「アジャイルPBL」の運営のポイントを解説!
続いて、風間氏がテスト領域の研修について述べた。まず全体的な傾向として、「新卒のエンジニアは、大学時代にプログラミングや開発手法について学んだことがある人が多い。そのため、このあたりの研修は配属後でもなんとかなる」とした。その一方で「テストや品質を学んでいる人は非常に少なく、教えてくれる人も少ない」という現状があるという。
そのため研修では非常に基礎的な部分から教えたうえで、会社に依存しない一般的な内容を伝えるという。たとえば2日間の研修においては、1日目でテストの基礎について伝え、2日目でTDDやモブワークを行う形をとっている。さらにスクラム研修では、前日までに作ったテストコードをどう改善すればいいかといった議論を行ったり、研修中に発生した問題を解説したりするという。
会社に依存しないことに加え、ワークを主体にするという方針を重視する風間氏。実際の取り組みについて、「ずっとインプットだけでは教える方も受講する方もつらいので、アウトプットとしてワークを組み入れている。とくにテストは絶対的な答えがないので、受講者同士で議論したり、ワークで発生した悩みについて解説したりして、思考を深めてもらう」と説明する。
さらに風間氏は、「研修の様子をつぶさに観察・分析」(及部氏)した実践例として、グループ分けの工夫や、受講者がつまずきやすいポイントを事前にケアする解説の実施、ワークショップ中の見守り/介入の線引きなどを挙げる。こうした工夫は「公開資料から読み取れないものばかり」だといい、「研修を運営することで、なかなか得られない経験を獲得できる」とマネジメント側の成長にも言及した。
続いて安井氏は、自らの経験から「人は経験から『学ぶ』生き物。他人が何かを『教える』だけでは、本当の意味では学べない」と私見を述べる。
「経験と理論は両輪だが、先に来るべきは経験だ。積み重ねた経験から抽象的な法則、いわば素朴理論(ある経験から概念を形成する考え方)のようなものが生まれ、それが世の中にある既存の概念と結びついたとき、人は何かを『理解する』。したがって理解にはタイミングが重要で、教える側が主体的に関われる範囲は限定的だ」。あくまでも学習者の主体性を引き出すことが、望ましい研修のあり方だというのだ。
主体性を引き出す工夫として、安井氏は研修にゲームを取り入れることが多いという。氏によればゲームは「学習の本質そのもの」だといい、「宝探しアジャイルゲーム」や「カンバンゲーム」、「心理的安全性ゲーム」など、オリジナルのコンテンツを次々に制作している。
「参加者が楽しみながらゲームに取り組み、夢中になっているうちに自然と上達していく。これはまさに学びのプロセスそのものだ。我々が教えられるのはルールだけで、楽しむ姿勢は教えられないという点も、学びの本質に合致している」(安井氏)。
研修にゲームを取り入れるメリットは大きく、実際に安井氏がアジャイルPBLを行った際は、文系出身の未経験エンジニアがいるチームでも、互いにフォローしあいながらユニークで魅力的なプロダクトを生み出し、動かすことができたという。
安井氏はその成果について、「ゲームを取り入れた研修での参加者の成長はめざましいものだった。分担も鮮やかで、アイディアを活発に出す人もいれば、技術にこだわる人、よりよいチーム運営について思考する人など、それぞれの個性が伸びていくのを見られた」と評価する。
ただしその一方で「反省点もあった」という。「PBLでチームワークやモノづくりを学んだ人よりも、Javaをガリガリ書ける人が欲しかったと指摘されたこともあった。新人のポテンシャルにコミットするのはもちろん、組織として期待される研修像を正しく把握することも欠かせなかった」。講演を通して語られてきたとおり、運営もまた、試行錯誤の連続なのだ。