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Developers Summit 2024 セッションレポート

生成AIを活用した機能を爆速でリリースしてみてわかった、エンジニアが将来の技術革新に備えるべきこと

【16-B-4】生成AIを搭載したプロダクト開発~少人数で爆速リリースしてわかったこと~

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リリースまでに何をする必要がある?

 「あとはやるだけ」の環境は整えたものの、「実際に開発を始めてみると、さまざまな壁に直面した」と渡辺氏は振り返る。

 最初の難関は、生成AIの精度の問題だ。よく知られている問題だが、生成AIはあたかも真実のように嘘の回答をすることがある。一方、契約書というものは、一言一句に至るまで神経を尖らせなければならない文書だ。生成AIによる回答が趣旨とずれていれば、会社の信用を落としかねない。「そのようなリスクがあるなかで、本当にプロダクトに使えるのか悩んだ」と渡辺氏は話す。

 この不安要素に対して渡辺氏は、社内の弁護士に協力を依頼し、生成AIの精度を確認することにした。整えたのは、対象となる文章をスプレッドシートに記載すると裏側で生成AIが呼び出され、修正案を提案してくれる仕組みだ。ここでの提案が実用に足るものかを3段階で評価してもらい、慎重に検討を進めた。

スプレッドシートを使用してChatGPTの出力の精度を弁護士に確認してもらった
Google スプレッドシートを使用して生成AIの出力の精度を弁護士に確認してもらった

 この他、セキュリティ対策としてのプロンプトインジェクション(※)、API調査、生成AIのモデル選定なども実施。最終的に、APIはAzure OpenAI Serviceを採用、生成AIのモデルは速度とコストの面から2023年2月時点で最新モデルだったGPT-3.5 Turboに決定したという。

 ※対話型AIや自然言語処理(NLP)モデルに対する攻撃の一種で、攻撃者が特定の入力(プロンプト)を用いてAIモデルの動作を操作し、予期しない結果を引き出そうとすること。

 生成AIの調査が終わり、続いては社内外の調整だ。まずは社内外の多くの人が不安に感じているであろう、生成AIと「セキュリティ」の問題について。「セキュリティ面に不安があるサービスは使えない」という声に対応するため、渡辺氏はAzure OpenAI Serviceの規約や機能を隅々まで読み込んだ。すると「Abuse Monitoring」という仕組みについて、「入出力の内容を30日間サーバーに保持し、不正利用がないかをMicrosoftの従業員がチェックする」と書かれていた。

 契約書をレビューするために、「LegalForce」へアップロードされる契約書は、秘匿情報に当たる。「情報流出リスクを懸念するユーザーに、このままではおそらく使ってもらえない」と危惧した渡辺氏は、プロンプトの内容が保存されないよう「Abuse Monitoring」の設定をオフにする申請を行った。これにより、Azureサーバー上には契約書の情報が保存されなくなり、データの中身を見られない状態が確保されたのである。

デリケートな情報を扱うにあたり、セキュリティ面への配慮は必須だ
デリケートな情報を扱うにあたり、セキュリティ面への配慮は必須だ

 これと前後して、特許・法律についても入念な調査を実施した。「どれほどいいアイデアでも、誰かの特許を侵害するようなイリーガルな機能はリリースできない。先行して誰かが作っていないかどうか、社内の知財担当と社外の特許事務所が連携して確認した。これにはだいたい2週間から3週間程度かかった」。

 さらに、社内の規約についても見直しを進めた。Azure OpenAI Serviceを自社プロダクトに搭載するのが初めてだったこともあり、当時の規約のままでは顧客から取得した情報の取り扱いについて規約違反が発生してしまうため、リリースできないことが発覚したのだ。このため、新しい規約と機能を利用するための同意書を作る必要があり、社内外の弁護士と連携して調整を行った、と渡辺氏は話す。

 このような社内外調整を進める中で、渡辺氏がとくに「やって良かった」と評価するのが、一問一答形式でNotionにまとめたFAQだ。

 当時、ユーザーは生成AIに対して「自社のデータが学習されてしまうのではないか」「もしかすると他社の生成文に、自分たちの契約書の内容(社名など)が意図せず盛り込まれるのではないか」などの不安を抱いていた。これらの問い合わせは営業経由で渡辺氏のもとに次々と届いた。

 「わずか3か月の開発期間で、メンバーは2人。質問にすべて回答していたのでは、それだけで1日が終わってしまう。そこで想定される質問や仕様を全てNotionにダンプ(蓄積)していった。これは良き先行投資となり、おそらく2週間くらいに相当する作業時間を確保できたと思う」。

 すべてのクリティカルパスをクリアにし、無事に3か月後、2023年5月30日に「条文修正アシスト機能」を提供開始した渡辺氏。驚くべき快挙だが、話はまだ終わらない。渡辺氏は同機能の開発について、「リリースすることがゴールではない」と強調し、こう続ける。

 「生成AIに対して不安を感じる人が多いなか、ただプロダクトをリリースしてもおそらく使ってもらえない。そうなれば、3か月の苦労は無に帰してしまう」。

 このような思いから渡辺氏は、自らユーザーの前に立ち、プロダクトの機能面の説明、ユーザーの情報が学習に使用されるリスクがないことを説明して回った。ユーザーに「自分(自社)の成長と飛躍を助けるための、信頼できるパートナー」と心から認識してもらうのが目的だ。

 努力の甲斐もあり、ユーザーからは「不安に思っていたことが解決できた」「AIの注意点もわかりやすかった」「ChatGPTは今まで会社で禁止されていたが、こういう使い方であれば大丈夫だと上長に話してみようと思う」など、概ね良い反応を得られたという。誠実に向き合う姿勢が、顧客にも届いたのだ。

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少人数による爆速の開発経験から得られた知見

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この記事の著者

水無瀬 あずさ(ミナセ アズサ)

 現役エンジニア兼フリーランスライター。PHPで社内開発を行う傍ら、オウンドメディアコンテンツを執筆しています。得意ジャンルはIT・転職・教育。個人ゲーム開発に興味があり、最近になってUnity(C#)の勉強を始めました。おでんのコンニャクが主役のゲームを作るのが目標です。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

丸毛 透(マルモ トオル)

インタビュー(人物)、ポートレート、商品撮影、料理写真をWeb雑誌中心に活動。

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CodeZine編集部(コードジンヘンシュウブ)

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