防災にはどのようなシステム・データが関わってくるのか
続いて、2023年6月まで経済産業省や内閣府などで防災分野、環境エネルギー、サイバーセキュリティ分野の政策立案に従事した経験を持つ山田氏が、国の防災DXの現状について解説した。国の防災DXは、大きく分けて「防災情報システム」「災害対応情報」「多様なシステム」の3種類に分類できるという。
1つ目の「防災情報システム」については、国が災害時情報集約支援チーム(ISUT)サイトと総合防災情報システムを提供する一方で、自治体ではそれぞれが独自に開発を行っているという体制だ。このため、データ連携が難しいのが長年の課題だったという。
この課題を解決するため、総合防災情報システムに関しては現在改善が進んでおり、来年度には運用開始になる予定だ。「操作性が大幅に良くなるとともに、自治体も使えるようになるのはメリットだ」と山田氏は説明する。
一方で、現状では課題も多い。たとえばISUTサイトは研究用システムを使用しており、サーバーが一つしか存在しない。このため、サーバーのあるシステム拠点(つくば)が被災すれば、システムを使用できなくなってしまう恐れがあるというのだ。
また、このような有益な情報が国や自治体から提供されているにもかかわらず、それが十分に周知されているとは言えない実情もある。「いろいろなところで宣伝したが、『すみません、独自で契約してしまいました』と言われてしまった経験も多々ある」と山田氏は反省を込めて回顧する。ISUTサイトを始め、政府の取り組みはかなり先進的なものも多いが、広報にも重点を置く必要があるというのが山田氏の見立てだ。
2つ目の「災害対応情報」は、各自治体がそれぞれ独自に運用しているのが何よりの課題だ。これにより自治体ごとの情報にバラつきが生まれるのはもちろん、情報の項目や構造がバラバラなため、情報集約が難しくなっているという。そして情報集約ができないと、民間企業による新たなデータ活用もしづらくなる。
山田氏はこの課題への対応として、「どのような情報を最低限共有すべきかをまとめた災害対応基本共有情報(EEI)第1版が公表されている。データ構造などのバラつきなどについても、今後調整が整い次第公表される予定だ」と説明する。さらには近年、存在感が高まりつつある防災IoT(ドローン、監視カメラ、センサーなど)を積極的に活用する方向でも検討が進められているとのことだ。
3つ目の「多様なシステム」は、り災証明書発行システムや物資調達・輸送調整等⽀援システム、Lアラート(※1)といった用途別のシステムを指す。今後はこれらの既存システムを可能な限り生かしつつ、現地の作業負荷を減らすためのシステム開発・運用、およびそれらを使いやすいよう連携していく見込みだ。
(※1)Lアラート:災害発生時に、地方公共団体等が、放送局・アプリ事業者等の多様なメディアを通じて地域住民等に対して必要な情報を迅速かつ効率的に伝達する共通基盤のこと。
また災害に際して役立つ仕組みとして、山田氏は内閣府が自治体向けに有料で提供しているクラウド型被災者支援システムを紹介した。これにより災害時のり災証明書発行などが迅速化されるのはもちろん、平時から避難行動要支援者の名簿を入れておけば、災害時の迅速な避難誘導に役立てられる。そのほか、避難所関連システムとの連携や災害時の支援金などにも対応することを目論んでいる。
「国が提供する多様なシステムと情報を活用し、民間サービスにおいてもサービスを拡充していってもらうことが望ましい」。山田氏はそう期待を語る。