野です」。
三宅氏によれば、IoT化した工場のセンサーデータをLLMに丸投げし、LLMから現在の工場の状態について提案を受け取るといった取り組みが実際に行われているという。「これまでは人間が必死になってデータを漏れなく確認し、問題を発見してきました。ここにLLMを活用できれば、インパクトは大きいです」。
対する大嶋氏は、「定番中の定番ですが、やはりプログラムを書いて、エラーが出たらいったんGPTに投げるという使い方は効率がいい」と語る。
ネクストスキル合同会社でソフトウェアエンジニアとして従事する大嶋氏は、複数のAIモデルを組み合わせることで高度なタスクを自動で実行できる「AIエージェント」という仕組みに取り組んでいる。
「自分が知っている分野は自分で解決したほうが早いですが、知らない分野は調べることにすら時間がかかる。そこをGPTに任せることで時間の短縮になるし、インタラクティブに情報をどんどん掘り下げられるので、システム設計や設計書レビューなどで大いに活用できます」。
これに反応するのはサルドラ氏だ。同氏は株式会社PictoriaエンジニアとしてAIキャラクターの開発を行う傍ら、プライベートではAITuberの開発者用コミュニティやローカルLLMに関するコミュニティの運営にも携わっている。「デバッグや単体テストを任せられるのは大きいです。要件定義ですら、今はChatGPTを使って簡単に整理できます」というのがサルドラ氏の見解だ。
「何か作りたいときに、なんとなくのアイディアをまずChatGPTに投げます。すると自然言語による要件定義が得られるので、『これを達成するためのテストを作ってください』と頼むことで、単体テストが簡単に作り出せる。加えて、単体テストの不足をChatGPTに尋ねると、足りていなかった異常値のケースを発見してくれたこともあります。このように自分の単体テストのレビューとして使うには、ChatGPTはとても便利です」。
サルドラ氏に同調するのは、株式会社セクションナイン代表取締役CTOであり、クラウドネイティブなシステム構築に長年従事してきた吉田氏だ。同氏はChatGPT Community(JP)を主宰し、ChatGPTやLangChain、Azure OpenAI、サーバーレスなどの分野を専門としている。同氏は非IT、非エンジニアによるノーコード開発に着目し、サルドラ氏の実践をこう評価する。
「作りたいものがある、けれども作り方は分からない。これが非IT、非エンジニアの知識状態です。ここからプロダクトを作るには、要件定義もそうですが、コードがどのような挙動をすれば『要件を満たせている』と言えるのか、その判断が壁となってきます。この判断ができるからこそ、プログラムを見直すほか、ユニットテストやE2Eテストができるわけです。サルドラさんが語ってくれたように、そこの判断をChatGPTに任せられるのは大きなメリットです」。
情報収集、課題発見、要件まわりの評価。それぞれの実践は、ChatGPTの応用可能性が想像以上に広がっていることを窺わせた。