災害が多い日本で、防災DXが「どこか他人ごと」な理由
前半の講演を担当するのは、システム開発やアジャイルコーチ、新規事業の立ち上げ、大学生への指導などに尽力する傍ら、防災DXのための自社サービス、ツールの開発に携わるkyon_mm氏だ。
初めにkyon_mm氏は、災害リスクが高まっている現状として、2023年に公表された気象庁の気候変動監視レポートを紹介した。これによると、土砂災害が発生しやすくなる「日降水量200mm以上」の日数は、50年前と比較して約1.5倍に増加しているという。日頃の雑談で「ゲリラ豪雨が多くなった」などと話すことがあるが、「体感だけでなく、数字として現れている」ことがこのレポートからは読み取れる。
しかしkyon_mm氏個人はというと、「災害リスクを体感出来る状況には全くなかった」という。「生まれ育った北海道旭川は内陸の盆地なので、台風も地震もほとんどなかった。東京で東日本大震災には遭ったが、幸いなことに深刻な被害は受けずに済んだ。そのためか、防災というトピックはどこか他人ごとのままだった」というのが率直な感想だ。
そんななかkyon_mm氏は、業務で防災DXに取り組むことになる。そして地方自治体、住民、防災サービスそれぞれで課題が山積している現状を目の当たりにしたという。
「あまり知られていないことだが、自治体人口の中央値は3万人程度だ。この規模感を描写するなら、『市内のチェーン店カフェは駅ナカの1店舗のみ』という風景をイメージしてもらえばいい。そしてこうした自治体の課題は、何より予算不足だ。人口減少により税収が少なく、システムを導入することすらできない」。
さらに、よしんば予算があったとしても、市民に対してどのようなシステムを入れればいいのか、どういった改善をしていくべきかといったニーズの把握もできていないのが実態だとkyon_mm氏は語る。
住民側の課題は、大地震への対策が頭打ち気味になっている点だという。kyon_mm氏自身がそうであったように、被災を経験した人ですら数年後にはモチベーションが低下してしまう。なおかつ公共サービスへの期待感も低く、「住民の方にインタビューしてみると、『欲しいサービスはない』とおっしゃる。しかし実際に『ない』わけではなく、期待するのを諦めているだけだ」とkyon_mm氏は苦笑する。
防災サービス側の課題としては、自治体の予算が少ないため、スクラッチ開発はできてもSaaSとして大規模に展開するモチベーションが出てこない実態がある。
このように防災DXは、エンジニアリング面を解決すれば即座に促進されるものではない。だからこそ、ニーズが掘り起こしにくい、予算が少ないといった問題を総合的に変革する必要があるとkyon_mm氏は強調する。
「エンジニア視点だとデジタルアセットに目を向けがちだが、せっかく作っても予算を確保できない自治体には売れないし、防災に対してモチベーションが低い人には使ってもらえない。さらに、そういうものを総合的に支援できる会社も少ない。ステークホルダー全てに対してトータルでサポートしていかなければ、防災DXは進まない」。
防災DXには、「点」ではなく「面」での対策が求められているのだ。